第3話
‡第三話‡
「マヤン……バレバレすぎやしないかねぇ……」
マヤンの発言に、さすがのジンも厳しい表情を浮かべる。
コレから先も確実に、ワコジーとイーナ、そしてヴィータの友情は続くだろう。
青派の連中だって、今はまだ子供だが、クホやアナキアあたりがそれに気付かないほどバカだとは思えない。
せっかく助けだした少年たちに、さらに茨の道を歩かせるなんて……
「そんなに深刻にならずとも、大丈夫ですよ」
しかしマヤンは、思考の読めない瞳を細めて言葉を続ける。
「確かに密偵としての役目も担ってほしいとは思います。でも、それ以上にワコジーくん、君やイーナたちには、青派と赤派の懸け橋になってほしいのです」
「で、でもイーナやヴィータはともかく、俺なんて完璧ヨソモノだ……っすよ?!」
「だからこそです」
ワコジーの反論に、マヤンは淡々と答えた。
「君たちと同世代の子らは、生まれた時から赤派と青派の対立の中にあり、わけもわからず憎しみあっている……そこから憎しみの種を取りのぞくのは、容易なことではありません。ですが、君ならば客観的に、公平に、二つの派閥を見ることができる。そしてイーナとヴィータは知りすぎているからこそ、その争いの虚しさや哀しさを理解できる。そう、思いませんか?」
最後の一言はジンに向けられる。
「(うそだな……)」
表面上、神妙に頷きながらも、ジンは頭の中でそうつっこんでいた。
基本能天気で温厚な赤派の連中は、何も好きこのんで青派を憎んでなどいない。青派に友人を作ってしまうような者もいるほどだ。結局は、平和が一番と考えている証拠だ。
だが、青派は違う。青派の連中特に幹部クラスには、明確かつ危険な信念がある。
この溝は、もはやヨソモノだろうがなんだろうが、埋めようがない。
「(まぁ、お互いまだ子供だ……)」
そう割り切ると、ジンはさっそくマヤンに提案した。
「それはわかったが、ワコジーはどこに住まわすんだ? 青派に入るとなると……軍隊寮しかない気もするがねぇ」
「ええ、私もそれしかないと思いましてね。もうワコジーくんの部屋を確保しておきましたよ」
「はやっ! つか寮ってなんすか?!」
シャマイ村には、モランたちの軍の大規模な訓練場がある。
普段モランたちは決められた時間そこを拠点に訓練や雑務に励み、給料を支給される。
だが、家が遠い人や家族がない者のために、特別に男女それぞれの寮が設けられているのだ。
「本当は15歳以上じゃないと入居できないんですけどね、私が話を通しておきましたから大丈夫。生活必需品はもう全部搬入してありますから、今からでもすめますよ」
そのあまりの手際よさに怯えながらも、ワコジーは
「ありがとうございます」と頭を下げた。
その後、もう夜も遅いと言うことで、イーナとヴィータはマヤンの家に、ワコジーはジンに連れられて寮に、それぞれ帰ることとなった。
「あとの細かいことは全部私に任せて、君たちはまずこの村に慣れることです。幸いにも今は夏休みですし、友達も作りやすいでしょう」
マヤンの家への道と、寮への道の分岐点で、マヤンが三人の子供たちにそう言った。
「夏休み? ……まぁいーや。イーナ、ヴィータ、明日の朝遊びに行くからさ、一緒に村まわろうな!」
疲れた頭でこれ以上考え事をするのはあきらめ、ワコジーはイーナとヴィータに約束をとりつけた。
「わーい!! あそぼ、あそぼ!!」
はしゃぐヴィータに、イーナも少しだけ穏やかな顔で頷いた。
「うん、そうしよう……あ、ワコジー!」
そして何かを閃いたようにワコジーに歩み寄り、
「お休み、また明日な!」
「っ……お、おおっ!!!」
イーナはすっかりそれが正式な挨拶だと思い込んでいるのだろう。
が、真面目な顔で唇を押しあてられたワコジーのほうはと言えば、恥ずかしさと、認めてはいけない気がする感情とで、顔から火が噴き出さんばかりになっていた。
「羨ましいよワコジー……おじさんもしてほしいなぁ……」
「だ、誰がさせるかっ!!!」
どこか拗ねた声で呟くジンの横腹に軽くパンチをいれ、ワコジーはイーナたちに手を振ると、寮への道を足早に歩き始めた。
「(どうしよう……男なのに……かわいすぎるっ……)」
[続く]