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18.悪い夢

 外が嫌いだった。何か集まりがある度に、悪意のある眼差しを向けられるから。

 何故そんな目で見られるのかわからなかった。

 母がいない時を狙ったように自分の傍で囁く大人達の言葉は難しく、理解できなくて……。けれど、良い事を言われていないのは表情や口調から、なんとなくわかっていた。

 白い髪に、真っ赤な瞳。

 周りの者は皆、濃い薄いはあるものの茶髪ばかり。年老いて色が抜けることがあっても、俺のように元から白髪である者はいない。

 瞳の色にしても、緑、青、紫など様々であったが赤色は全くいなかった。

 そんな他と違う色彩を持つ自分を異形のものではないか、本当に王家の血筋を引いたものなのかと疑う者。第四王子という事もあり、四という数字を死と絡め不吉な子だ、と蔑む者も多くいた。

 集まりには大人ばかりではなく子供も居たが、子というものは親を見て行動する。親が嫌悪し遠巻きにしている人間に近づくはずもなかった。

 力のない子供である自分は味方がいない中、ただ耐え忍ぶしかなかったのだ。

 母に助けを求めるわけにはいけなかった。

 ただでさえ忙しそうにしていたし、自分がその邪魔をしてはいけないと幼心に思っていたから。

 それに、母に言ったらより良くないことになると知っていた。

 一度だけ大人たちの言葉の意味を訊ねたことがある。哀しそうな顔をした母の質問に正直に答えたら、名前を出した人は次の日から見なくなった。

 他にも陰口を叩く人はいたが、少なくなったことを喜んだ。

 だが、それも束の間の事でしかない。

「お前のせいだ!お前のせいで僕の友達、いなくなったんだからな」

 集まりに顔を出さなくなったのは何も大人だけではない。その子供も来ることができなくなる。

 すると、いなくなった子の友人を名乗る子供から詰られた。

「お前が告げ口したせいだ!」

 今思えば、なんて傲慢なのだろうか。

 先に仕掛けてきたのはあちらだというのに、どうして責め立てられなくてはいけないのか。

 だが当初はただただ驚き、初めて怒鳴られたことで怯んでしまった。

 もちろん、大ぴらに子供が騒いだせいで何事かと母や他の大人も集まる始末。その中、何があったかなどを聞いた母は、子どもがしたことに平謝りをする親とこちらを睨んだままの子共々別室に連れていった。

 どんな話し合いがされたのかはわからない。ただ、また人が減った。

 そして、自分が母に何か言うと他の人に影響を与える事を知った俺は自然と口を閉ざす。

 誰かにまた怒鳴られるのは嫌だった。

 だから、話し相手のいなかった俺は、母にも言えずに思いを溜め込んだ。

 改善させることも発散する当てもなく、溜め込んで、溜め込んで、溜め込み続けて……気付いたら暗闇の中にいた。

 不思議とそこでは心が穏やかになれたためずっと居たいと望んだが、途中で景色が変わり、見慣れた天井に自分がベッドの上で横になっている事を知る。

 母が心配そうな顔でこちらを見ていたが、前後の記憶があやふやだった。

「気を失って倒れたと聞きました。どこか痛むところはありますか?」

 これでどこか痛いと言えば、より心配させることくらい分かっている。

「どこもいたくありません」

 首をゆるく振って答えると、一瞬母の顔が歪んだ。しかし、すぐに微笑み変わる。

「そう。少し疲れてしまったのかもしれませんね。ゆっくりおやすみなさいな」

 無理やり作ったような笑みを浮かべ、頭を撫でてくれた。

 どうして、そんな顔をするのだろう。

 わからない俺はただ言われるがままに目を閉じて眠りについた。きっとこれが初めて夢の世界とやらに触れた時の事だろう。

 眠っている時だけは何も聞かずに見ずにすむ。

 幼い俺はそれを知ってから、よく眠るようになった。

 具合が悪いと言っては、部屋に居てただベッドで横になる日々。次第に、起きている時間よりも寝ていることが多くなった。



 ある日、目を覚ますと傍にはいつもいない母がいて、抱きついてきた。

 どうしたのか、と訊ねるとどうやら自分は丸一日寝ていたらしい。

 心配かける事を良いことだとは思わなかったが、ここよりも暗闇の方がずっと落ち着けた。

 だから、性懲りもなく眠り続けた。

 無意識とはいえ何度も夢の世界に触れていたため、どれくらいで目が覚めるのかとか、現実と夢の時間軸を見極めながら寝たり起きたりする、などという芸当も出来る様になっていた。

 だから大丈夫だと、慢心していたのがいけなかったのだろう。

 いつの間にか、目を覚ませなくなっていた。

 早く起きなくては、と意識するがいつまで経っても目を覚ます気配がない。そろそろ起きなくては母に心配をかけてしまう

 だが、心のどこかで「それでもいいかもしれない」と思ってしまった。

 現実で嫌な思いをするよりも、何も無いここで静かに過ごす。母には悪いと思ったが、もう外に出るのは……自分を蔑んだ目で見る人達に会うのは嫌だった。

 だからずっと一人で蹲っていた。

 煩わしいことなど一つもない、この優しい暗闇の中で。目を閉じ、耳を両の手で塞ぎ、胎児のように丸まりながら。



 どれくらいそうしていただろうか。

 だんだんと自分というものを保てなくなった頃、声が聞こえた。

「お寝坊さん」

 空耳かと思って放っておくとまた聞こえる。

 なんなんだ、とだるい体を起こすと、思っていたよりも近くにその子がいた。

「やっと、起きた」

 そう言って笑う、自分と同じくらいの年の女の子。

「一緒に遊ぼうよ」

 差し出してきたその手を見つめるしか出来なかった。

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