奪憶異変―――虹色に光る森の魔―――魔法の森より
「………っ、これは………」
魔法の森に着いた私が目にしたのは、大量の妖怪の死骸。そして、鼻を刺すように臭う死臭。地獄とも言える。
「これ………未奈斗が?」
私は、未奈斗が正気を失っている可能性を新たに加え、手に持った札を握りしめて、妹紅から言われた未奈斗捜索を開始した。
魔法の森に入って三十分。本来なら発狂してしまいそうな胞子の中を、私は結界を張りながら進む。
「………何時もよりも、胞子の量が多いわね………少しでも我を忘れたら、未奈斗も正気を保ってられないかもね………」
そういいながら、私は暗い森の中を進む。すると、森の木々の間から、妖精が大量に現れた。
「へぇ………今の私を邪魔するなんて、いい度胸ね!」
私は、スペルカードを構えた。
「あんた達の相手をしている暇は無いのよ!符の壱『夢想妙珠 連』!」
私のスペルカードからは大量の霊力弾が溢れ出し、妖精をホーミングして一掃する。すると、まだ待機していたのか、第二陣がやってきた。
「邪魔よ!霊符『夢想封印』!」
またもスペルカードから霊力弾を射出する。そして一掃した瞬間、また妖精が飛び出て来る。
「いい加減にしなさいよッ!!夢符『封魔陣』!!」
更に力を込めたスペルカードを使い、今度こそ妖精を一掃する。そして、私は魔法の森を飛んでいった。
私が魔法の森に入ってから二時間ほどが経過している。私は未だに未奈斗の消息を掴めないでいる。流石にここまで情報が入ってこないと、私も不安になってくる。
「くっ………少しでも情報があればいいのだけれど………!?」
私が飛行していると、いきなり、今までとは質の違う弾幕が私の側を通り過ぎ、木にぶつかって爆ぜた。そして、飛来した方向を見ると、見たことのない魔女帽を被り、黒いドレスを着た少女がいた。
「魔理沙?………じゃないわね。」
「魔理沙って誰よ………私は露雪 夏音よ。」
「で、邪魔するならぶっ飛ばすわよ。」
「この先で今、地面がえぐれる位に激しい戦闘がやってるから、そこに突っ込みかけたあんたを止めたのよ。」
「ふぅん?それでも、あんたが私の邪魔をした事は変わらない。というわけで、覚悟しなさい。」
「はあ、聞く耳無し、ね………いいわ、止めてあげるわ。」
そう言って、夏音は手をこちらに突き出し、言い放った。
「最初に言っておくわ………弾幕は、力ずくでも、頭を使ってするのでも無いわ。弾幕は、quantityよ!」
「普通に量って言いなさいよ。」
瞬間、夏音から大量の弾幕が繰り出された。
「ほらほらほらぁっ!さっきまでの威勢は何処へ行ったのかしら!?」
「くっ………なかなかやるわね、あの夏音とか言うやつ。」
私は、夏音が繰り出す大量の弾幕………もはや、機関銃と言っても過言ではない物を何とか避け続けている。
「しぶといわね………いいわ、仕留めてあげる。無情『数の暴力』!」
「ん、なぁっ!?」
夏音の放ったスペルカードは、今有る弾幕を塗り潰すかの様に、大量の弾幕が私に襲い掛かる。
「くっ………こんなところで、油売ってるわけには行かないのよ!」
私は、一瞬で微かに空いている隙間を見つけ、一つ一つ丁寧に、且つ迅速に抜けていく。
「流石、ここまで無傷でここまで来ることはあるわね………!」
その言葉と共に、スペルカードが破れ、夏音は直ぐさまもう一枚のスペルカードを宣言した。
「ラストォ!理不尽『多数決の原理』!」
………私は、一瞬だけ、自問した。
………今までの弾幕は、何だった?
「何よ、コレ………!」
もはや、壁。ルールにのっとって、避けれるものではあるだろうけれど、隙間などは見つからない。
「これで………終わりよ!」
そして、その壁が放たれると同時に、私はスペルカードを取り出し、宣言した。
「霊符『封魔陣』!」
私は、弾幕を掻き消す最大の力をこのスペルカードに込め、弾幕の壁にぶち当てた。
「きゃあっ!?なによこの力!?」
その力の奔流は、夏音まで響いたようで、苦悶の声が聞こえる。勿論、私はその隙を見逃さ無かった。
「終わりよ!」
パスウェイジョンニードル………通称、封魔針を投げつけ、夏音の意識を刈り取った。
夏音を退けた私は、未奈斗の捜索を再開したが、それはすぐに終わりを迎えた。
何故なら、私は、未奈斗が何かと戦っているところが見えたからだ。
「あれね。でも………未奈斗と戦ってる女は………?」
私は未奈斗へと近付き、声を掛けた。
「未奈斗っ!」
「霊夢!?どうしたんだ!?」
「あんたを探してたのよ!ところで、こいつは?」
私は、攻撃を仕掛けられても対処できるよう、集中を切らずに女を指差した。
「あいつは………」
「あはっ♪私に自己紹介くらいさせてよね♪」
女は、未奈斗の声を遮って、
「どーも、始めまして楽園の素敵な巫女さん、博麗霊夢?私はこの異変の元凶、ノレナ・ソーリッジだよ♪」
吐き気がするほど不気味な声で、そういった。
「霊夢!こいつは僕達の中から生まれた奴なんだ!皆のことは何でも知り尽くしてる!」
「………あんた達から生まれた?」
私には、余り理解出来無かった。そこで、奴が話し始めた。
「理解できないよね?正確に言ったら、"負の記憶"から生まれたんだ♪」
「"負の記憶"………まさか、あんた。」
「多分予想通り♪日向未奈斗、彩華涼、刻麗碧菜、深見紫幻、そして東風谷早苗の五人の負の記憶から生まれたんだよ♪」
横で、未奈斗が悔しそうにきつく歯噛みし、両手に持っていたナイフが震えているのが感じられる。多分、私がいなかったら飛び掛かっているだろう。
「さーて、さすがにこの二人はきついから、私は退散しようっと。じゃ、お二人さん、ばいばーい♪」
「逃がすか!」
未奈斗が即座にチャクラムに持ち替え、奴に投げつけるが、奴の後ろに現れた、人影によって弾かれた。
「じゃ、時間稼ぎとして未奈斗のコピーを置いていくね♪」
そう言って、奴は飛び去って行った。
「チッ………未奈斗、相手はやる気みたいね。」
「みたいだね。どうする?多分、ノレナには追いつけない。」
「私が相手をするわ。未奈斗は先に永遠亭に行ってて。多分、皆いるはずよ。」
「………分かった。」
未奈斗は小さく返すと、竹林の方へと向かうが、未奈斗の偽物が阻もうと未奈斗を狙ってチャクラムを投げる。が、
「私が見えてないのかしら?」
札を投げつけ、チャクラムを弾き飛ばす。その間に、未奈斗はこの場から姿を消した。
「さて、偽物退治と行きますか。行くわよ、偽物!」
「………来い。」
「爆符『千裂爆散珠』!」
偽物がスペルカードを使用すると、未奈斗が使う、『百裂爆珠』に似た弾幕が偽物から放たれた。
「………やはり知っているか。僕達イミテーションにとっては手札を見られたような状態だからな。」
「イミテーションだかなんだか知らないけど、私はあんたを潰すだけよ!」
こいつが言った通り、こいつのスペルカードは何時か未奈斗が見せたものだった。一回見たものに、当たるほど私は弱くない。
「さぁ………どこまで耐えられる!?」
偽物の声とともに、今まで展開していた弾幕がいきなり弾け、レーザー、小弾、円盤弾、米弾に分かれ、一気に私を襲った。だが、所詮はコピー。オリジナルより隙間が見える。
「まだまだ甘いわね!」
隙間から弾幕の嵐から抜け出し、スペルカードの制限時間が切れる。
「まだまだ!破符『理解し(ことわりはずし)』!」
偽物のスペルカードから、また弾幕が放たれる。だが、これも見たことがある弾幕。私は簡単に隙間を抜けていく。
「くっ………僕は、負けるわけにはいかないんだ!」
そういって、偽物は制限時間が近づいたのか、スペルカードを″二枚″取り出した。
「………二枚!?」
「はああああっ!」
スペルカードの制限時間が終わり、偽物はスペルカードを二枚、突き出した。
「僕の存在意義は………ここで戦うことだけなんだ!全壊『ウエストクエイク』!」
瞬間、空気が震えた。私の周りの空気だけが、すべてから隔離されたように、本当に震えた。
「これ………何!?」
「昔々、外の世界で起きた大地震さ。さあ、その時の恐怖を、思い知れ!」
地面から、大量に弾幕が放たれる。そのすべてが、非殺傷などを考えていない、本気の弾幕だ。
「くぅ………だけど、私も負けるわけにはいかないのよ!」
震える空気の中、私は偽物をしっかりと見つめ、弾幕を抜けていく。
「くらいなさい………!」
「………ははっ、終わり、か。」
私は、弾幕の隙間に、偽物を見つけると、いつもの符を放った。
「ホーミングアミュレットォォォッ!!」