第6話
‡第六話‡
それからの1週間は、イーナたち兄弟にとっても、ワコジーにとっても、楽しく有意義なものとなった。
レラッカたち三人は、イーナたちをあちこち連れ回し、色々な人に会わせてくれた。どの子も個性的な面々ばかりで、彼らと話すたびに、イーナの顔が少しずつ柔らかくなっていった。
「おはよーイーナ♪」
「はよ。あれ? あの魚ヤローはどーした?」
「ヴィータおはよ〜!」
そして今日もまた、6人で遊ぶ約束をしていたのだが……
「今日な、ワコジー、青派に『カオミセ』に行かなきゃいけないんだ。だから、今日はこれない」
淡々と説明するイーナに、レラッカが不思議そうな顔をする。
「あいつ、青派に入んの? あ、あれだ、マヤン様の作戦だなー?」
「うん、母ちゃんが、みってーもがっ!」
「こらヴィータ! 言っちゃだめ!」
ア・ヤカの隣でなにやらうきうきしているヴィータの口を、イーナが慌てて両手でふさぐ。
「やっぱしな……ま、いーや、青派だろーがあいつはあいつだろ、気にしねーよ」
本当に何も気にしていない口調でそう言うと、タクは皆に提案した。
「んじゃ、今日は探険はいったんやめて、また公園で遊ぼうぜ!」
公園は今日も、子供から大人まで、楽しそうな人々で賑わっている。
公園の中に作られた小さな丘の上に車座になり、イーナたちはまた話に花を咲かせていた。
「なぁ、たーくん」
タクくん、と言うのが言いづらくて自然、舌足らずな呼び方をしてしまうイーナに、タクが穏やかな目を向ける。
「あ?」
「それ、なんだ?」
イーナが指差すのは、タクが腰にぶら下げている不思議な飾りだ。
「あーこれか。タクの憧れの人のカタミだよ!」
レラッカがその飾りを指でいらいながら答える。
「あこがれのひと?」
ア・ヤカと一緒に花輪を作っていた手を休め、ヴィータも尋ねる。
「ああ、俺のオジサン。父ちゃんの弟だ」
レラッカにされるがままになっている飾りをぼんやりと眺め、どこか哀しげにタクがつぶやいた。
「すっげーかっこよくてさ……村でも人気のモランだったんだ。オジサンの槍さばきは、みんなの憧れだったんだぜ!」
「うんうん、かっこよかったよね! アンタのおじさんじゃないみたいで」
「うっせー!」
レラッカのおでこをぺちっと叩くと、タクは自由になった飾りを握り締めた。
「これ、オジサンの使ってた槍先なんだ。オジサン……半年前に、死んじまったんだ」
「あ……そうだったのか」
顔をわずか曇らせるイーナに、タクは明るく答える。
「お前がそんな顔すんなよ! オジサン、族長を守って、モランの誇りのもとに死んだんだからさ!」
「え……?」
「黒派とか言ったっけ? あいつらの一人にな……俺、立派なモランになって、あいつらに敵討ちしてやるんだ!」
凛とした声で決意を表すタクにしかし、レラッカがすかさずつっこむ。
「アンタばかぁー? この前、黒派はカイメツしたっておふれでたじゃん!」
「そーだよ〜ヴィータがきたひにいわれたよ〜」
ア・ヤカにまで言われ、タクが気まずい顔をする。
「だ、だーからっ! そのくらいの意気込みでっつーことだよっ!! ……ん? お、おい、イーナ?!」
「ちょ、だいじょうぶ?!」
「イーナちゃん〜?」
「に、兄ちゃん?!」
小刻みに体を震わせるイーナの美しい顔は、血の気がひいて真っ青になっていた。
[続く]