番外その1 スーパー魔法少女エンジェルホイップ
俺の名前は山田アクジ。悪の組織「アトス」で戦闘員なんかをやっている。
世の中。光ある所に影があり、影ある所にもまた光あり。ということで、悪の組織に対抗して正義の味方なんてものがあるわけで。
俺たちの場合には、怪人相手の事件や犯罪専門の組織「JUNAS」、そこに所属している五人の精鋭メンバー「鎧装戦隊アーマーズ」なんてチームが俺たちの敵だ。
負け続けたのが理由で、クビがかかった幼馴染の白谷銀子(またの名を女幹部『冽氷』魔女シニードリンという)と俺はその正義の味方を二人で相手にしなければならなくなった。
結果は、辛くも勝利したということになっており、ギリギリのところで銀子の首は繋がった。
なっておりと言うのは、途中で倒れて俺が最後まで先頭には加わっていなくて伝え聞いたからだ。
あれから何かと、上からはシニードリンと一緒に行動をとることを命令されるようになった。
今回も任務で、そんな幼馴染と、彼女率いる戦闘員達とで、市街地に襲撃をかけていた。
襲撃は最初は順調だった。前々から今回の襲撃に関しては綿密な練られ、JUNASの連中には悟られないように徹底的な工作を施した。
おかげで、最初の襲撃から三十分が経過しているものの、未だにアーマーズの到着が無く俺たちは存分に大暴れをすることができた。
ところが、突如、耳をつんざかんばかりのまるでダイナマイトを十キロ分でも爆発でもさせたのかと思えるほどの轟音が俺たちを襲い、続いて眩しい光が目の前にあふれた。
「げがぁぁぁぁああああ!」
まだ眩しさで眩暈がしていた中、悲鳴が上がった方向を見ると、パラパラホコリが飛散するところで仲間複数人が黒こげになって煙を上げていた。
まさか奴らが来たのか……。
「お前達の世界征服の野望もこれまでだ! 覚悟しろアトス!」
やっぱりか。来たな! 俺たちの敵アーマー……
「スーパー魔法少女エンジェルホイップ。華麗に参上!」
……じゃない。誰だよ。
「ごめんなさい。魔法少女は俺たち専門じゃ無いもんでお引き取り願えませんかね?」
本当に誰なんだよ。魔法少女って。今までそんな存在がいたのを俺は知らないぞ。
しかし魔法少女か……。確かに見れば、近所の玩具屋「チャチャ」で税込価格四九八〇円で売っていそうなデザインの魔法のステッキらしきものを握っている。
「中学生を痛めつけるのは、心が痛むからやっぱり帰ってくれない?」
悪の組織の戦闘員と言っても、俺は十七歳の分別がつく人間だし歳がそんなに離れた子を苛める趣味なんて持ち合わせていない。
「中学生ゆーな! 私はこれでも名門学校私立音羽学園高等部の十六歳だよ!」
こらっ、そんな身元が割れるような個人情報を喋るんじゃ……って、え!? 十七の俺と一つしか違わないの?
「そんなにチビなのに、俺と歳がそんなに変わらないの!?」
身長が百四十センチチョイにしか見えないけど、その割にシニードリン[A]よりもずいぶんと大きく育っているその胸で、思ったていた年齢よりもよりも高めに設定していたのにそれでも足りなかったとな?
「あくじ……私にも失礼なこと考えたでしょ」
背中から身の毛もよだつ冷気を纏った視線が突き刺さってくる。その刺さる視線は、いったい何処から来ているのかというのは深く考えないようにしよう。
「そうだよ。これでも1‐Cの皆からは大きいねって言われるんだから?」
お前は、これ以上喋るな。さらっとそんな特定されるような個人情報を敵に言っていいいの? もちろん、言っていい訳がないと思うのだが……まさかこの子抜けてる?
「私、怒ったよ。特にそこの私に悪口ばっか言ってくる戦闘員! 必殺技いくから覚悟してね」
やばっ、言い過ぎたか。いつも負ける覚悟なんて出来るわけがない。痛いのはいつだって嫌だ。
スーパー魔法少女エンジェルホイップの元に凄い力が集まってくる。
「皆、逃げろ。スーパー魔法少女エンジェルホイップの前から今すぐ」「訳の分からないやつかと思ったら、このスーパー魔法少女エンジェルホイップは強いぞ」「やべー、スーパー魔法少女エンジェルホイップ」「スーパー魔法少女エンジェルホイップか……帰還したら上に報告せねば」「スーパー魔法少女エンジェルホイップ、なんて力を秘めていたんだ」
――あ、赤くなってる。ちょっと可愛いと思ってしまった。
スーパー魔法少女エンジェルホイップって、恥ずかしい名前だと思ったら本人も恥ずかしいと思っていたのか。
「でも、自分で最初に名乗っていたじゃん。あれは平気なのか?」
「あれは別だからいいの!」
なるほど分からん。同じじゃないの?
「さっきから私のことを馬鹿にして、もう本当に怒ったんだから、手加減抜きの本気で行くからね! 死んだって知らないから――必殺ッ! エーターナルレインフォース」
「まてまて、落ち着け落ち着け! 悪かったから! この通り! 話せばわかるって!」
スーパー魔法少女エンジェルホイップの両手へ集まっていく力を前に、おれは必死で説得を試みようとする。にも関わらず……、
「おい、スーパー魔法少女エンジェルホイップを見ろよ」「何をするつもりなんだ。スーパー魔法少女エンジェルホイップ」「私よりも年下で大きい胸なんていい度胸ねスーパー魔法少女エンジェルホイップ」「スーパー魔法少女エンジェルホイップか憶えておこう」
スーパー魔法少女エンジェルホイップ! スーパー魔法少女エンジェルホイップ! スーパー魔法少女エンジェルホイップ!
おいおい、またそんなにスーパー魔法少女エンジェルホイップスーパー魔法少女エンジェルホイップなんて連呼なんかしたらまた……。
俺は、この流れを打ち切らないといけないと思い、魔法少女の前に立って仲間達に言った。
「おい! 止めてやれよ! スーパー魔法少女エンジェルホイップスーパー魔法少女エンジェルホイップ連呼するの。スーパー魔法少女エンジェルホイップだって嫌がっているんだぞ、『スーパー魔法少女エンジェルホイップ』って呼ばれるのを。『スーパー魔法少女エンジェルホイップ』って呼ばれるのを」
――……あ! やってしまった。
そして周りからは「あーあ」と溜め息。お前らは人の事言えないだろ!?
「――――ぐすっ」
――泣いた!?
あまりの恥ずかしさに、顔の赤さが臨界点を突破した魔法少女は泣いてしまった。俺は女の子を泣かしてしまったことに激しく落ち込む。
周りは、魔法少女に哀れみの、俺には冷えた視線を送ってくる。
「今日の所はこれくらいにして、次はギタンギタンのケチョンケチョンにしてやるんだからねー。わーん」
こうして本日の俺たちの戦いは幕を下ろし、襲撃は無事に成功した。だが、俺にはそんなやりとげた満足感など無く、女の子を泣かした自己嫌悪と仕事仲間からの蔑視に苛まれたのだった。
――数日後。
アトス本部で休憩をしている俺と銀子の元に一匹の小動物がきた。
白毛に赤い目とリスとハムスターを足して二で割った外見の見たこともない小動物だ。その小動物が銀子の方を向いた。
「やあ、僕は君に話があるんだ」
わっ、喋った。
「あなたは誰なの?」
「僕はスーパー魔法少女エンジェルホイップの、いわゆるマスコットってやつさ」
あの時姿が見えなかったけど、魔法少女のやつにこんな仲間がいたのか。
「僕は、君の持つ膨大な魔力に惹かれたんだ。ぜひ僕と契や――」
「私は魔女なんで、もう間に合っています」
危ない、危ない! 銀子はすぐさま断ってくれたから何とかなったけど、そういうネタは止めてほしい。「あたしって、ほんとバカ」とか言いかねない。
「なんだ。君は魔女だっのかい? だったらグり――」
「「帰れ!」」
――つづく? かも
お待ちしていた人はお待たせいたしました。番外編第一弾を御送りしました。
番外編は番外編での展開をしていきたいと考えております。次の投稿が未定ですが、早いうちにまたお会いできたらいいと考えています。