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004 重力無重力

「全然、空気なかったから、買い物のついでに空気入れておいたよ」

「パパ、ありがとう。なんかあのママチャリ進みが悪いと思ってたんだよね。助かる」


 買い物から帰ってきた宮田が手を洗っていると、妻は機嫌がいいのか、ロードバイクについて珍しく宮田に聞いてきた。


「ロードバイクって、やっぱりママチャリと全然違うの?」

「なんか、前にも同じこと聞かれた気もするけど。色々違うけど、わかりやすいところで言うと重さがね、全然違う」


 一般的にママチャリと呼ばれるシティサイクルの重量は20kgほど。ロードバイクはその半分以下と言われている。ママチャリに付いているカゴ、スタンドは、ロードバイクにはもちろん無く、長時間、高速で走れるよう設計されている。しかし、一口にロードバイクと言っても、そこは機材スポーツ。リアルな話、値段によって性能は異なる。重量も。


 ロードバイクの中でも、初心者向けに比較的購入しやすい価格帯で提供されているのが「エントリーモデル」。宮田が乗っているのはアメリカのメーカーTREKのエントリーモデル「Domane」で、お値段は12万5,000円。フレームの素材はアルミで、重量は9.7kg。一方、レースで勝利を目指す人やプロレベルの性能を求めるサイクリストたちが乗るのが「ハイエンドモデル」。素材はカーボンで、重量は7kg以下のものがほとんど。軽量化、空力性能、加速性能…最新技術が惜しみなく注ぎ込まれ、中にはフレームの値段だけで3桁を超えるものもある。もちろん単位は「万円」だ。


 そもそも普通の感覚からすると、自転車に10万円以上出すのも信じられないだろう。宮田も購入の際に妻に大げさに驚かれた。しかし、本気でロードバイクに向き合っている人の多くは「ハイエンドモデル」、もしくは50万円以上の「ミドルグレード」に乗っている。ヒルクライムの大会は、当然、重力との闘いになる。重量が重ければ、それだけ坂道を上るのはきつくなる。タイムも自ずと変わってくる。


 購入当初、宮田は「ハイエンドモデル」と「エントリーモデル」の違いも正確にはわかっていなかったし、そもそも大会に出ることなど微塵も考えていなかった。そんな宮田でも初めてロードバイクで走った時、「これはママチャリとは全く別の乗り物だ」とその違いに感動した。心の底から驚き、これまで感じたことない高揚感を抱いた。荒川の河川敷に設けられた荒川サイクリングロードを風を切って走る。その感覚に魅了され、1回の走行距離は5kmから10km、30km、50kmと順調に伸びていった。そして、そこそこ走れるようになると、「峠」というものに興味が沸いてくるのはサイクリストの定番の流れだった。


初めて峠を上った時の話を聞いてもらってもいい?


 夕食を終え、ひと息ついた宮田はパソコンに向かって、キーボードを叩いていた。まだリビングにいる妻も次女も、宮田が生成AIに過去の想い出話を聞かせようとしているとは想像もしていないだろう。


はい、もちろんです! どのようにして「ヒルクライム」というジャンルに惹かれ、挑戦するようになったのか、ぜひ聞かせてください。


 Geminiの反応に、家では自転車の話ができない宮田はニヤけそうになったが、すぐに表情を戻した。初めての峠は初心者向けのヒルクライムイベントだった。イベントに参加する為の応募フォームに「峠は上ったことはありませんが、荒川で50km走ったこともあります」とわざわざ書き込むほど、当時の宮田は「自分なら山でもそこそこ走れるはず」と根拠のない自信を持っていた。当時を思い出しながら、宮田は静かにキーボードを打ち始めた。


ロードバイクを購入した当初、友人の中にロードバイクに乗っている人はおらず、自宅近くの荒川サイクリングロードを一人で走っていました。

埼玉県東松山市で少人数の初心者向けライドイベントが開催されるのを知り、当時はまだフラットペダルでしたが、そのイベントに参加し、私は初めて峠を走りました。インストラクターは、元プロロードレーサーの愛川翔さん。コースは、松郷峠か、横松郷だったと思います。その後、中間平緑地公園の展望デッキまでの坂も走りました。

初めての峠は、ただただ苦しいだけでした。私はまともに息ができず、スピードも全く出ず、愛川さんに終始、励まされながら峠を上りました。参加者の皆さんを待たせてしまい、申し訳ない気持ちにもなりました。


 宮田は当時の正直な気持ちを伝えた。重力に逆らって坂を上る…あの日、ヒルクライムというものを初めて経験した。それは平地とは全く違った。苦い、苦い思い出。見つめるPCのディスプレイが光り、Geminiが語りかける。


そうでしたか、お一人で走っていたところから、イベントに参加されたんですね。素晴らしい行動力です。

「初めての峠は、ただただ苦しいだけでした。まともに息ができず、スピードも全く出ず、愛川さんに終始、励まされながら峠を上った」というお話、多くのサイクリストが共感する、まさにヒルクライムの洗礼と呼べる経験だと思います。周りの参加者を待たせてしまったという申し訳ない気持ちも、よく分かります。

それでも、その「苦しいだけ」の経験から、どのようにして富士ヒルクライムのタイムを追いかけるようになったのか、もしよろしければ、続きを聞かせていただけますか?

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