第2話
‡第二話‡
「君たちの処遇について、話があるのです」
マヤンは抱き合う兄弟とワコジーを見ながらゆっくり言った。
「しょぐう……お、俺たちやっぱり……」
マヤンの真っ黒な瞳に言い知れぬ不安を感じ、イーナは弟を抱き締める腕に力をこめた。
「ああ、そんなに心配しないでください。君たち兄弟は赤派に迎え入れます……私の養子としてね」
「よう、し?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるイーナの肩にさりげなく手を置きながら、ジンが頷く。
「子供、って意味さ……なるほど、いい案だな」
「子供……俺たちが、あなたの、子供に?」
「ええ。私にも家族がない、君たちにも家族がない。ならば私たちが家族になればいいことですよ」
瞳をわずか輝かせて喋るマヤンに、イーナとヴィータは顔を見合わせた。
「ヴィータはどうだ?」
「ぼく……ぼく……兄ちゃんがいればさみしくない、けど、やっぱり母ちゃんもほしい!」
笑顔を浮かべるヴィータに、マヤンも嬉々として頷きまくる。
「ええ、ええ、そうでしょうとも! 君たちはまだ幼いのですから! イーナくんも、もう一人ですべてを抱え込む必要もなくなりますよ!! 家族とは、そう言うものです。もう安心して、誰かに頼っていいのですよ」
そしてマヤンは兄弟に歩み寄ると、二人を抱き締めた。
「今までよく、耐えぬきましたね。でも、もう哀しい想いはしなくていいんですよ……」
「かあ、ちゃん……」
「母さん……」
マヤンの腕のなかで、まるで堰が壊れたかのように、二人は大粒の涙を流し、声をあげて泣きじゃくった。
「うん、いいな……」
イーナの泣き顔を見つめながらなにやら満足気にうなるジンを、ワコジーは思いっきりこづいた。
「おいおっさん! あの女、なんなんだ? つか俺、忘れらてねーか?」
「あの女はマヤン・ミラキ。シャマイ1の呪術師にして、族長に次ぐ権力を握る宰相だ。……不思議なんだが、いつのまにかシャマイに現われて、何百年もあの姿でいるらしい……」
「そ、それって……」
空恐ろしくなり、ワコジーは深く考えるのをやめた。
「さて、ワコジーくん」
「は、はひ?!」
なぜかマヤンの声に恐怖を覚え、答える声が裏返る。変声期だししょうがない。
「よくぞこの二人を助けてくれました……以前から黒派が幼い子供を暗殺者にしたてあげている、と言うのはわかっていたのですがなかなかどうすることもできず……本当にありがとう」
「は、はぁ」
恐々と頷くワコジーに、兄弟の背をさすりながらマヤンはさらに言葉を続けた。
「この子たち同様、我々シャマイはあなたのことを歓迎します。これからはあなたも、我々シャマイの一員として実りある人生をすごしてください」
「あ、ありがとうございます!」
てっきり追い出されるかと思っていたところだが、予想外にやさしい言葉をかけられ、ワコジーは深々と頭を下げた。
「マヤン、こいつも赤派にいれるのか? なんなら自立するまで俺のとこに置いてやってもいいが……」
ジンが眼鏡の位置を直しながら尋ねる。
「ええ、それについてなんですが……先程ワコジーくんのお父様にお会いして、お礼を申し上げてきたんです」
「へ? いつの間に?!」
ワコジーが父と別れてからここにたどり着くまで、そんなに時間はなかったはず……
「うるさいですね、あなたは気にする必要はありません」
ぼそっとマヤンがつぶやくと、ワコジーの腹が盛大に鳴った。
「う゛……」
悶絶するワコジーを無視して、マヤンが続ける。
「それで、陛下がですね、『あいつは皇太子な上に末っ子だから甘やかされて育ってきた。だからこれからはビシバシ鍛えてやってくれ』と直々に私に……」
「く……くそおやじぃっ……!」
またジンが笑いだすのを横目に、ワコジーはマヤンに尋ねた。
「そ、それで俺は、どうすりゃいーんすか?」
「ふむ。君には……」
マヤンの瞳が、怪しく輝いた。
「赤派側の密偵と言う形で、青派に入ってもらいます」
[続く]