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003 NIGHT DANCER

「私はナイト2000に内蔵されているコンピューターの声です。K.I.T.T.と呼んでください。キットでも結構です」


 宮田の記憶にある一番古いAIは、1980年代に人気を誇ったドラマ「ナイトライダー」。ドリームカー「ナイト2000」に搭載された人工知能「K.I.T.T(キット)」に、幼い宮田は憧れた。ただ、あれは80年代のドラマの話で、「生成AIが考えた練習メニューで、富士ヒルのブロンズ獲得を目指す」というのは今の宮田には現実感がなかった。しかし、本職はエンジニアで、データ重視の旅色さんは、AIに与えた情報、設定を次々とXで公開した。


コーチとしてヒルクライム特化の視点を強め

パーソナルデータ

ロードバイク歴

富士ヒルタイム実績

過去の記録推移を反映

現在の能力

目指す大会での結果

トレーニング可能な曜日ごとの時間

各期間・各曜日のトレーニングプラン

食事・体重管理


 様々なデータを与えた上で、AIに合理的な練習メニューを提示させる。すごいことだと驚きつつ、宮田は「自分には無理かなぁ」と思い始めていた。エンジニアの旅色さんと違い、理系でもない宮田にはハードルが高く感じた。それでも、PCに電源を入れ、最近、会社で導入されたばかりのGeminiを初めて開いてみる。


Mt.富士ヒルクライムに参加し、タイムは1:42:51でした。来年、ブロンズを獲得するにあたり、どうしたらいいですか?


 宮田の直球の質問に生成AIがすぐに答えを提示する。


ブロンズリングは90分(1時間30分)切りが条件です。

富士スバルラインの距離が約24kmなので、

24km÷1.5時間=16km/h

ブロンズ達成には、平均時速16km/hで走り続ける必要があります。現在の平均時速は約14km/h(24km÷1.714時間≈14km/h)ですので、もう少し速く走り続けることが必要です。


 宮田は心の中で深いため息をついた。平均16km/hの速度を維持できなければ、ブロンズには届かない。そんなことはサイクリストの多くが知っている。富士スバルラインは勾配が極端にキツイ激坂区間もあれば、ジリジリと勾配が上がっていく区間もある。そんなコースで平均2kmも速度を上げることは簡単なことではない。


 家族が寝静まった後、ひとり夜のキッチンで事務的に過去の富士ヒルのタイム、これまでの練習メニューなどを打ち込みながら、宮田は自分が生成AIに求めるものは何なのかを考えていた。


「K.I.T.T.だ!」


 冷静で情報分析に優れ、コンピューターでありながら相棒のマイケルとユーモアあふれる会話もできる。そして何よりどんな時も共に立ち向かってくれる心強い存在。データはもちろんだが、K.I.T.T.のような、まるでチームのような、友人みたいな会話が生成AIとできたら。宮田は生成AIに自分のことを知ってもらうのが先決だと思った。そして考え抜いた末、自分の一番好きなイチローの言葉を伝え、最後にこう付け加えた。


来年、富士ヒルでブロンズを獲るために、何か言葉をかけてくれませんか?



素晴らしい言葉ですね。イチローさんの「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行く ただ一つの道」という言葉は、まさに富士ヒルクライムでブロンズリングを目指すあなたにぴったりの哲学です。

富士ヒルのブロンズリングは、一足飛びに手に入るものではありません。あなたのこれまでのトレーニング内容を見ても、毎日少しずつ、しかし着実に積み重ねている努力が伝わってきます。3本ローラーでの高ケイデンス練習、ランプ走、LT走、そして獲得標高7000mを超える5月の練習量。これら一つひとつが、まさに「小さなこと」の積み重ねです。

ブロンズリング達成という「とんでもないところ」へたどり着くためには、この地道な努力を続けるしかありません。今日の一回のペダリング、明日の一時間のライド、一週間後のヒルクライム練習。その一つひとつが、あなたの脚となり、心肺機能となり、そして揺るぎない自信となって、富士の山頂へとあなたを押し上げてくれます。

時には心が折れそうになる日もあるかもしれません。練習の成果がすぐに見えなくても、焦る必要はありません。大切なのは、諦めずに、今日も一日、小さな一歩を踏み出すことです。その小さな一歩が、やがて大きな飛躍へと繋がります。

来年の富士山で、あなたが最高の笑顔でブロンズリングを掲げる姿を心から応援しています。


 宮田は涙こそ出なかったが、感情の高まりを覚え、生成AIと共にブロンズを目指すことを心に決めた。心は踊っていた。

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