にばんめのおうじょさま!
テルミア王国の第2王女、クラウゼル・ソルテス・テルミアは愕然としていた。
御歳5歳。初めて先代国王の伝記を読んだ、その日のことである。
彼女は、所謂転生者である。前世は、21世紀に生きた平凡な男子学生であった。その死因は交通事故。
交差点での多重衝突のとばっちりで意識を失い、ふと気付くと、典型的な中世ヨーロッパ的と思わしきファンタジー世界の、大陸に覇を唱える王国の幼い王女であった。
こいつはマズイ。前世の記憶を引き継いだ王女は考えた。
何せ大国の王女である。政略結婚の道具になることは確定的に明らか。王族の女として生まれてしまった以上は、子を生むのは義務であることは、ある程度納得している。しかし、前世の男としての感覚を保っている以上、最低限相手は選びたいところである。
が、自分付の侍女たちの噂話を漏れ聞いたところでは、どうやら国の政治を取り仕切っている宰相の長男との婚約が、すでに仮決めになっているらしい。しかも彼は現在丁度20歳。自身とは15歳差。直接会ったことはないが、侍女たちが彼につけたあだ名は『ガマガエル』。王女としては是非とも勘弁してほしい縁談である。
そこで王女は考えた。王族として、国を発展させるなどの功績をたて、発言力を上げればあるいは。タイムリミットは、7歳の初の御披露目までだろう。幸い、自分には21世紀を生きた知識がある。専門家でもないただの学生だったが、しかし、お城の建築様式や家具、調度品から見てとれる中世ヨーロッパ風異世界の文化レベルなら、役に立つことも多々あるだろう。よし、まずはこの世界のこと、国のことを勉強だ。
そうして王女は、侍女たちにねだって、何冊かの本を手に入れた。
多くが児童向けの絵本であったのだが、その中に混じっていたのだ。『偉大なる王スワルディの伝記』という、王女から見れば祖父に当たる故人の業績を記した本が。
無論子供向けに要約された内容ではあったのだが、時おり侍女に質問して補完しながら読み進めたそれは、王女を驚愕させるに十分な代物だった。
曰く、大陸の片隅の小国の貧乏貴族から身を起こし、国内をまとめあげ、大陸中を巻き込んだ動乱の時代を斬新な戦術・戦略を考案して連戦連勝で乗りきり、大国としての地位を築き上げた。
曰く、肥料の考案や農法の考案などの農地改革を手ずから行い、飢饉に強い作物を奨励し、農業生産を安定させた。
曰く、簿記会計の書式を制定し、保険等の概念を導入し、街道や航路を整備し、経済を発展させた。
曰く、様々な遊戯やスポーツを考案し、ミステリやホラー等といった、これまでにない概念の物語を多数産み出した。
曰く、新しい調理器具の導入や調味料の発見、レシピ・栄養学といった概念を導入し、食生活を一変させた。
曰く、斬新な発想によって魔法技術を応用し、『限定された空間内の空気の温度をコントロールするシステム』や『馬がいない馬車』、『帆も漕ぎ手もいらない船』等の発明品を数々考案し、生活を豊かにした。
ひととおり読み終えた王女が「どこの偉大なる将軍様ですか」等と思わず呟いてしまったのは、前世日本人としては仕方がないことだったろう。先代国王の伝記として、子供向けとして、ある程度の誇張はあるにしても完璧超人過ぎである。最初から、何らかの知識の裏付けがあったと考えるのが自然だ。
ついでに、その『偉大なる王様』が自分と同じ、地球で生きた記憶を持つ人物であることも確信した。
そして悟る。「NAISEIチートなんて無かったんや」と。
なにせ、おおよそ自分が思い付くであろう事柄が、すべて先に行われているのである。諦める他あるまい。
そもそも、実行したところで、幼児の戯言と思われるのが関の山であるのは言わぬが花というものだろう。先代の『彼』とて、その業績のほとんどが領主として、国王としての発言力を確保してからのことであり、そこにたどり着くまでは、数多の失敗が積み重ねられているのである。
そんなわけで、『NAISEIチートによる発言力強化作戦』を諦めた王女は、次の作戦として『地道に婚約者に嫌われて向こうから婚約解消を申し出てもらおう作戦』を立案、実行に移すものの、誤解と行き違いの結果気に入られ、ラブにコメってツンでデレった挙げ句に『婚約者の外見をせめてもうちょっとマシにする作戦』に変更することになるのだが、まあ、それは別な話である。
そうそう都合良く知識チートが生かせる世界に転生するってないよねー。的な。
だいたい知識チートのNAISEIって同じようなパターンだから、同じ世界に転生しちゃったら早い者勝ちだよねー。的な。
あと、美女と野獣って、野獣が人に戻らない方が美しいよねー。的な戯言とか。
続きを書くとしたら、前世男な王女×ブ男なんてだいぶニッチで誰得なラブコメになりそうですが、読みたい方がいましたらコメント欄にて。