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9.お茶会

 真っ白な生クリームでデコレーションされイチゴが一粒だけ乗ったプチケーキ。

 赤いジャムを中央に落としたクッキーや、シンプルなココアやプレーンクッキーの盛り合わせ。

 スコーンと付けあわせに色とりどりなジャム。

 好きなものをたくさん並べたテーブルはぎゅうぎゅう詰めで、自分でも少し呆れる程の量が乗っている。

「少し多かったな」

「少し……?」

 テーブルに並ぶ品々を見た少女は顔に戸惑った色を見せる。確かに二人で食べるには少しと言わず、とても多かったかもしれない。

 見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。

 ちらりと少女の顔を盗み見ると、戸惑いからどこか楽しそうな顔に変わり、目をきらきらと輝かせていた。

「たくさんだけど、おいしそう」

 そう言ってひっそりと咲く花の様に笑う姿に、用意したこちらも嬉しくなる。

「きっと美味しいぞ?イメージしているのは私が好んだものばかりだからな」

 伊達に王女なんてやっていない。色々な物を食べさせていただいたから、舌は肥えている方だと思う。

 用意したのは自分が気に入ったものばかり。ハズレは無いはずだが、相手の口に合うかどうかは少し心配だ。

 少女はそっとクッキーを摘まむと躊躇いなく口に運ぶ。噛んだ瞬間にサクッ気味の良い音がした。そのままもぐもぐと咀嚼している姿はまるで小動物だ。

「美味しいか?」

 訊ねてみるとこくんと頷き、口の中が無くなってから「おいしい」と言って笑う。

 その姿が可愛らしくいつまでも見ていたい気持ちになった。

華月(はづき)は食べないの?」

 一つ二つと更にクッキーを選んで食べる少女を眺めて満足していた私は、言われてからやっと自分が何にも口を付けていない事に気が付く。

 何を食べようか思案し、プチケーキを選んだ。

 フォークで一口サイズに切り、端から食べていく。さっぱり目のクリームとしっとりとした生地が口の中に広がる。甘すぎないこの味が好きだった。

 懐かしいと思いながら食べていると、今度は少女がじっとこちらを見ていた。

「どうした?」

 いつの間にか私と同じプチケーキを食べている少女は、こちらを見ているというより、皿の中身を不思議そうに眺めている。

 何を見ているのだろうと目を追っていると、端によけていた苺に辿り着いた。

「苺、嫌いなの?」

 不思議そうに言う彼女のケーキには既に苺は見当たらない。好きなものは初めに食べてしまうタイプなのか、苦手だから先に食べたのか。

 どちらだろうか、と考えつつ「いいや」と首を横に振る。

「苺は好きだよ。そうじゃなきゃ、ここに出していないさ」

 なにせ好きな物だけをこのテーブルに広げているのだから。苺が嫌いならばわざわざここに出したりはしない。

「好きなものは最後に味わうタチなんだ」

 そう言って残していた苺にフォークを突き刺し、口に運ぶ。

 だが、じぃっと見つめられると食べ難い。

「……視線を外してもらえるかな?」

「あ、ごめんなさい」

 少女は慌てて視線を逸らすが、それでもちらちらとこちらを盗み見る。

 なんか見覚えがあるな、この感じ。

 そう思って記憶を辿ってみると、すぐに見つかった。たしかあの子は苺が好きだった。そして、ケーキなどに乗ったものも物欲しそうにこちらを見ていたものだ。

「もしかして、苺が好きなのか?」

 少女は悪戯が見つかった子供の様に縮こまり、小さく頷いた。

 その姿が幼いあの子を彷彿させる。

「ほら」

 まだ口に付けていなかった苺を少女の方へ向ける。

 差し出された苺と、差し出す私に目を行ったり来たりさせる彼女に微笑んだ。

「あげる。食べなさい」

 驚いて目をぱちくりさせ首を勢いよく横に振ったが、有無を言わせない声で「食べなさい」と再度促すと、おずおずと口を開いて苺を咀嚼する。

 口を動かすにつれて強張った顔は徐々に綻んでいき、食べ終わる頃には幸せそうに笑っていた。

「おいしい」

「それはよかった」

 そう言って笑い返すと、少し恥ずかしそうに少女は顔を紅くする。

「ごめんなさい。華月の好きなものを取ってしまって」

 幼い頃のあの子を思い出して、急に再現をしたくなっただけのこと。

 しかし、しょんぼりとして小さくなる少女を見ていると悪いことをした気分になる。半ば無理やり食べさせたこと、小さな子供にするような態度を取ったことを考えると、謝るとしたら私の方だろう。

 だが、実際に謝るのかといえば何か違う気がするし、少女も納得しなさそうだ。

「聞きたいのはそれじゃないんだけどな」

「え……?」

「私は貴女に食べてもらいたいと思ったんだ。謝罪よりも違う言葉が欲しい」

 強引過ぎるだろうか?

 心配になったが、少女はきちんとこちらの意図を汲み取ってくれたらしい。

 最初、戸惑った顔をしていたが、次第に何かに気が付いたようにぴんと身体を起こし、柔らかに微笑む。

「ありがとう」

 そう、あの子もこうやってお礼を言ってくれた。

 懐かしい顔を思い出しつつ「どういたしまして」と言葉を返す。きっと、私も彼女と同じ顔になっているだろうと思いながら。

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