奪憶異変―――雷神の怒れる咆哮―――妖怪の山より
「ここらに何かありそうなんですけどね………」
私、東風谷早苗は妖怪の山へ来ている。何時もならすぐに通り過ぎる道も、今はゆっくりと進んでいる。観察をしている、と言ってもいいが、もう一つ理由がある。
「………に、しても邪魔ですね、妖精達。」
と言いながら難無く霊力弾で一匹一匹撃ち落として行くが、こうも多いと、何時か避けられなくなってくる。
「めんどくさいですねぇ………吹き飛ばしますか。」
そう言い、懐から札………スペルカードを取り出した。
「奇跡『ミラクルフルーツ』」
その一発で、周りにいた妖精達は全て吹き飛んだ。………だれですか?(笑)って言った人。
「にしても………何も手掛かりが無いですねぇ………こんな時、椛さんがいれば………」
「呼びましたか?」
私が名前を呼んだ瞬間、少しボロボロになった椛が現れた。
「あ、ちょうど良かったです。頼みたい事があるんです。」
「いや、今はここから逃げないと………!」
「何があったんですか!?」
「山の頂上で、雷を操る女性が現れて………何かを探しているようなんですが、近づくと暴れだして………!」
「………まさか。」
私は、すぐに碧菜を頭に浮かべた。碧菜は、あんな性格でも、凄く仲間や家族への愛情が強い。今回の、鈴仙さんを始め、アリスさんやフランドールさん、映姫さんの記憶を奪われ、相当頭に来ているのだろう。
しかも、碧菜は、頭は回るが、すぐにカッとなってしまい、周りが見えなくなる癖がある。多分、それが原因だろう。
「わかりました。私が止めに行ってきます。」
「む、無理ですよ!いくら早苗さんでも………!」
「大丈夫です、安心してください。」
心配してオロオロする椛に、ゆっくり話して、安心させ、私は頂上を目指して飛びはじめた。
「邪魔ですね………!」
私は先程からもの凄い勢いで増えてきている妖精が放つ弾幕をグレイズしながら、どんなパターンなのかを頭に叩き込み、妖精に弾幕を当てて撃墜させる。
こんな所で、あっちでやったゲームが役に立つなんて………
「夢にも思わなかった―――っ!」
呟いた瞬間、私に向かってとんでもなく速いレーザーが飛んで来た。何とか避けると、そこには白い羽を生やした女性がいた。
「ほう、先程のを避けるか。」
「………貴女は。」
「ふむ、申し遅れたな。我は天狗の長、天魔を務めておる鞍馬 華生だ。人間………ではないな。現人神、名前は?」
「て、天魔!?」
これは本当に危ない。天魔の強さは、紫さんと同レベル、って未奈斗から聞いた事がある。………戦いを避ける為にも、相手に不快にさせないようにしなければ。
「………私は、東風谷早苗です。天魔様、私に何用でしょうか?」
神奈子様や諏訪子様に習った口調で、天魔様に話し掛ける。その口調が合っていたのか、天魔様は怒気を含むことなく、私の問いに答えてくれた。
「今、頂上へと向かっていたようだが、止めておいた方がいい。我が作った結界が僅か数秒で破壊する程の力の持ち主だ。」
それは、確実に碧菜の事を指している。碧菜には、理不尽な程の攻撃力と機動力がある。天魔様の結界が破られるのは余り気にしない。それに………
「大丈夫です。あの子は、私の少ない友達なんです。友達を止めるは友達でしょう?」
そう、言い放つと、天魔様は大声で笑い始め、私に話し掛けた。
「成る程な!!面白い、実に面白いっ!!………なら、その力、少し示して貰おうか。」
天魔様の周りが、急激に嵐で覆われ、私は、腹を括るしか無いことを悟った。
「………行きますよ!」
「来い、現人神!」
私と天魔様の戦いが、始まった。
私は先手必勝と言わんばかりに、最初から密度が濃い弾幕を放つが、流石は天魔、簡単にはダメージを受けてくれない。
「ふむ………我はこのスペルカードと言うものが苦手でな。」
そういった瞬間、私の弾幕が掻き消され、そこにはスペルカードを持った天魔様がいた。
「これ一枚で終了とさせていただくぞ!暴風『天魔様の風車』!」
「くっ!?」
私にもの凄い妖力が叩き付けられ、スペルカードに込められた霊力が霧散する。
「避け切れ、ということですか………!」
「そういうことだ!」
その瞬間、私に向かって超密度の小型弾、大型円型弾、レーザーが吐き出された。
「くっ………こっちは通常弾幕しか使えないわけね………」
そう言いながら、私は三日月型の弾幕を天魔様へ向かって飛ばす。が、
「甘いぞ、巫女?」
「なっ!?」
私の三日月型の弾幕が天魔様のレーザーに触れた瞬間、破壊され、新たな弾幕となって私に向かってきた。
「弾幕も駄目、なら………タイムアウトを目指す!」
先程破壊された弾幕を避け、超密度の弾幕の中に突っ込んだ。
華生side―――
「ふん………口ほどにも無かったな。」
我はそう呟くと、弾幕の中に突っ込んで姿が見えなくなった現人神から目をそらし、山の頂上付近を見上げた。
「やはり、我が殺して止めるか………」
そう言った瞬間、我の背後から声が聞こえた。
「そういえば………ちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。」
「なっ!?」
そこには、弾幕に飲み込まれたはずの現人神が我の近くまでいた。
「私の名前は東風谷早苗………能力は『奇跡を起こす程度の能力』です!!」
我は、そのまま現人神………早苗の弾幕をこの身に受けた。
早苗side―――
「危なかった………」
自分の能力を信じて、あの隙間の無い弾幕に飛び込んだときは、本当に自分の能力に感謝した。奇跡。本当にそう言わざるを得なかった。
「ふむ………早苗、と言ったか?」
「はい。」
天魔様が話しかけてきたので、私は少し気を引き締めて返事をした。
「………早苗の友人の事は、早苗に任せる。必ず、止めて見せよ………!」
「………はい!」
そういい、会釈をしてから、私はもう一度、頂上目指して飛んでいった。
「………これは。」
私が頂上付近にたどり着いたとき、目に飛びこんで来たのは、ボロボロになった草木と、焼き払われたような大地だった。
「………碧菜。こんなに………」
私は、言葉を失った。人は、こんなにも壊れるものなのか、そう思った。
「碧菜………」
「………誰よ?」
一つの高い声が聞こえ、その声の方向を向くと、そこには雷を纏い、槍を持った少女がいた。
外界の雷神―――刻麗 碧菜。
「何よ。早苗じゃない………」
「碧菜、とりあえず一旦落ち着いて、皆で話して考えようよ。そうじゃなきゃ、自爆するだけだよ!」
「五月蝿いわね。邪魔をしないで。」
「………なら、力づくでも。」
「いいわよ。今の私に………勝てるものならね!!!」
その瞬間、雷が弾けた。
「そっちから売ってきた喧嘩だからね。手加減なんて無しで行くわよ!」
そういった次の瞬間、スペカが碧菜の手に現れ、発動した。
「電砲『レールマシンガン』!」
光速。文字通り光の速さで放たれる機関銃は、ある程度のパターン性が有ると踏んで回避に専念した。
「お願い………!」
放たれる弾幕の中、たった一カ所、弾幕が通過しない点があった。そこは―――
「碧菜の目の前の直線上二メートル!」
私は勘に任せて光速の弾幕をかわし、その地点に到着した。
「ふん………ならこれならどう?」
そういい、碧菜はもう一つスペカを取り出し、私に向けた。
「雷槍『ランス・オブ・ロンギヌス』!」
「ッ!!」
碧菜の目の前から超光速で雷の槍が私に向かって飛んでくる。私はそれを予測して横に飛んだため、私の頬を掠めただけで済んだが、軽く痺れが残った。
「さあ、どうするの?」
「くっ………!」
私は持っている全ての知識をフル動員する。東方project………この幻想郷の物語を見てきた。今、使わなくてどうするの!?
「諦めないよ、碧菜………!」
「へぇ………やってみなさいよ!」
碧菜が攻撃の手を緩めず、そう告げると、私はスペカを発動させた。
「神嵐『グレイソーストーム』ッ!!」
「ッ………!くッ!」
私が放ったのは『グレイソーマタージ』と『神の風』を組み合わせたスペカ。今即興で作ったもの………だけど、これは碧菜の大の苦手スペル。つまり、碧菜はこれに意識をとられているはず!
「くっ、くそっ………!!」
「終わりよ、碧菜………!」
碧菜の避けているところに、私は一撃―――
「『スカイサーペント』ッ!」
碧菜の体に、弾幕が直撃し、意識を刈り取った―――