番外その4 愛の三分黄泉送りエプロンクッキング
タラタタタタン、タラタタタタン、タラタラタラタラタラッタン♪~
この番組は、世界征服を目指す組織アトスの提供でお送りいたします。
トゥルールールー、トゥ~ル~、トゥットゥルルルル~♪
* * * * *
ハイ、自称料理講師の白谷銀子です。
こちらは、助手の山田アクジさんです。
「お前が、料理講師の時点で不安がアリアリ何ですけど!?」
本日は今が旬の新鮮地鶏を殺し、血生臭さを抜いたこの肉塊で、和風チキンソテーを二人で作っていきたいと思います。
「嫌な言い方すんなよ! 食欲が失せるわ! それと鶏に旬があるのかよ。さっそく不安に不安になってきた」
まずは地鶏のもも肉(無ければ普通の鶏もも肉)を火が通りやすいように二~三センチ幅にそぎ切りにしていきます。切る前に鶏皮の脂肪が気になる方はとっておきましょう。フォークで鶏肉を抑えると身が滑りにくいです。
この際、まな板の上で直に切ると肉の匂いが移ったり、短時間で雑菌が湧きやすくなるので開いた牛乳パックやキッチンペーパーを敷いて切るといいでしょう。おススメは牛乳パック。
「あの殺人料理を作った銀子が、普通に料理してる……だと?」
私が鶏肉を切っている間に、あくじにはそこにある生姜をすりおろしてもらいましょう。
「あくじ。そこの生姜を全部おろしといてね」
「へいへい」
こちらでは、鶏肉のそぎ切りが終了しました。この肉を真空パックまたはポリ袋に入れておきます。
では、肉に下味をつけます。
肉を入れた袋の中に、みりんを入れます。この際のポイントとしてはみりん風調味料ではなく、本みりんを使いましょう。お肉を柔らかくしてくれます。
そして、お醤油を少々、それから……、
「生姜すれた?」
「ああ、終わったよ」
すりおろした生姜の搾り汁を加えてチャックをシッカリと閉じ(ポリ袋なら輪ゴムをよく巻いて留める)、冷蔵庫に置いておきます。
この間に、ソテーにかける大根おろしを作って置きましょう。
まずは大根を三分の一を使います。大根の青い部分は甘みが、白い部分は辛みが強いのでお好みで使い分けください。
続いて、種を抜いた梅干しをみじん切りにして、先ほどの大根おろしと和えます。
梅干しを切ると酸によって包丁の刃がボロくなるので、使った後包丁は早めに洗って梅干しの汁を洗い流しておきましょう。
いよいよお肉を焼いていきます。
鶏肉は、出来れば漬ける程いいのですが、目安として一時間ほどのものを使います。
この下味のついた鶏肉はキッチンペーパーで水気をよく拭き取って、薄く小麦粉をまぶしてください。
次にフライパンに大さじ四杯ほどの油を入れて温めます。油は多めにすると出来上がった際にパリッとした触感になりやすいです。
このフライパンに鶏を入れてよーく焼き、程よく火が通れば、コショウをふってアクセントにパセリを添えれば料理の完成です。作った大根おろしは適時加えてください。
「…………」
「あくじ、呆けちゃって何をそんなに驚いているの?」
「いやさ、普通に完成したなって。前回の『アレ』を作った人物とは思えなくてさ」
「失敬な。レシピ通り作ればそう失敗するわけないじゃん」
「今失敗って言った! やっぱ前回のアレは失敗だったんだ!?」
「そう、私の前回の失敗。それは塩味が濃かったことよ!」
「全くの見当違いだよ! どう考えたって、失敗の原因はポイゾニックトキシンなる劇物だよ! いい加減気づいて!」
「ぽいぞにっくときしん? ………。ああ! すっかり忘れてたよ隠し味」
「あれ、隠し味だったんだ。隠しきれない禍々しさと混沌が同居していたにも関わらずそう呼ぶのか」
大事なことを忘れていました。この料理はまだ完成していませんでした。仕上げがまだ残っていました。
ポイゾニックトキシン――これが無いと料理が完成しません。
「その大きなドクロがついているビンはなんだ! 栓を開けるんじゃありま……紫色した吸っちゃいけない系の煙がでて、セットの天井が黒ずんでるぅぅぅ」
取り出したるコレをよく振って、お皿に盛りつけたソテーにタップリとかけましょう。
「早まるな! こうなったら、させる「だばぁ!」かあああぁぁぁ……」
地鶏の和風ソテー、これにて完成です。
「ああ……。なんてことをしてくれたのでしょう。この漆黒の見た目、鼻を刺す激痛のような匂い、まるっきり『アレ』じゃないかぁ」
ではこの料理の感想を、実際に助手のあくじに食べてもらってつけていただきましょう。
「どうして料理番組に出た俺は今、公開処刑を受けなきゃいかんのですか。ディレクター(大総統)、俺じゃないとダメですか?」
『テレビ的には、そうした方が面白いのでやりたまえ(カンペ)』
「さあ早く! 私の愛情込めた料理を食べてよ~。愛さえあればラヴ・イズ・オッケー! だよ」
「ラブなど微塵もこの料理に感じられないんですけど!? 代わりに殺意ならいくらでも感じ取れるけど。そして愛は致死量の毒を無効化できるほど、そこまで万能じゃない!」
「ツベコベ言ってないで「ふげらっ」食べなさい!」
味にうるさいあくじさんもこの通り。あまりのおいしさに言葉を失っています。
その間に、本日の料理のレシピです。
* * * * *
・鶏肉……なかなか
下味用のタレ
・生姜……そこそこ
・醤油……まあまあ
・本みりん……ほどほど
・大根……適量
・梅干し……そこそこ
・薄力粉……テキトー
・サラダ油……意外と
・コショウ……少々
・パセリ……お好きに
・ポイゾニックトキシン……致死量分(体重1キログラムにつき、30マイクログラムが目安。ドバっと加えとけば問題ない)
* * * * *
「もう俺は、つっこまないぞ」
「あくじ、復活したんだね」
「なんとかな……。生きてるって素晴らしいと思えたよ」
「それは良い体験が出来てよかったね、あくじ!」
「皮肉って伝わりにくいものなんだってことに気づけたよ」
「どういたしまして」
「酷い! こんなにも悪意の欠片を感じさせないドヤ顔は初めてだ」
さて、あくじさんが目覚めたところで本日の料理の評価を頂きましょう。
「本日の料理、『鶏の和風ソテー』いかがでしたでしょうか。評価をお願いいたします」
「こんなの……食えるかー!」
(銀子のネームプレートを奪取して、スタジオの外へと駆けて行くアクジ。彼の終着点は収録から三日経っても、未だに着かない)
テレビの前の自分の愛が重すぎて作る料理に困っている全国の貴女。ぜひとも、今日のレシピを参考に作ってみてはいかがでしょうか。
『全国の彼女の愛が重くて困っている彼氏さん逃げて! 超逃げて!』(※スタジオを去ったアクジを追いかけていたテレビスタッフが、突然喚いた彼の声を録音したもの)
以上! 愛の三分黄泉送りエプロンクッキングでした。
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この番組は、世界征服を目指す組織アトスの提供でお見送り逝たしました。
トゥルールールー、トゥ~ル~、トゥットゥルルルル~♪
キューピーの三分クッキングは一九六二年の放送開始から、実に半世紀もの歴史を誇る、日本でも屈指の長寿番組です。
ちなみに、見ている人は知っていると思うが、三分クッキングは三分で料理の紹介をするのであって、三分で料理をする番組ではないのであしからず。