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国喰らいの深海姫  作者: セキド烏雲
第2章

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S-99 「不公平を排除しました」

バイレスリーヴ領南/隠れベイン・ファラハ/クルーア廃坑外/谷の中腹付近【視点:幽霊王子ルト】


 僕は、ルガルフに《魔疫魔法》の補助呪文オズ・ゼレムをかけた後、イルの中からヴェルメリオの興味深い能力を観察していた。


 僕は吸血種との戦闘は初めてだ。彼ら吸血種は皆このようなことが出来るのだろうか。だとしたら、種として優遇されすぎている。


 空中を自在に浮遊する能力、蝙蝠群体化・集合させ人体化する能力、放った矢を停滞させる能力。これら全てを、ヴェルメリオは魔法を唱えることなく使用している。そのどれもが、どのように行っているのか、僕には見当もつかなかった。


 ただ、その現象を、僕が理解できるものに置き換えることはできる。停滞の矢は、禁術《刻世魔法》の時間支配。浮遊能力は《風凪魔法》…いや《雷駆魔法》の反発浮遊か。そして、蝙蝠の分体化は…理解に苦しむが、イルやライカンスロープの変身能力の上位互換なのかもしれない。


 魔法の作用には、魔法の作用で対処できる。あの能力が魔法的な作用なのであれば、対となる魔法を唱えれば打ち消すことが出来る筈だ。


 どんな魔法なら打ち消せるだろうか…


 そんなことを考えていると、イルから声がかけられた。


「ルト、あの矢、なんとかして」


 即答は出来ない。何故なら何とか出来るかはやってみないと分からないからだ。

 視角を切り替え、イルの肩から飛び出す。


「…ひとまずやってみます」


 僕は、記憶の図書館から、失われた言語で読まれる、刻世魔法を引っ張り出した。

 刻世魔法。僕の時代でも禁術扱いされていた、この世の理を捻じ曲げる驚異的な魔法。僕には、人の意識を引き伸ばしたり縮めたりすることのほか、意志を持たない物体の移動速度を変えたりするくらいしかできない。


 この魔法の発動には、莫大な魔力を必要とするにも関わらず、殺傷能力が低い為、使用する場面はあまり無いのだが、イルの無尽蔵に近い魔力を使える今なら魔力を気にせず使うことができる。


 ただ、詠唱文が長く、魔力の繊細な操作が必要であり、省略詠唱ができないため、連発できないのが玉にきずだけど。


「こほん…。では」


 僕はもったいぶりながら、刻世魔法の呪文を詠唱した。


 アナ・アル=ワーイッド、ワ・クッル・シャイイン・カイイム。(我こそが支配者、万象は我に従う)

 ツィールー!リ=ヴコア・アール=ホク、ビ=アッゼマート・アン=ヌール。(告げよ!現世の理を穿て、魔力たる光の威光で)

 タスリ・アル=ウージュード・ビ=アルフ・カドル!(存在の駆動を、千倍の尺度で加速せよ!)

 マーヘル!マーヘル!マーヘル!ハタム・ハ=ボーレク・イキエーム!(急げ!急げ!急げ!疾速の刻印よ、今こそ確立せよ!)


 僕の霊体からごっそりと魔力が抜け落ち、すぐさまイルの身体から魔力が供給される。


 魔法は即座に発動し、輝く粒子が停滞の矢が点在する空間を覆いはじめた。


 すると、それらの矢は、途端に停滞が解除され、ヴェルメリオの意思を関わらず、一斉に解き放たれた。


「なにっ!?何故だ…」


 ヴェルメリオは焦って停滞の矢を再配置しようと試みるが、煌めく空間により、停滞させる事が出来ず、それらは意図せず即座に放たれる。


「おぉ!やるじゃん!無効化した!」


 イルが素直に褒めてくれた。母様以外に自分の魔術を褒められてうれしいのは、彼女くらいだ。


(やはり。あれは魔法的な作用だったか。だとすれば…)


「聴け、大空を穿つ天光の神よ…」


 僕は次なる魔法の詠唱を始めた。


 ■ ■ ■


バイレスリーヴ領南/隠れベイン・ファラハ/クルーア廃坑外/谷の中腹付近【視点:常闇の手ルガルフ】


 イルに憑依しているゴースト、ルトが何らかの魔法を唱えたことで、ヴェルメリオの矢は停滞をすること無く、即座に放たれるようになり、奴の多角的な戦術を潰すことに成功した。


 加えて、ルトが放った別の魔法の影響で、辺り一面がピリピリとした電気を帯び、ヴェルメリオの飛行する能力まで奪い取ることができた。


「くそっ!お前!何しやがった!!」


 ヴェルメリオは、取り乱し、吠え猛る。


「不公平を排除しました」


 幽霊少年、ルト。どちらかといえば、ノエル的ないけ好かない存在だったが、見直した。


「やるな!ゴースト!」


 あとは蝙蝠の分体となって逃げることだけを考えれば良い。


 俺はこれまでヴェルメリオに透かされ続けてきた憎悪の力で身体を奮い立たせ、渾身の力を脚に集めて、一気に距離を詰めた。


 ルトの魔法の効果を受けてか、身体能力の凄まじい向上を感じる。脚力は想定の数倍に増しており、自分の速度を制御できないほどになっていた。


「グルルルァ!!」


 取り乱したヴェルメリオに勢いよく喰らいつく。


 しかし、その直前に奴は再び蝙蝠となって俺の攻撃をすり抜けていった。


 一匹の蝙蝠を噛み砕いたが、そこに奴の意思は無く、口の中で千切れた蝙蝠はさらに細かな蝙蝠となって俺の牙をすり抜けていった。


「雑魚の犬っころは相手にしてないんだよ!」


 ヴェルメリオは弓を射る。その弓は三本の矢となり、等間隔に飛んで来た。だが、感覚を研ぎ澄まし、ルトの強化魔法も受けた俺にとって、躱すことなど造作もなかった。


 俺を狙った隙をついて、イルはヴェルメリオに分裂した尾による予測不能な全方位攻撃と、黒く錆びた剣を使った攻撃を仕掛ける。


 しかし、奴はその動体視力と蝙蝠群体によりことごとく躱す。


 その様子を観察していた時、俺の脳裏にはさっき感じたことが想起された。


(蝙蝠を噛み砕いたが、そこに奴の意思は無かった)


 もしかしたら、あの蝙蝠の群れの中に、奴の意思を司る本物の一体がいるんじゃないか。だとしたら、其れを攻撃すれば、奴にダメージを与えられるかもしれない。


 俺は、自分の感覚を限界まで研ぎ澄まし、蝙蝠の分体に全ての意識を集中させた。

 周りの音が聞こえなくなる。


 視界が狭まる。


 イルが攻撃し…蝙蝠の分体となってイルの背後に移動する。

 その際…蝙蝠の中の一匹に、濃い血の匂いを感じた。


(アイツだ)

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