奪憶異変―――狂い乱れる雷炎
「鈴仙!正気に戻りなさい!」
「……………」
「駄目だね、気絶させるしか無いね。」
私と妹紅は、こちらに着いてきた鈴仙と戦っていた。鈴仙は、完全にこっちを認識していないようで、無表情でレーザーを打ち続けている。
「くっ………妹紅!鈴仙の足をなんとか止めるから、鈴仙に一発食らわせて!」
「また無茶をしようとする………まあいい、しっかりやりなさいよ!」
「当然!」
私と妹紅の会話が終わると同時に、鈴仙の放つレーザーを避け、一つのスペルカードを使用した。
「行くわよ、鈴仙!雷槍『ランス・オブ・ロンギヌス』!」
私の右手に、雷で象られた槍が現れ、それを持って鈴仙へ特攻した。
「……………」
「鈴仙………ちょっと我慢してよ!」
何も言わず弾幕を張る鈴仙に一言言いつつ、右手にもった槍を弓を引き絞るように持った。
「はあああっ!」
一気に引き絞った腕を解き放ち、鈴仙へと光速の突きを放つ。それは鈴仙の身体へと吸い込まれた………ように見えた。
「ちっ、厄介ね………!」
私の突きは空を斬り、そのほんの少し横から鈴仙の弾丸が飛来し、私の脇腹に鈍痛を与える。
「ぐ、っ………!」
「碧菜、大丈夫かい?」
「流石に効くわね………!」
私は、すぐさま飛来した方向を向いた。だが、
「チィ………ッ!鈴仙が増えて見える………!」
今直撃した弾丸に能力が付加されていたらしく、鈴仙が何人にも見えた。
「碧菜、一回休みな。私がぶっとばしてやるから。な?」
「………そうさせてもらうわ。」
そういって、私は一度、鈴仙から離れた。
「さあさあ、私の友人を傷付けてくれたんだ。ちょっと痛いお仕置きが必要だねぇ………!」
妹紅は、そう言うと鈴仙へ炎弾を大量に放出した。鈴仙はそれをゆっくりと回避するが、次の瞬間に、妹紅が鈴仙の懐に潜り込んでいた。
「っらぁぁぁっ!」
拳に炎を纏わせ、溝尾に叩き込む。それに鈴仙が怯むと、妹紅は両手両足に炎を纏い、鈴仙の身体に連続で打ち込む。
「………すっご。」
私は思わず、そう口からこぼしてしまう。すでに、鈴仙は一人へと戻っていた。
「これで、終わ―――」
妹紅がトドメの一撃を叩き込もうとした瞬間、鈴仙の目が、赤く光った。
「――――――ッ!」
「ぐ、ぁ………!?」
妹紅が呻き声をあげ、がくりと膝をついた。
「妹紅!」
「う、あぁ………」
私は、膝をつく妹紅に向かうが、それを遮るように鈴仙が立ち塞がった。
「………分かったわよ、鈴仙。」
私は溜め息をついてから、身体全体に紅く染まった(・・・・・・)雷を纏わせた。
「あんたをぶっ飛ばして、目を覚まさせてあげるわよ!」
瞬間、音速を超えた蹴りを私は鈴仙の脇腹に打ち込んだ。
「………っ!」
「まだま………だぁっ!」
鈴仙が怯んだ隙に、ゲームや漫画で見たような動きで、鈴仙の反撃を許さない速さで連撃を放つ。
しかし、鈴仙もやられているばかりではなかった。
「うぐ………っ!?」
突如、私の身体がガクンと、崩れ落ちかけた。その前には、普段なら絶対にしないであろう、狡猾な笑みを浮かべていた。
「そういう、ことね………鈴仙のくせに、粋なことを………」
鈴仙は途中から、自分の身体の周りに能力を使っていたようだ。それも、微弱な力で、じわじわとその効果が出るように。そして、それに気付かなかった私は、
「絶体絶命………ね。」
鈴仙の反撃をこの身に浴びることになった。
「はぁ………はぁ……ぐぁっ!」
鈴仙に身体の自由を奪われてから、もう何分たったことだろうか。私はなんとか意識を保ちながら、反撃の隙を狙っている。だが、一発当たる毎に能力が打ち込まれ、状態は悪化する一方だった。
(ああ………私、ここでやられるのか………)
私は、声に出さずそう思う。
(こんな………鈴仙や、皆………戦えないようにしたやつに負けたなんて………)
そこまで思って、私は腸が煮えくり返るのが分かった。
(許せるわけないでしょうが………たとえ、天が許そうが、人が許そうが、妖が許そうが………この私が許さないわよ………!)
瞬間、私の周りに雷が迸る。そして、鈴仙の能力を受けているはずなのに、何故か視界がクリアになり、頭もスッキリしてきた。
「ゆる、せるかってぇのぉぉぉぉ!!」
私を中心とした、雷が一つ落ちた。
「目、覚ましなさいよぉぉっ!雷符『グロム・インパルス』ッ!」
火花を放ちながら進む雷撃が私から何本も放たれ、それが鈴仙を撃ち抜き、鈴仙は頭が発光しながらその場へふらりと倒れ、私もへたりこんだ。
「ったく、世話が焼けるわね………」
ここには、へたりこんだ私と、気絶する鈴仙と妹紅が残された。