バカ兄貴のせいで異世界迷宮に囚われた少女は脱出方法を模索する
「ようこそ、相田 要君。我が楽園の迷宮へようこそ」
扉の向こうではスキンヘッドの筋肉ダルマが最っ高に良い顔で立っていた。
「……」
私は何も言わず扉を閉めると部屋を見渡す。
目に入ってくるのは整理整頓された本棚とパソコンデスク。後はベットと衣類の入ったチェスト……いつもと変わらない自分の部屋だ。
部屋から廊下に繋がるドアだった場所を見る。
今までの素っ気ないドアと違い、竜の浮かし掘りなどが施された無駄に豪奢な扉になっていた。
改めて扉を開く。
「ようこそ相田 要君。我が楽園の迷宮へようこそ」
筋肉ダルマがさっきと同じ良い顔で立っていたので無言で閉める。
…… 一体何がどうなっているのっ?
うん、先ずは記憶に欠損が無いか考えてみよう。
私の名前は相田 要。残念だけどあの筋肉ダルマが呼んでいる名前で間違いない。
年齢は17歳で福島高校の2年生。家族構成は公務員の父さんと同じく公務員の母さん、それに大学生の兄を含めて4人家族。
昨日は合気道部の合宿を終え、帰って来てから母さんと話をした後ぐっすり眠って…… 起きたらこの状況だった。
うん、記憶に欠損は無い。となると寝てる間に何があったのかだ。
そうだ、扉がダメなら窓を開ければ…… あれ? 開ければ…… むぅ、窓が開かない。
……こうなったらチェストで封印してる兄貴の部屋に通じる引き戸を開ければっ!! 正直兄貴の部屋に入るのは躊躇われるけど…… 今はそんな場合じゃ無いし。……えいっ!!
「ようこそ相田 要君。我が楽園の迷宮へようこそ」
引き戸の向こうには殺風景な部屋が広がっており、その中央にスキンヘッドの筋肉ダルマが立っていた。
「……」
何なんだこいつわ……
めまいを起こしそのままチェストの上にうずくまってしまう。
「喜びたまえ、君は選ばれた存在だ。
この私の迷宮に挑戦することにより、君が望んでいた金銀財宝、不老不死、酒池肉林が思うのまま。
君が望んでいた異世界の迷宮世界がここにあるっ!!」
筋肉ダルマは私の心情などお構い無しに言い切ると、感動でふるえているのか号泣している。
と言うかさっきのセリフはなんだ? 私は金銀財や不老不死はおろか、酒池肉林なんて絶対に望んで居ない。
親のように安定した公務員になって、愛する人と慎ましく暮らしたいだけだ。どこからそんな戯言を聞いた?
「……ない」
「は? すまない。なんと言ったのか聞き取れなかった。もう一度言ってくれたまえ」
「望んでない」
「うん?」
「私はそんな事望んでないっ!!」
「HAHAHAHAHA、馬鹿を言いたまえ私はこれこの通り君の願いをかなえる為にやってきたのだぞ」
「だから私はそんな事望んでないってば!!」
「ならこれはなんだ!!」
筋肉ダルマは見覚えのあるノートPCと、そこに映った画像を私に見せてくる。
ノートPCは昔私が使っていた物だ。動きが悪くなってきたので処分しようとした時、兄貴が「サブに使いたいから貰っていっていいか?」と言って持っていって以降は兄貴のノートPCになったと言っても過言では無い。
そして映っている画像は……
「何これっ!?」
思いっきり引いた。
何? 兄貴ってば、いつも部屋に篭って出てこないと思ってたらこんなもの作ってたの!?
「これこの通り、自分を主人公としたゲームを作り上げるほどの熱の入れようではないか。
このゲームからは溢れるほどの情熱とやる気、そして迸る熱いパトスが溢れまくっているではないかっ!!」
そこには18禁と銘打たれたゲームの画像があり、製作者が兄貴の名前だった。しかも何? 題名は『モンスター娘を服従させる要タン』だって!?
とりあえずチェストの横においてあった置時計を掴み、PCに向かって投げつける。
「ぐはぁっ!? いきなり何をするっ!!」
何故か置時計はPCに当たらず筋肉ダルマの頭部に当たり、筋肉ダルマは噴水のように勢い良く血を噴出させる。
「何って!! その諸悪の根源を破壊するのよっ!!」
「何が諸悪か、これは貴様の熱い思いとパトスがぁふっ!?」
次に投げたこけしはPCでなく、筋肉ダルマの右目に直撃する。
「っはぁ~、はぁ~、お願いだからそれを私の物と思わないでっ!!」
「だが、このPCは間違いなく貴様の物で……」
「そうだけどっ!! もうそのPCは兄貴が使っている物なのっ!!」
「なんだとぉっ!?」
筋肉ダルマが驚愕の表情を浮かべPCが手から離れる。
よしっ!! 今こそねらい目。チェストの横においてあった加湿器を持ち上げるとPCに向かって投げつけた。
「まっ…… まさか、そんな事が起こるとは…… 遊戯の神たるこの私が…… そのように初歩的な間違いを起こしてしまうとは……」
筋肉ダルマは何かぶつぶつと言っていたけど、加湿器は見事PCにぶつかり、画面は大破し加湿器から漏れ出た水でPC自体も煙を上げて動かなくなる。
「ふぅ…… 証拠隠滅完了」
私は額の汗を流すと筋肉ダルマに向かって叫ぶ。
「という訳で、そのゲームは私とは無関係!!
迷宮とやらに招待するなら兄貴を招待してあげてっ!!
きっと兄貴は諸手上げて喜んでくれるし、私の精神衛生的にもとっても良いからっ」
人差し指を突きつけて言ってあげると、筋肉ダルマはのろのろと動き始めた。
「そっ…… そうだな。少年よ、すまなかった」
ん? 何か聞き捨てならない事を言われた気がする。等と思っていると筋肉ダルマは部屋中が揺れるほどの大声で叫んだ。
「うっ…… うおぉぉぉっ!!
こっ…… これはぁぁぁぁぁぁ!!」
なにやら壊れた"元"私のPCを両手に持ってわなわなと震えていた。
「あ、余りに不愉快だったから壊した」
ついぽろっとこぼすと、筋肉ダルマは凄い勢いで私へと詰め寄ってきた。
「あっ…… アンタ、なんばしよっとかぁ!!」
あら? 壊したのは不味かったのか? でも不愉快だし。……ねぇ? というか口調変わった?
「え~っと……」
私が答えに戸惑っていると、筋肉ダルマは更に叫んできた。
「この『モンスター娘を服従させる要タン』に込められた熱いパトスを暴走させる事で、もんのすごぉ~く似通ったこの異世界迷宮と回廊を繋いだとよ?
じゃけん、この『モンスター娘を服従させる要タン』が壊れたことでアンタ、元の世界に戻れなくなったとよ~!!」
……へ?
「あ~あ~、しかもPCに水まで入っちまって。こりゃ~再起不能やでなぁ~」
……マジ ……ですか?
「しゃ~ないっ。少年っ、おとなしくここで暮らしんさい」
筋肉ダルマが私の肩に手を置く。
「ちょっ!? まって。ここで暮らせって、私どうなるの?」
「このPCが壊れちまっただでなぁ。
ま、頑張れ♪」
「ちょっ!? 筋肉ダルマ?」
「おほっ♪ 筋肉ダルマってワシの事? ええ名前やね。
詳しいことは机に乗ってるPCに転送しとくさかい、読んだってや~」
筋肉ダルマはそれだけ言うと足元からじわりじわりと消えていく。
「ちょっ…… 筋肉ダルマ、どうしたの?」
「ワシ、熱いパトスが切れたから元の世界に強制送還されるんや、あとはあんじょうがんばりぃ~」
「ちょっ…… 筋肉ダルマっ!! 待って…… 私も元の世界に戻して~!!」
「すまん、無理や♪ 少年よ、頑張りやぁ~」
「ちょっ!! 待てっ!! 最後にこれだけは言わせろっ!!」
筋肉ダルマが笑顔で消えた後、私はこのおかしな空間に取り残される事となった。
相田 要、17歳。よく判らない理由で良くわからない場所に取り残される事になりました。
あと、筋肉ダルマよ、これだけは言っておく……
「私は女なんだよ。ばかやろー!!」
少々、他投稿作品の息抜きに何か連載作品のプロットでもと書き上げてみました。
他にも2作品投稿している為、どの作品を連載用に書き直しした方がいいか意見をいただければと思っています。