3話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体とは関係ありません。
今日もよく寝た。十二時か。腹減ってないんだよな。そういえばゲームアップデートされたんだった。遊ぼう。 これが俺の日常。学校にも行かずに家でダラダラする。そこに理由なんてなかった。
「おお、新しい武器かっけえ…!」
俺がそんなことを叫びながら遊んでいると、あいつが階段を上がってくる音がした。
「起きたのー?」
「うるせえ、今ゲーム中なんだよ」
予想通りお母さんだった。俺はあいつが大嫌いだ。もう何週間も顔を見せてない。
「……ごはん、部屋の前に置いとくからね…」
最初は皆と同じように制服を着て学校に通ってた。俺が学校に行かなくなったのは学校や友達、先生のせいではない。本当に突然のことだった。俺の母は俺が生まれたときからシングルマザーで、毎日朝早くから働いて夜遅くに帰ってきていた。母は俺のためだけに働いていた。そこで申し訳ないという気持ちが当時は少しだけあったのかもしれない。ただ、今の俺にはそれが分からない。俺のためにテレワークに切り替えて、ご飯作って。なぜ、そこまで俺のために動けるのか俺には理解ができなかった。
ある日の朝、いつも通り学校の支度をしていたが、突然目から水がこぼれた。不思議だった。そもそも俺はあまり泣かないタイプで俺の泣き顔を見たことがあるのは数人もいないと思う。そんな俺がいきなり泣くなんて。すぐに涙を拭いて制服に着替え、家を出た。しかし、その日はどこかおかしかった。俺は涙が止まらなくなってしまい、家に戻った。母は朝早くに家を出るから家には俺だけしかいなかった。俺は母に電話で事情を説明し、その日は学校を休ませてもらった。おかしくなったのはそこからだった。
あの日から、玄関で靴を履こうとしただけで胸が苦しくなった。ドアノブに手を伸ばした瞬間、あの日の朝が頭に浮かんだ。そんな状態で進路を決めていけと学校では何回も言われ、何も考えられなくなってしまった俺は、不思議なほど優しくしてくる母も、いつも一緒にいた友達も、今俺の目の前にある大きな壁も全て鬱陶しくなってしまい、気がつくと部屋から出ない子供になっていた。ダメだということは理解している。だが、そんなことを考えるより一人でゲームしていた方が楽しいし、楽だった。
「いけ!やれ!あ…負けた…」
コンコン。ドアをあいつがノックする音がした。もう、来なくていいのに。今日はいつもよりも来る回数が多い気がするのは気のせいだろうか。
「買い物、行くけどなんかいる?」
「そういうのいいから」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
静かになった。もう買い物に行ったっぽいな。俺は飲み物とお菓子を取りに部屋を出て階段を降りた。すると、なぜかリビングに親がいた。
「は?」
「やっと顔が見れた…」
「何言ってんの?」
「ずっと会いたかった…」
俺は急いで部屋に戻ろうとしたが遅かった。母は俺の手首をガシッと掴み、僕の目をしっかりと見てこう言った。
「もう離れないで…誰も失いたくないの……」
「彼氏でも作ればいいじゃん」
「そうじゃなくて……!」
「じゃあ、なんだよ!そこまでして、俺と一緒にいたいか?!もう話しかけてくんな!」
「わかった……じゃあ、これから話しかけないようにする」
母にしては素直だった。俺は嫌な予感がした。
「だから、最後のお願い事してもいい?」
「早くして。俺ゲームが…」
「お母さんと旅行に行ってくれない?」
母の顔は海の底くらい暗かったが、ほんの一部輝いているように見えた。
「は?何言ってんだよ」
「2泊3日……お願い……もうそしたら、朝起こしたり、話しかけるのも全部辞めるから……」
「……行けばいいんだろ」
この言葉を発したとき、俺はもう後戻りできないであろうことを確信した。
「ありがとう……」
遠出するのは何年ぶりだろうか。ずっと部屋にこもっていた俺にとって、外に出ることは不安だった。それでも、これで自由になれるのなら、俺は行くしかなかった。




