番外その2 秘密結社の女幹部~かなり昔編~
「大総統。このお話を聞き入れてくれませんか?」
「駄目だ。そんなことではいかん」
世界征服を目論む悪の組織「アトス」のボス大総統は部下である大幹部『鬼女』からの断りを却下した。
「そんな! あの件にはOKを出してくれたではないですか」
「君の気持は、私もよく知る所だ。だけどね、それとこれとはまた別種の問題が起きるのだよ。私の立場も少しは理解してくれないだろうか」
言っておくが、大総統決して狭量な心の器の持ち主ではない。推定構成員総勢1万に昇るといわれる混濁を極まる巨大組織を束ねている悪の大ボスを務めているのだから。
今までも散々面倒事が舞い込んできたこともあった。
もしかしたら、言ってこなかっただけで彼が聞き及ばなかった問題があったのかもしれない。しかし、正面切って彼女ほどの事を言ってくるものは居なかっただろう。
大総統は心から申し訳ない思いで、鬼女を諭すのだが彼女は一向に引いてくれなかった。
「私は結婚して家庭に入るんです。寿退社を認めてください!」
「断る!」
『鬼女』。組織では大総統に次ぐ実力の持ち主であり、組織のナンバー2である。
「何でですか? 結婚は認めてくれたじゃないですか」
「あれは、同じ組織内での恋愛だったからよかったんだ」
それでも、戦闘員と大幹部という身分違いの職場恋愛に驚きは驚かされた大総統だったのだが。
「だったら……」
「少しはお前の立場を考えろ! お前は私の次に責任ある立ち場なんだ。そんな抜ける理由で、他の幹部連中をどうやって納得させるんだ」
「そんな……。もう互いの両親には挨拶も済ませたって言うのに……」
「何とでも言え」
「明後日には入籍して、もう来週には結婚式なのに……」
「それがどうした」
「私とあの人との愛の結晶ができちゃったから、もう私だけの体じゃないっていうのに……」
「ちょっと待ってもらおうか!?」
「そうか、やっぱ簡単には駄目だったか」
鬼女は結婚を機の寿退社は、なんやかんやで駄目なことを告げられたことを婚約者の戦闘員に話していた。
「ゴメンね。やっくん」
「いやいや、いいんだよゆーちゃん。大総統は僕たちの事、認めてくれているんだし」
かたや下っ端のいち戦闘員と、かたや大幹部の交際を認めてくれただけでなく、こうして結婚も許してくれる大総統に、戦闘員の男は感謝しているほどだ。
「あっでも、大総統はでき婚のことは許すって」
「女の子が、はっきりとそんなこと言っちゃいけません」
鬼女の明け透けな言葉に、戦闘員の男は照れてた。
「それで、条件っていうのはどういうものなの?」
鬼女は男に大総統との話した内容を伝えた。
大総統は条件付きではあるが、寿退社を許してくれるようであった。条件は二つ、退社する前に大きな手柄を一つ立てること。そして、相手の男は組織に残ること。これが条件だった。
「手柄って、具体的にはどうするつもりなの?」
男は鬼女に、今後の具体的な方針をどのようにしていくつもりなのか尋ねた。
「そうね。とりあえずアーマーズに挑戦して完勝すればいいじゃないかしらね」
「まさか、ゆーちゃん……」
悪い予感を感じ取って戦闘員は振り向いたが、鬼女はいなかった。
「ここが『JUNAS』本部ね」
正義の味方の本拠地の前に一人立っている鬼女は、その施設をしげしげと眺めている。
「特に深い恨みがあるわけじゃないけど、私とやっくんの明るい未来のために、いっちょやりますか! やっくん力を貸してね」
いとしい人のグローブを借り受けて、鬼女は本部へと歩を進めた、
こうして鬼女単身にによるJUNAS壊滅作戦が行われた。
その翌日の事。
「大総統、大総統! 私やりましたよ。これで認めてくれますよね」
「やったって何が?」
大総統は、この日嬉しそうな顔でやってきた鬼女の理由が最初はわからなかった
「だからやったんですって。アーマーズ」
「え、本当にやっちゃったの? どうやって?」
正直、個人で相手するには大総統ですら手こずると感じる相手である。
「いわゆる愛の力ってやつです。私とやっくんの明るい未来のため頑張りましたよ!」
組織のトップ2とはいえ、本当にそんな大きな手柄をとって帰ってくるとは思っていなかった大総統。寝耳に水の鬼女の言葉に、驚きを隠せない。
「証拠はどこにあるのかな?」
「そう来ると思いまして……ほら、証拠写真」
鬼女の差し出した写真には、山と積まれたJUNASの隊員たちと、縛り上げられた状態のアーマーズ全員の姿があった。
そして満面の笑みとピースで映る鬼女の足元にはデッカくラッカースプレーで描かれた「大勝利」の文字。
「連れてくるのはリスク高かったんで、倒した連中はココには連れ来れてないんですけど。他にも証拠あるんで……見ますか?」
「分かったもういいから。ああ、退社は許すから! 私から他の幹部には言っておくからこんな手柄を立てられては誰も文句が言えないから」
「そうですか。認めてくれないようだったらこっちにも考えがあったんですよ……力づくっていう手が」
これでも認めないものなら、今度はこっちが危ない目に合っていたというわけだ。愛の力とやらでアーマーズ及び組織を片づけた相手と、大総統は戦いたくなど無かった。リスクが大きくて。
* * * * *
「かーさん、かーさん」
「どうしたのアクジ?」
「ねーねー。これひろったんだけどなんてかいてあるの?」
山田アクジ、当時まだ四歳の可愛い子供時代である。
「どれどれ、こんどはどの絵本の文字が読めないのかし――」
あくじからあるものを渡された山田家の母は、「笑顔」という仮面が張り付いた状態で固まってしまった。
「ねーねー。パブってなに? あ、でもね『ひとみ』ってなまえわよめるんたよ、あとわかんないけど」
「……アクジ。ちょーーーっとパパを呼んできてくれるかしら」
「ウン、ワカリカシタ」
母からおぞましいものを感じ取ったアクジは、気をつけをして返事したあと走って父のもとへ向かった。
彼は、今後はどんなことがあっても、母だけは決して怒らせまいと子供心に誓うのだった。なぜなら、山田家の母は、山田家の中でも最強で最凶だったのだから。
「これはどういうことかしらっ! あなたー!」
「これは仲間の付き合いで行っただけだって。ゆ、ゆるしてーーー!」