第二話 母のいない村
5分の2話です。
母が死んでから、何年が経ったのか、私は数えなくなった。
数えると、立ち止まる。
立ち止まると、守れなくなる。
「婆さま、薬は飲んだ?」
「飲んだよ。あんたがうるさいからね」
私は笑って頷いた。
うるさいと言われるくらいが、ちょうどいい。
村と呼ぶには小さな集まりだった。
焼け残った家は三つ。
あとは、掘っ立て小屋と、風よけの壁。
それでも、人は生きていた。
子どもが九人。
年寄りが五人。
働ける大人は、私を含めて四人。
足りない。
いつも、足りない。
だから私は、並べた。
「子どもは水汲みをしなくていい。
婆さまたちは火の番。
畑は交代で。
今日は痩せてる人から食べる」
「なんで私が後なのさ」
「元気だから」
それで納得する人間だけが、ここに残った。
母の国は、そういう国だった。
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私は、誰にも命令しない。
お願いもしない。
ただ、決める。
決めて、先にやる。
水を汲む。
畑を耕す。
怪我を縫う。
泣いている子を背負う。
母がそうだったから。
「姉ちゃん」
背中で声がした。
ユキ。
母を失った夜、私の袖を掴んで離さなかった子だ。
「今日、川、増えてる」
「近づくな。上流で戦があったかもしれない」
「でも、魚……」
私はユキの頭を軽く叩いた。
「生きてる人間の方が先」
ユキは口を尖らせたが、引き下がった。
分かっている。
この村では、私の言葉が“最後”だ。
それが、少し怖かった。
母は、もっと自然だった。
私は、母の真似をしているだけだ。
それでも――
真似をしなければ、母は死ぬ。
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夜になると、私は一人で焚き火を見る。
母の布を、今も持っている。
敵国の言葉が縫い込まれた、あの布。
誰にも見せていない。
見せたら、壊れる。
母が守ったこの国は、
母が“敵”だった国でもある。
「……母ちゃん」
私は火に向かって言った。
「私、うまくやってる?」
返事はない。
でも、子どもたちは眠っている。
それでいい。
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ある日、川が騒いだ。
増水。
濁り。
そして――流れ着いた影。
「人だ!」
声が上がる。
私は走った。
鎧。
刀。
血。
生きているかどうかは、二の次だった。
「運べ!」
誰かが躊躇した。
私は睨んだ。
「子どもを守る村だろ。
今は、この人が“子ども”だ」
それで、皆が動いた。
男は、息があった。
有能そうな体つき。
でも、手が震えている。
「……やめろ」
男は、薄く目を開けた。
「……ここにいると……巻き込む」
「もう巻き込まれてる」
私は即答した。
「今さら、遅い」
男は、それ以上、何も言わなかった。
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その夜、私は母の布をしまった。
理由は分からない。
ただ、嫌な予感がした。
母は、こういう時、必ず前に出た。
「大丈夫だよ」
そう言って。
私は、まだ言えない。
でも、言える日が来る気がした。
川から拾った若侍は、
この国を――
母の国を、試す存在になる。
私は、そう感じていた。
やっと、恋の相手が出てきたように見えます。




