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S-151 「野郎ども!帆を張れぇ!」

内海/ザーラム・バイレスリーヴ間航路【視点:世界(観測者)】


 港を離れる一隻の巨大な帆船。その船体は闇のように黒く、現代の造船技術とは一線を画す禍々しい威容を誇っていた。


 かつて《黒き監視団》の地下アジトの奥深くに打ち捨てられていた、古代の遺物。長い眠りから目覚めたその黒き旗艦に続き、商船を武装改造した船や、大型の漁船など、形も大きさも不揃いな船団が続く。見栄えは悪い。だが、その船団が放つ殺気は、正規軍のそれよりも遥かに鋭く、重かった。


「野郎ども!帆を張れぇ!こいつはただの古道具じゃねぇ、風を食らって走る怪物だ!」


 甲板で仁王立ちになり、マストが震えるほどの怒号を飛ばすのは、海運ギルド会長ユーラハン。彼は、癖のある古代船の舵輪を強引に、しかし手足のように操りながら、潮の飛沫を全身に浴びて笑う。


「板子一枚下は地獄だ!派手に踊ろうじゃねぇか!」


「……君の操舵技術は合理的だが、私の三半規管には極めて不親切だよ」


 その横で、手すりを強く握りしめ、青ざめた顔で海面を睨んでいる男がいた。街の本屋――その正体は、キノルの師、大魔術師ニーネッドだ。


「おやァ?なんだニーネッド、もうグロッキーか?」


 ユーラハンがニヤニヤと覗き込む。


「吐きそうだ……。揺れを計算に入れて、もう少し優しく扱えんのか」


「はっはっは!兄貴のルーガットも同じことを言っていたぞ。『ユーラハンの船は二度とごめんだ』ってな。兄弟揃って、陸の人間は軟弱だなぁ!」


 豪快に笑い飛ばすユーラハンの背後、甲板の中央には、大戦士ファルクレオが腕を組んで佇んでいた。かつて最強の名をほしいままにした男は今、用心棒としてこの船に乗り込み、巨木のようにピクリとも動かず、来るべき死闘に向けて闘気を練り上げている。


 一方、光の届かぬ船の最下層――湿った空気が淀む船底。そこには、黒いローブを纏った人影が、薄暗い闇に溶け込むように座していた。黒き監視団の幹部、白鱗の祈祷師スノゥシャ。ローブの裾からは、純白の鱗に覆われた長く美しい蛇の尾が覗き、床を這っている。


「……海よ。深き底の同胞よ。……我らが道を、屍で飾りたまえ」


 彼女は床に魔法陣を描きながら、呪詛にも似た祈りを捧げていた。その声に呼応するように、船底の軋み音が、何かの鳴き声のように響いた。


 そして、遥か頭上。空に突き出した見張り台には、黒いローブを風にはためかせる長身の怪人、ヨークスの姿があった。彼はそのつぶらな瞳を細め、水平線の彼方を凝視していた。


「…………来た」


 ヨークスの瞳が捉えたもの。それは、水平線を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な数の「影」だった。無数の帆。林立するマスト。その全てに、ザーラム共和国の紋章が翻っている。


 絶望的なまでの戦力差を誇る大船団が、バイレスリーヴの海を飲み込む津波となって迫っていた。

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