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  作者: Conejo
6/8

6話

この物語はフィクションです。登場する人物・団体とは関係ありません。

朝の浜辺は、昨日よりも少し明るく見えた。波の音を聞きながら、僕はゆっくり砂浜を歩いていた。

 昨日、ここで会ったあいつ。ゲームをしていたあの男子のことが頭に浮かぶ。少し口が悪くて、でもどこか気になるやつだった。浜辺を見渡してみたが、今日はまだ姿が見えない。代わりに、少し離れたところで二人の女子が座っているのが見えた。

一人は砂の上に座って本を読んでいる。ページをめくる音が、波の音に混ざってかすかに聞こえた。もう一人はギターを持っていて、静かに弦を弾いている。朝の空気の中に、やわらかい音が広がった。思わず、足を止めてしまう。そのときだった。

「……あ」

乾いた音がして、ギターの弦がぷつんと切れた。驚いたように顔を上げる。その動きにつられて、本を読んでいた女子も顔を上げた。

すると、ギターを持った女子が少し首をかしげながら言った。

「……もしかして、今の聴いてた?」

「知ってた曲だったので…」

「知ってたの?」

「はい……」

彼女はニコッと笑いながら優しい声でこう言った。

「こっちおいでよ」

本をパタンと閉じて歩き始めたとき、その子が転んでしまった。僕は思わず、走って助けに行ってしまった。

「どうして?」

「え?なにが?」

僕が聞き返すと、彼女は少しだけ笑った。

「いや、知らない人にいきなり声かけられたから…びっくりしただけです。」

「そっか、ごめんね」

僕は砂の上に腰を下ろし、少し距離を保ったまま言った。

「怪我してない?」

「……ちょっと掠っただけです」

ギターを持った彼女もこちらに歩いてきた

「大丈夫?」

「はい…」

「海水で洗ったら?」

その言葉に僕ははっとしてすぐに止めた。

「だめ!!」

「びっくりしたあ…急に大きな声出してどうしたの?」

「海水には細菌や不純物が多く含まれている可能性があって。感染症のリスクを高める恐れもあるんだ」

「そうなんだ……」

「こういうときは、天然水や水道水を使った方がいい。これ、まだ口つけてないから水あげる」

「ありがとうございます」

 そんな会話をしていると、後ろから聞き覚えの声がした。

「女子に媚び売りか?」

振り向くと、昨日のゲームをしていたあの男子がいた。

「女子に媚び売りか?」

ゲーム男子はにやりとしながら言った。

「媚びてない!怪我してたから手伝っただけ」

「へえ、そうか」

少し間を置いて、彼も砂の上に座った。

ギター女子は小さく笑い、読書女子もちらりとこちらを見た。

「昨日の人だよね?」

「なんで知ってんだよ」

「昨日もいたから。見てたの」

「そうだったんだ!」

彼は少し黙った後、ギターを見て、こう言った。

「俺、それ直せる」

「何言ってんのさ!私だってこんくらい直せるよ!」

「そうか……」

彼は静かにその場に座った。すると、読書していた彼女が本をカバンにしまってこう言った。

「あの、皆さん何年生なんですか?」

「僕は高2」

「俺は高1」

「私は高校通ってないけど高3の年になるのかな」

「学校、行ってないか…」

僕は思わず呟いてしまった。

「あ、ごめん。変な空気にしちゃったね」

「俺も行ってない」

「え?」

「行きたくないんだもん」

「そう…なんですね……」

突然の言葉に僕たちは言葉を詰まらせた。少し考えて僕は話題を変えることにした。

「…そういえば、みんな名前なんていうの?」

「俺は龍太(りゅうた)。よく龍って呼ばれる」

「私は莉菜(りな)っていいます」

「私はあかり!」

「あかり…?」

「うん?どうした?」

「え、苗字なんですか?」

「齋藤だけど……」

「え?!齋藤あかりって、あの?!」

「ああ、まあ?」

「え?なに?この人凄い人なの?」

「アイドルだよ!すごい!こんなとこで会えるなんて!」

「なーんだ。気づいてると思ってたよー」

「私、あの曲大好きで!」

「そうなの?嬉しいー!ここであったことは広めちゃダメだからね?」

「もちろんです!」

龍はふっと鼻で笑い、僕の耳元でこう言った。

「ありゃ、もう完全女子会だな」

「そうだね…」

「てか、お前の名前聞いてなかったな」

「確かに。僕は(たか)だよ。よろしく」

僕たちが浜辺でそんな話をしていると遠くから声がした。

「おーい!」

「うわ…最悪だ…」

女子たちも会話をやめてそちらを見る。

「あれ誰ですか?」

「俺の親。すぐ追いかけてくるから浜辺でゲームしてたんだけど、ついにバレたみたいだな」

「こんなところにいたのね。部屋戻るよ…って、この子達は?」

「誰でもいいだろ」

龍は不機嫌そうに親とホテルへ戻って行った。

「……今日は、解散しようか」

「そうですね。みんな、どのくらいここに?」

「私は明日まで」

「私もです!」

「僕も同じく」

「龍も明日までですかね」

「また…会えるといいな」

「そうだね」

僕たちはそのままホテルに戻った。ホテルに戻る彼女達の表情はなんだか切なかった。


 部屋に戻ると、お父さんはルームサービスを頼んでいて、テーブルの上には朝食が並んでいた。

「おかえり。お腹、すいたか?」

「うん」

僕たちは並んで座り、パンや卵、フルーツを少しずつ口に運ぶ。静かな時間の中で、ふとお父さんが声をかけてきた。

「浜辺に行ってたのか」

「うん、ちょっとね」

「散歩か?」

「まあ、そんな感じかな…」

お父さんは黙ってうなずき、にっこり笑った。

「そうか。こうやって外に出て色々見たりするのも大事だからな」

「うん…」

朝食を食べながら、僕は昨日の浜辺のことや、少しずつ思ったことを話してみた。お父さんは時々相槌を打ちながら、僕の話をじっと聞いてくれる。その落ち着いた時間の中で、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

「じゃあ、医者以外になりたいことがあるってことか」

「うん…まだ、自分のやりたいことは決まってないんだけどね」

「昨日も言ったけど俺は自分のやりたいことを自分で選んだ。だから、お前も誰かに言われやるんじゃなくて、自分でやりたいことを探してそこに向かって頑張ればいい。」

僕は目の前の朝食に手を伸ばしながら、浜辺や出会った人たちのことを思い出した。龍も、あかりも、莉菜もそれぞれ自分の道を持っていて、それでも少し迷っていた。話している時に少し感じていた。

あの子たちもなにか抱えているものがある。それでも考えるのを辞めずに動こうとしている子もいるはずだ。

「僕も…少しずつ、動いてみようかな」

お父さんは優しくうなずいた。

「その意気だ。無理に全部決める必要はない。お前なら、自分でちゃんと見つけられる」

テーブルの向こう側でお父さんが笑っているのを見ながら、僕の胸の奥には、小さな希望が芽生えた。

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