S-24 「今ごろあの世で、この儂を見て哀れんでおるだろうか」
バイレスリーヴ/闘技場【視点:世界(観測者)】
華々しいファンファーレが鳴り響き、バイレスリーヴの闘技場は割れるような熱気に満ちていた。
舞台の中央で、快活な司会者、サファルが、会場の四方に向かい礼をした後、貴賓席に向かって最敬礼を行った。
「皆さん!静粛に!」
司会者は手に豪奢な装飾が施された筒状の魔道具を持ち、それを口元に向けて話し始めた。彼の声は、その魔道具によって、闘技場の隅々まで響き渡る。
「いよいよ、バイレスリーヴの決戦の時がやってきました!この日のために、この地方の強者中の強者が、今、この舞台で死闘を繰り広げようとしています!そして、この熱い魂のぶつかり合いを裁くは、前日もお目見えしました、大会司会を務めるサファルです!」
観客席では、売り子をしていたグラースが背中の酒樽を一旦下ろし、太い腕を組んで天を仰いだ。バラとファウラも手を止め、客席の隙間から舞台を食い入るように見つめている。
「ただ今より、決闘大会の幕を開けたいと思います!出場する候補者は、ご周知の通り、冒険者ギルド会長アドホック氏、商業ギルド会長ルーガット氏、前元首の息子オリアン氏の三組でございます!」
そのアナウンスと共に、冒険者ギルドの旗、商業ギルドの旗、そして前元首ワードベック家の旗が、次々と掲げられる。旗が風に翻る度に、会場のボルテージは上がっていく。
「この三組から、本日の第一試合を決定するため、厳正なるくじ引きを行います!さあ、栄光の第一試合に名を刻むのはどの二組なのか、そして、次なる舞台への切符を手にするシード権を獲得するのはどの組なのか!」
カーン
鐘の音が鳴り響き、くじ引きの結果が発表される。
孤児院のウィルは、仲間たちと共に観客席から身を乗り出し、固唾を飲んでその行方を見守っていた。
「くじ引きの結果が出ました!第一試合に臨むは⋯⋯」
司会が作った、その「間」だけで、数千の観衆が釘付けになる。
「ルーガット氏とオリアン氏の両陣営でございます!そして、英雄の神ゾーディアの恩寵を賜りシード権を獲得したは、アドホック陣営だ!」
その結果に、貴賓席に座るザーラムの執政官、バージェスは、大きく口を開けてにやりと笑った。その横では、連合王国の使者アウルスが、つまらなそうに鼻を鳴らしている。
「しかし、ここで皆さまに残念なお知らせがございます」
司会の言葉に、観客席の熱気がざわめきに変わる。
ウィルの顔にも、不安な表情が浮かんだ。
「現在、オリアン陣営の姿が、確認できておりません。大会規定により、第一試合開始の合図までに、出場選手が舞台に現れなかった場合、その陣営は失格となります!」
客席のどよめきは最高潮に達し、ウィルは唇を噛みしめ、オリアンへの祈りを込めて拳を強く握りしめた。
「果たしてオリアン陣営は、この大舞台に間に合うのか!それとも、彼らはこのまま姿を現さず、棄権となるのか!さあ、注目の第一試合、まもなく開始です!」
こうして、様々な思惑が渦巻くバイレスリーヴ決闘大会の火蓋が切られることとなった。
■ ■ ■
バイレスリーヴ/闘技場/舞台【視点:商業者ギルド会長ルーガット】
エドワルドの奴は、今ごろあの世で、この儂を見て哀れんでおるだろうか。
舞台の中央に立った儂は、向かいのその場所にエドワルドの倅が来ないことを知っている。何故ならアヤツは今、濡れ衣を着せられ、監獄に収監されているからだ。
誰もいないはずの空間をじっと見つめ、虚ろな気持ちで空を仰ぎ見た。
友、エドワルドの死に際して、儂はその魂を弔う時間すら持つことができなかった。そのことが、今になって胸を締めつける。
本来なら、老いぼれは早々に引退し、若者にこの国の未来を託すべきなのだろう。
だが、エドワルドの倅はあまりに力不足だ。
元首は議会から選出されるという縛りがあり、ダイアナからの強い後押しもあった。……故に、儂はこの場に立つことを決意したのだ。
舞台の横、観客席の下に位置する控え席には、儂の「三人」の剣闘士たちが揃って、試合開始に備えている。さぁ、あと僅か。間もなく儂の虚しき不戦勝が決定する。




