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番外その5 続・スーパー魔法少女エンジェルホイップ

「ねぇ、僕と契約して魔法少女にな……」

「「断る!」」

 悪のお仕事の休憩時間。アトスの休憩室でお茶を飲みながら一服をおいていると何処からやって来たのか銀子のもとに、またあの小動物がきた。そして間髪入れずに、断りを入れる俺。

 白毛に赤い目、リスとハムスターを足して二で割ったような外観をもっており、分かりやすく伝えるなら、某魔法少女に出てきてやたらと契約を迫ってくるアイツやや似ている。

 こいつの名前は「シューベー」というらしく、魔法少女になる契約をやたら薦めることも相まって、ますます某魔法少女のことを意識した存在にしか思えない。

 聞くところによるとなんでも、魔法の国から遥々とやってきて、地球の守護神たる魔法少女を増やすのが目的らしい。

「僕は、お前みたいな真っ黒タイツ人間に用はないんだよ。僕が用があるのはそっちの君。魔法少女にならないかい? 君のもつ魔力とセンスは申し分ないものがあるんだ」

 そりゃあ、強者揃いの組織の中でも幹部を務めている程の実力者だからな。

 だけどお前さんさ、肝心なことが抜けてはいないかい?

「私もあなたの誘いは却下するわ。私は悪の女幹部なの。そりゃあ女の子として、魔法少女の言葉にはドギマギするけど、『正義』のヒロインになるのはゴメンよ」

 この珍妙な生物はそもそも前提を間違えている。目の前に居るのは正義とか使命感に燃えるような善良な一般人とかではなくて、野望に燃える悪の組織の一員なのだ。

 歓悪徴善ならともかくのこと、どうして正義の側に回らないといけないのか。

 それにまだ、間違えていることがもう一つある。

「でも私、もう魔女なんで……」

 白谷銀子とは表向きの姿、悪の組織に仕える裏の姿は『冽氷』の魔女シニードリン。

 そう、魔女なのだ! 「魔法少女」から「法」と「少」を抜いただけ。

 得意な術は氷結魔法。すでに魔法とか、今更契約なしで使えちゃうのだ。

「なん……だっ、て……!?」

 シューベーさん。そこで初めて知ったみたいな驚きの顔をされても……。前に初めて会った時に、その旨は伝えたはずだよね?

「綿密に組まれた僕の魔法少女計画が……」

 いやいやアンタ、基礎からなっちゃいなかったよ。

「この僕を論破されたからといって、諦めたと思うなよ! この僕を追っ払っても、明日、明後日には、第二第三の僕がやって来るんだ。……でもまあ、僕もたった一人にかかりきりって訳にもいかない。契約を結ぶ以外でも、僕にはしないといけないことがあるからね。一先ずは引き下がっておくとするよ」

 この時チラチラと後ろを振り向きながらこちらを窺いつつ去っていくシューベーの姿を負け惜しみだと思っていた。だけど実は違ったんだ

 それから銀子の前に現れなくなったシューベーが、見ない間に何を行っていたのかが分かるのはそれから暫く経っての事だった。


  *  *  *  *  *


「いいか、この施設はJUNASの間諜が多数潜伏しているとの情報だ。裏も取れている。遠慮はいらん! 徹底的に破壊するのだ」

 今回の怪人。霜焼け怪人「シモショーグン」からの指示を受けて、俺は施設襲撃の任務を遂行していた。

 現在俺たちが襲撃している施設というのは、外面こそ普通の企業を装っているものの、それは夜を忍ぶ仮の姿。本当は悪の組織である俺たちアトスの動向を監視するためのスパイ達で構成されている諜報機関だ。

「いいぞ、いいぞ! もっとだ、もっと徹底的にやってしまえ!」

「「「「オオー!!」」」」

 オフィスらしきスペースにズラリと置かれているパソコンや机はもちろんの事、壁や床まで手当たり次第潰しているうちに、俺たち戦闘員と怪人のボルテージは上がって軽いトランス状態といっても過言ではない程興奮している。

 現に……、

「ヒャッハー! 消ど……」

 ――パコン!

 勢い余った戦闘員の一人が、書類が多数収納されている一角へ放火しようとしていたところを、気が付いたシモショーグンがそいつへ拳骨を一発振り落した。

「――っ、てて。なにをすんだ!」

「バカ! 火事になったらどうするんだ。この辺の立地は密集地帯で破壊目標じゃない我々と友好的な企業も多く集まっている。まずは書類らしきものは回収しろ、焼却処分は最終手段だと事前にも言ったはずだぞ」

 シモショーグンに注意された戦闘員は落ち着きを取り戻し、手直に会った段ボールへと書類を回収作業を放り込んでいく。

「まったく、どいつもこいつも血の気の多い奴が多くて、扱いにくいことこの上ないな……ああー! そこはビルの基礎部分だ! お前は、俺たちを生き埋めにする気か!?」

 現場監督というのは、かくも常に気を配らないといけない目まぐるしい立ち位置で大変なもんだな。俺は目の前にある今時珍しいブラウン管のパソコンモニターを、もったいないと思いつつも「仕事だしな」と割り切って、あくせく破壊に勤しむ。

 今回は襲撃地が襲撃地なので、アーマーズがやってくるのが早いと予測されている。余計なことに構っていては、自分の仕事ノルマが達成できない。

 前々から綿密に練られていた今回の襲撃計画は、重要そうな書類は見つけるなり手当たり次第に梱包し、順調に襲撃任務を遂行することができている。

 さすがに、正義の味方がいつやってくるともしれない状況で全部とはいかない。結果はそこそこに予定していたタイムリミットがやって来た。

「よーし、よくやった。そのくらいにしてはや……」

 シモショーグンはおそらく先に続く言葉は「早く徹底するぞ」と言いたかったのであろう。

 だが、そのことばが口から紡ぎだされることは無かった。

「「「「「シモショーグーン!」」」」」

 シモショーグンの立ち位置から突如として眩い閃光が出たかと思えば、次の瞬間には爆発が起きていて全てが吹き飛んでいたんだ。

 俺は埃が舞う中で何とか状況を確認すると、シモショーグンと仲間の戦闘員数人が黒焦げになっている。


「お前達の世界征服の野望もこれまでだ! 覚悟しろアトス!」


 あれ? ついこの前にも似たようなこと言うのがいなかったっけ?

 爆発の衝撃をくらうのを免れた仲間たちが「アーマーズ奴らか!?」「幾らここが関係施設だからと言っても、この時間はあまりに早すぎる!?」などと、色々と混乱しているがこの感じはアーマーズじゃない。

 あれは確か、あの魔法少女を名乗っていた痛い子が登場した時と同じだ!

「出たな、スーパー魔法少女――」

 前回の教訓を生かし、俺は大声でその名を呼ぼうと……。


「ウルトラ魔法少女エンジェルジェリー。颯爽と参上したわよ」


「――エンジェルホイッ……プって、え!?」

 ウルトラ魔法少女エンジェルジェリーって誰だよ! スーパー魔法少女エンジェルホイップじゃないの? てか、また知らん間に魔法少女が増えたの!? 増えちゃったの?

 今度の魔法少女は、以前に会ったあのチビっちゃかった自称高校生と違って背は百六十センチ……いや、ちょっと足りないか。見た目から判断するなら、歳はおれや銀子と同じぐらいか少し下だろうかな。

 新しく登場した魔法少女の正体をしばし黙考していると、答えは思いもよらない所から現れる。

 そ思いもよらない所というのは、階段を上って来るもので……。

「はぁ、はぁ、はぁ………………。待ってよぉ、真実まなみちゃんは、向かうのが速すぎるよぅ」

「今の私をその名前で呼ばないで!」

「いいじゃん。いつもクラスメイトの前で普通に名前を呼んでいるでしょ。『真実』って書いて『まなみ』て読ませる紛らわしい名前がそんなに嫌いなの?」

「そうじゃない、そうじゃないの! 今は敵の前! 何の為に変身した上で、違う名前を名乗って敵と戦っていると思うの?」

「……………………カッコイイから?」

「アンタ、バカでしょ」

「アンタじゃないよ。どうして真実ちゃんは、普段通りに私のことを『ちゆちゃん』って呼んでくれないの?」

「今はそんなことを言っている場合じゃなくて…………てじゃなくって! 何をあなたは自分の名前までバレるようなことを口走っているの! まったく、あなたは私がクラス委員を治めるクラスでもいつもいつも――て、はっ! いつの間にかホイップのペースに乗せられている!?」

 相変わらず、敵の前にもかかわらず個人情報の漏洩が酷い魔法少女だ。

 あのホイップに振り回されているジェリーの姿を見ていると、どうしてだろう……敵対関係にあるはずなのに親近感がハンパなくヒシヒシと湧いてくるんだ。

 だから俺は、しばらく続いたその後のコントを見ざる聞かざる言わざるで通してあげた。仲間たちにも同じようにしてくれと頼んだら、みんな優しい人だらけでこのことを快諾してくれた。

 俺たちが耳を澄まさず静かにしていると、喧騒らしきものが収まってきた。

「聞いた?」

 俺たちは一様に首を横に振る。どんなプライベートが暴露されていたのかなんて、出会った最初の部分しか聞いてない。後はみんな自主的に耳を塞いで聞かなかったことにしてくれた。良いやつばかりだよこの職場。

 俺たちは何も聞いてないし何も知らない。それでいいじゃん。

 ――と思ったんだ。でも、仲間の一人がポツリと。

「ええと、二人が同じ私立音羽学園高等部に通う1‐Cのクラスメイトで、「まなちゃん」「ちゆちゃん」と呼び合っているくらいの親しい仲で、ホイップが出席番号三番でジェリーが二十八番、お互いにカラオケが趣味だけど方やポップスで片やバラードが好きだから微妙にかみ合わなかったり、この前ゲームセンターに一緒に遊びに行ってクレーンゲームで取った景品をお互いに交換し合って大事にしているなんて全然聞いてないよ?」

 おい、バカーっ! そこは聞いていても知らないで通せよ!

 俺も含め他のやつもおそらく聞いてないやりとりをフリしてバッチリ耳に入れていたと思うけど、そこは黙っとこうよ。

 でも、どうしてかな? 聞かれたならペラペラと喋りたくなってしまうのが、俺たち三流小悪党ならではの悲しい性なんだよな。聞かれてもいないことまで余計に喋ってしまうこともよくあることだ。

 口が軽いとか緩いとそんなレベルじゃない。俺たち戦闘員を始め、一部幹部に至るまで思わずやってしまうのだから、これはもう本能と言っても言い過ぎではないだろう。 

「うふふふふ……そう、聞こえちゃったのね」

 ジェリーとやらは、口に黒い微笑を浮かべ、眼は「絶対に許さない!」とこちらを睨んでいる。

「(や、やややらかしてもーた!)」

 どうするんだ、どうするんだよおい! とお互いがお互いを見合うが、それで良い解決策が出てくるはずがない。

 魔法少女と戦った経験はないが、ピリピリと肌を通して伝わってくる強者の波動は本物だ。

「聞こえちゃったものは、もうしょうがないよね――消し去るしか」

 やだ、この子物騒すぎる!?

「考えれば簡単なことだよ。私たちの秘密を知った悪い人は一人残らず○しちゃえば問題ないよね!」

 問題あるよ!? 倫理的に。俺たち悪人だけど殺されても構わない程の事はしてないぞ。

 あと、正義の味方が○すっていいのか。俺たちの生命がかかることを簡単な考えで解決しないでほしい。

 エンジェルジェリーとやらは、目なんかもうグルグルと渦を巻いたような混乱状態に陥っており、落ち着いて物事を聞いてくれるような状態ではない。

 ジェリーの手には必殺技と思わしきエネルギを溜めこんだ黒い球体が出現、周囲に斥力が発生しているらしく床に散らばったゴミや屑が吹き飛ばされていく。

 アレがどのような物なのか、詳細については一切不明だが、凄まじい威力が秘められていることは分かる。

 いよいよジェリーが必殺技らしきものを放とうと構えをとった時に、助け舟がやって来た。

「ちょっと待ってよまなちゃん! 流石にやり過ぎだよ」

 暴走混乱気味のパートナーを止めに入った心優しき少女。ありがとう、マジありがとう。助かった!

「前にこの人たちと戦ったことあって、その時に私、正体ばれそうなことを口走っちゃったけど……」

「アンタ、前にも同じようなミスをしていたの!?」

「でも! それで正体を盾に脅されたり、身近な人を人質にとったりはしなかったよ。それに私、ある戦闘員の人に……」

 そこまで言って淀むホイップ。心なしか俺の方を見ていないかあいつ? コスチュームを纏った戦闘員の見た目は皆同じようにしか見えないから、俺単体が見られているってことはないか。きっとただの勘違いだろう。

「見逃せって言うつもり? 何があったかは知らないけど、私達の目の前にいるあいつらは、世界征服を企んでいる悪の組織なのよ?」

「分かっているよ。別に捕まえないわけじゃない。けど、あんまり痛めつけないで捕まえてあげて!」

「どうやったら、アンタの言う難しい注文ができるのよ」

 まあ、そうだろうな。ジェリーの言うとおり、俺たちは無抵抗のままで捕まろうという気はサラサラない。

 捕まえようとされようものなら、当然抵抗くらいするだろう。

「うっ。それは……」

「良い案なんて思いつかないでしょ? だから私たちは、アイツらを動けなくなるまで戦うしかないの」

 再び俺たちに必殺技の構えを向けて対峙するジェリー。

 もとから作戦中に正義の味方達がやってくる可能性は考えていたじゃないか。どう対処するのかも含めて。流石に、怪人が出落ちしてしまったのは予想外だったけど、もう残った戦闘員の俺たちだけでこの状況を切り抜けるしかないんだ。

 覚悟を決めて俺たちも魔法少女達と対峙する。

 ――と、その前に気になったことを。

「所で、『お前たちの野望もこれまでだ』って言っていたけどさ……」

 辺りを少し見渡す。

 黒焦げになったシモショーグンと数人の戦闘員。それから登場した時の攻撃によって吹き飛んだイス、机、床に窓ガラス。それから散乱したり所々に千切れている書類。

 正直言って、俺たちが破壊した跡よりもさらに酷い惨状で上塗りされている。

「確かにこれまでだよ。此処はここまで破壊する予定じゃなかったのに、予想以上の結果だもん」

 まさか正義の味方の登場で目標が達成されるとは、誰が信じたであろうか。

「あの時は、初めて魔法少女になって悪い人と戦うからついノリノリになって……」

「まゆちゃんは日曜の朝八時半にはいつも起きていて、毎週欠かさずにテレビを見ているもんね」

 まともだと思っていたジェリーは、ホイップとは違った方向性でドジだった。今だけはアーマーズと戦っていた方が良かったと激しく思えてくる。

 俺まだ戦ってもいないのに、ここまで疲れるとは思わなかった。

「それでなんだけどさ。このまま居たら俺たちもお前たちも間違いなくお縄だよ?」

「そんなはずないもん。だって私達は正義の味方のはずで……」

「自称のな」

「私達の活躍を見てくれていた人が……」

 先ほど傍受したばかりのとある無線信号の内容を流す。

『××にある事務所に、魔法少女のような恰好をした二人が現場に入った直後に爆発事故が起きた。容疑者かどうかは不明だが、関係性が高いことは明白だ。見つけ次第、同行させるように』

 これは現場に向かうアーマーズの動向を窺う目的で、任務中ずっと盗聴しながら聞き流していた。

「どうしようまゆちゃん。このままじゃ私たちは逮捕されちゃうかもよ」

「そうね。ここは悔しいけど一時撤退しましょう。……アンタたち、憶えてなさいよ!」

 ジェリーは捨て台詞を残してホイップと共に窓から空へと去って行った。

 ふい~。我ながらの機転を利かせたお陰で、一先ずの脅威は去った。

「任務も終えれそうだし。ここにJUNASの連中が来ないうちに、黒焦げになった戦闘員とシモショーグンを連れて帰ろうぜ」

 さっさとアトスに戻って、今日は定時が来るなりさっさと家に帰りたい気分だ。

 本格的に戦ってもいないのに、単体ですら酷い破壊力が二人になってさらに二倍。アーマーズとは別の意味で、あいつらとは戦いたくない。主に精神的な意味で疲れるから。

 願わくは切に、再び会い見えること無きようにと。


 ――しかし、先人は言った。「二度あることは三度ある」と。

 或いは、「二転三転」「七転八倒」とも。

 ともかく言いたいことは、あの二人の魔法少女たちと俺たちとの出会いはコレで最後ではなかったってこと。

 むしろ思い返せば、ここはまだ始めの方だったのかもしれない。

 俺が次に魔法少女たちに会うのは、そこから実にほんの七十二時間と経っていない明後日の昼下がりになる。


【――続く。のか?】

日曜の朝八時半といえば、おジャ魔女や初代プリキュアとリアルタイムの時に一歳違いくらいで主人公たちとずいぶん近い歳だったなあと思いを馳せてみる。ナージャは? ……何のことやらわかりませんな。

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