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『肝っ玉母ちゃんの国』  作者: くろめがね


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4/5

第四話 国より先に守るもの

5分の4話です。

 夜が、静かすぎた。


 戦の前の夜は、いつもそうだ。

 虫が鳴かず、風が止まり、人の息だけが残る。


 私は、村の外れに立っていた。

 焚き火は消してある。

 子どもたちは、地下に掘った穴に集めた。


「数は?」


 男――若侍が、低く聞いた。


「十数人。

 装備は軽い。

 村を焼いて、攫うつもり」


「……俺の追手だ」


 私は首を振った。


「違う。

 これは、隣国の先触れ」


 男の顔色が変わった。


 隣国は、子どもを兵にする。

 それを、彼は知っている。


「この村を落とせば、次は――」


「子ども」


 私が言うと、男は歯を食いしばった。


 母の声が、頭をよぎる。


「守れるものから守れ」


 私は、皆に言った。


「刃物は、最後。

 まず、迷わせる」


 母の国は、殺し合いを前提にしない。

 逃げ道を作り、足を取らせ、時間を稼ぐ。


 若侍は、地面に膝をつき、枝で図を描いた。


「……ここを崩せば、進めない」

「川は増水してる」

「煙を使う」


 有能だ。

 だが、顔が青い。


「逃げる道は」


 私が聞く。


「……ない」


「作る」


 私は即答した。


「子どもが通れる幅で」


 男は、私を見た。


「……あなたは、なぜそこまで」


「母が、そうだった」


 それ以上の理由はない。



 戦は、あっけなく始まった。


 火。

 怒鳴り声。

 足音。


 男は、前に出た。

 剣を抜き、叫ぶ。


「ここは、村だ!

 獲物じゃない!」


 返事は、矢だった。


 一本。

 二本。


 男は避け、地面を転がり、立ち上がる。


 怖いはずだ。

 肝が小さいと、自分で言った男だ。


 それでも、逃げなかった。


 理由は、私の後ろにある。


 子どもたち。

 年寄り。

 母の国。


 男は、叫んだ。


「退け!

 ここには、価値がない!」


 嘘だ。

 ここには、価値しかない。


 隣国の兵が笑った。


「価値がないなら、燃やすだけだ」


 その瞬間、男の目が決まった。


 剣が、走る。


 最小限。

 致命だけ。


 殺すためじゃない。

 止めるための剣。


 私は、母の布を握りしめた。


 敵国の言葉。

 母の出身。


 血は、巡る。

 でも、選べる。



 夜明け前、戦は終わった。


 死者は出なかった。

 怪我人は、出た。


 若侍は、肩で息をしていた。

 震えている。


「……終わった」


「まだ」


 私は言った。


「終わるのは、選んだ時」


 男は、私を見た。


 そして、深く頭を下げた。


「……俺は、国より先に、あなたを選ぶ」


 言葉は、短かった。

 重かった。


「あなたのいる場所を、国にする」


 甘さはない。

 逃げもない。


 私は、すぐには答えなかった。


 村を見る。

 子どもを見る。


「……条件がある」


「何だ」


「この村を、切り捨てない」

「子どもを、道具にしない」


 男は、即答した。


「誓う」


 その誓いは、

 命より重かった。



 朝日が、村を照らした。


 子どもたちが、外に出てくる。

 泣かない。

 逃げない。


 私は、思った。


 母ちゃん。

 あなたの国は、まだ小さい。


 でも――

 戦に勝った。


 勝ち方を、選んだ。


 若侍は、黙って私の隣に立った。


 恋ではない。

 でも、離れない。


 それで、十分だった。


恋ではないのか、愛ではないのか、何なのか。

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