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S-39 「なんてヒデェ攻撃だ!」

挿絵(By みてみん)

帝国第弌皇女ジーナ・マグ・ファラン

バイレスリーヴ/闘技場/舞台


 地上と空からの連携は、絶望の淵に立たされた彼らが、まだ闘志を失っていないことを示していた。


 しかし、この攻防が長くは続かないことを、誰もが悟っていた。この即席の陣形は、キノルの残り少ない魔力が尽きた瞬間に、あっけなく崩壊する。そして、その魔力は、彼女の疲弊具合からみて、恐らくあと一、二撃程度が限界だろう。


 ダイアナやファイネは、現状を打破しようと、彼女らと適性のある水氷魔法や風凪魔法をヴュールに打ち込む。だが、それは硬質な鱗に覆われた異形の魔物には、然たる効果がない。


「相性が悪いわね……!」


 ダイアナは歯噛みし、焦燥を募らせる。守護者としての矜持が、彼女を苦しめていた。


 その時、舞台の端にルーガットが姿を現した。彼は攻撃の余波を縫って舞台に近づき、懐から青っぽい小瓶を高く掲げた。


「ファイネ!これを!」


 それは、イルが書店へ取りに向かった《魔力の雫》と似た効能を持つ高級薬《魔力ハイポーション》。

 ルーガットが、ダイアナやファイネの魔力回復のために個人的に持ち込んでいたものだ。資金のないオリアンにはとても準備できないような代物。彼はそれを三本掲げている。


 彼の存在に気付いたヴュールは、それが自分にとって良くないものであると本能的に察知したのか、青白い光を帯びながらルーガットに向けて叫び、頭上に現れた水氷魔法による複数の氷のトゲを勢いよく発射した。


「いけない!」


 そのトゲがルーガットに目前と迫るなか、ダイアナは彼の元に駆け、倒れ込みながらも魔法障壁を展開し、氷のトゲを中途から防いだ。


「ぐぬぅ……!」


 しかし、すべての攻撃を防ぐことは出来ず、氷のトゲがルーガットの肩を貫き、三つのポーションのうちの二つを落として割ってしまった。


「ギシャシャラァァア!!!」


 ヴュールはダイアナの隙を見て、即座に魔法により氷のトゲを生成し、その倒れたダイアナに向けて、無情にも氷のトゲが襲いかかった。


「ダイアナ!」


 ルーガットが血を流しながら叫ぶ。


 その刹那、陶器が割れるような音とともに、ファルクレオとカースランが、その大剣と大斧で体を張って防いだ。しかし、氷の破片はその勢いのまま、ファルクレオやカースラン、そしてダイアナまでにも降り注ぎ、体中に突き刺ささる。


「なんてヒデェ攻撃だ!」


 カースランは怒りをにじませ、唸る。


 ズガァァァン!


 キノルはその隙を見て唱えた雷駆魔法で、敵の動きを一時的に麻痺させ、ファイネとともにすかさずルーガットの元へと急行した。


「復帰したぞ!」


 ジーナは、大声をあげてヴュールの動きを皆に伝え、最前線に立ちながらその矛による攻撃を見事に捌き切る。攻撃がことごとく弾かれ、ジーナに苛立ったヴュールは、怒りの咆哮とともに青白い光を帯び、魔法へとつながる動向を示した。


「聴け、大空を穿つ天光の神よ。我が瞳に映る、悠遠なる光速の系譜を認めよ」


 ポーションを一本飲み干したキノルは、その場で即座に詠唱を始める。ヴュールの青白い光は更に強く輝く。ダイアナが離れた隙に、水氷魔法による激流を放ち、ジーナを吹き飛ばそうとしている。


「ジーナ!逃げろ!」


 カースランが叫び、ファルクレオと共にヴュールを阻止しようと駆け出す。しかし、彼らの身体能力をもってしても距離的に到達する事は困難。ファイネも、ダイアナを浮遊させて共にジーナの下へ向かうが間に合いそうもない。


 そんな中、ヴュールは無情にも、矛の攻撃と魔法の詠唱を両立させ、ジーナを釘付けにする。

 このまま動けないようにして、彼女を激流を撃ち付けて木っ端微塵にしようというのだ。


「ぐっ……なんて猛攻」


 ジーナはその美しい顔を苦痛に歪ませる。


「クソッ!こっち向けよ!」


 グリンネルは、ヴュールの背後から炎の斬撃を立て続けに打ち込み陽動を誘うが、ヴュールは反応すらしない。


「ギシャァァア!」


 ヴュールが大きな唸り声をあげる。魔法の詠唱が終わった合図に思えた。


「チィッ」


 ジーナは、その猛攻でこの場を離れる隙もなく、ただその激流を真正面から受けざるを得ないという諦めの表情をにじませた。


 誰もが絶望を覚えたその時、ヴュールの足元から、幹のきしむような音とともに、勢いよく植物の蔦がその脚を伝い這い上がっていく。


「今だ!!雷の魔術師!」


 衛士長官、ディナリエルが、その場に乱入して叫ぶ。その蔦はエルフ等、数少ない種族にしか適性が現れない、《緑沃魔法》による《芽胞早成ルアス・ゲルメン》だ。


「肉は静止せど、精神こころは千のいかずちを駆り立てん。万の遅滞を破り、ただ一筋に、即座の裁きとなれ!」


 ズズガァズガァァン!!!


 衛士長官ディナリエルの緑沃魔法による芽胞早成ルアス・ゲルメンでヴュールの動きが封じられた瞬間、キノルの雷撃クッキー・インパクトが叩き込まれ、異形は片膝をついた。


 その一瞬の隙は、まさ彼らが待ち望んだ好機だった。


「ギジジジジジ……」


 ヴュールは動きを止め、片膝をついた。


「今だ!死ぬ気で猛攻をかけろ!!」


 カースランの轟くような合図で、戦士たちは一斉に動いた。ファルクレオとカースランは、その巨躯と巨大な武器でヴュールの両脇を固め、肉を断つような真空の刃と、骨を砕くような戦斧の打撃を浴びせる。


 グリンネルは、灼熱の炎を纏った斬撃で、鱗の隙間を焼き、黒煙を上げる。


 ファイネは風凪魔法で舞台の埃を巻き上げ、ヴュールの視界を奪いつつ、キノルをサポート。


 ダイアナは事前詠唱を完了させ、いつでも魔法障壁を展開できるように集中力を維持しつつ、武器を無力化するため、ヴュールの三叉鉾を炎破魔法と水氷魔法で交互に攻撃する。


 キノルは《魔法のポーション》によりわずかに回復した魔力で、攻撃の合間を縫って雷駆魔法を放ち続けた。


 ディナリエルは、緑沃魔法を絶妙なタイミングで維持しつつ、負傷したルーガットを庇いながら待避所へと連れ戻した。


 六人の剣闘士らの連携は、寸分の狂いもなく機能していた。そして、束の間の希望が、闘技場を照らした。だが、それは儚い夢に過ぎなかった。

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