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真夏の悲劇 前編

「 青春は甘酸っぱい」とはよく言ったものだ。青春ものの学園生活がメインのドラマなどでは文化祭や体育大会のようなイベント、恋愛にうつつを抜かし、ときには壁にぶち当たるがそれを乗り越え成長し立派に卒業する。確かにそんな高校生活は甘酸っぱい。ただ現実はすこしほろ苦いものだ。





 それは夏休みの終盤、部活仲間と共に文化祭の練習をしていたときのことだった。暑い教室。夏休みが終わると一週間もたたないうちに文化祭があるので、みんな暑い中練習に励んでいた。


「だから、衣装が無いの! だれかどっかに隠したでしょ! 早く出しなさいよ!」



  彼女は校舎中に響き渡るような声でそう言った。彼女の名前は三島 春。演劇部所属の1年2組。俺と同じクラスだ。誰の目から見ても綺麗な部類に入るがその騒がしい性格がたまに傷である。



「落ち着けって三島、まだ誰かが隠したって決まったわけじゃないだろ」


  演劇部部長の高坂先輩が三島をなだめる。優しく優柔不断なところに定評がある俺と三島より一つ年上の男性だ。


「でも部長……机の上に衣装が置いているのを確認してから部室を出たんですよ?」





 事の発端は30分前、朝から練習をしていた俺たち演劇部は昼休憩のため食堂に向かっていた。文化祭前の準備でだいたいの学生は自分達の出し物の練習のために登校していたので、食堂のおばちゃんのご好意により夏休みにもかかわらず食堂を開いてくれていたのだ。食事が終わり、先に三島と部室に戻ったときに三島は一言


「ねぇ……。私の衣装、机の上に置いていたわよね」


 俺たちは必死に衣装を探した。が出てくる気配は微塵もなかった。


 数分後には高坂部長たちも戻ってきた。高坂部長、1年3組の秋田 撫子、5組の高坂唯、三島、そして俺の5人でさらに探したのだが見つからない。しばらくすると三島が言いだした。「だれか隠したでしょ……」と。



「あたしは違うわよ!」


  秋田はそう言い放ったあと静かに三島を見た。揺れる長い黒髪、後ろ姿から彼女はすこし震えているのが悟れる。人を疑うなんて最低と言いたげそうに。


「衣装が無くなったのはあたしたちが食堂に行ったあとのことでしょ? あたしはずっと食堂に居た。アリバイがあるわよ!」


 秋田の言うとうり、俺たちは全員食堂に行っていた。一階の食堂に居たのにどうやって三回の教室にある衣装を盗めるのか。秋田は看板メニューであるコロッケ定食を食べながら高坂部長と談笑していて別段不審な行動も起こしてないし、犯人ではないだろう。高坂部長もしかり。

 すこし考えたあと、三島は口を開き、こう言った。


「なら……唯と小鳥遊なら衣装を隠せるんじゃない?」


 そう、高坂部長の妹であり次期部長の唯と俺、小鳥遊颯太。二人は一度席を立っている。俺は食堂について5分後に2階の自動販売機にコーヒーを買いに行き、唯は昼飯を食べ終わるとトイレに行っていたのだがどちらかが嘘をついて本当は教室に行っていたとしても不思議ではない。まぁ俺は本当にコーヒーを買いに行っただけなのだが。



「ち、違うです! 唯はお手洗いに行っていただけです!」


  高坂唯は否定。


「俺も自販機でコーヒーを買ってすぐ戻ってきたぞ?」


  小鳥遊颯太も否定。となると否定も肯定もしていないのは高坂部長だけなのだがこの人は犯人ではない。これは断言できる、素直が唯一の取り柄である部長が衣装を隠すなんてだいそれたことは出来ないだろう。三島もそう思っているのか部長を疑う様子はない。というか部長をはじめ、この中の誰かが隠したとしても誰も得しないのだ。


「とりあえず犯人探しよりこれからどーするか話し合わないか? 秋田君、三島君の衣装はまた作れるかい?」


  部長はいつでも冷静に物事に対処できる人だ。このまま犯人探しをしていると部活内が混乱し最悪の場合文化祭の公演に支障をきたすと察したのだろう。衣装係の秋田は言う。


「……ほぼ不可能ですね、文化祭まであと5日しかありません。夏休みが終わるのが明日、布を発注して届いてから縫い始めるので最低2週間は必要です」


「そっか……なら三島君には衣装なしで出てもらうしかないね」


 ずっと話を聞いていた唯が口を挟む。


「兄さん忘れたのですか? 舞台にはリハーサルのときと同じセリフ、同じ衣装で演じなければならないのです!」


 5年前、ある部活が文化祭の舞台でコントをしたとき問題が起きた。その部活はリハーサルのときはちゃんとした衣装でコントをしていたのだが本番、彼らは刺繍入りのボンたんを来て舞台へとあがった。このことは現在の校長の逆鱗に触れてしまい、以来いかなる理由があろうとリハーサルと少しでも違う衣装で舞台へあがることを禁じられたのだ。校長はこの件にはかなり厳しい措置をした。



「そうだったね。忘れていたよ唯、リハーサルは先週見てもらったし、このままだと棄権するしかないか……」



 全員沈黙するしかなかった。夏休み、演劇部は文化祭のために一生懸命練習してきた。棄権するということはそれがすべて無駄になるということ。なにかが弾けたように、その沈黙はずっと続いた。しばらくしてから部長が重い口を開く。


「今日はもう解散しようか。また明日話しあおうよ。まだ棄権すると決まってわけじゃないんだからみんな気を落とさずにさ」


 三島がそうですね。と返事をする。三島の衣装が無くなったのだ。三島自身のショックは計り知れないものだろう。

 その日はそこで解散した。俺は帰り道に思った。あの女にだれが犯人か推理してもらうか……と。
















 


 

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