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ヴァラール魔法学院の今日の事件!!

聖女の忘れられないあの人

作者: 山下愁

 ――忘れられない人がいる。





「ちゃんリリせんせーい!!」


「リリア先生、お誕生日おめでとうございます」



 保健室を訪れたのは、ヴァラール魔法学院の用務員のうち年齢が近いこともあって仲のいいショウとハルアの未成年組だった。

 2人揃って、可愛らしい小さめの花束をリリアンティアに突き出す。花束の最も目立つ箇所に熊の形をした飾りも備え付けられており、何とも愛らしい花束と言えた。


 リリアンティアはショウとハルアからの花束を受け取ると、



「ありがとうございます、2人とも。とても嬉しいです」


「よかった!!」


「リリア先生に気に入ってもらえるように、可愛いお花を選んだ甲斐がありました」



 喜ぶリリアンティアの表情を見て、ショウもハルアも嬉しそうに顔を綻ばせる。



「そうだ、ちゃんリリ先生!! ちゃんリリ先生のね、誕生日を教えてあげたら『ぼくもお祝いしたい』って人がいてね!!」


「今、保健室の前まで来ていらっしゃるのですが受け取ってもらえますか?」


「? はい、もちろん」



 ショウとハルアの言葉に、リリアンティアは首を傾げる。


 誕生日を他人に教えることは全然構わないのだが、2人がそこまで言うのだから仲がいいのだろう。2人の交友関係は広いので色々な友達がいる印象だ。

 ちゃんとショウとハルアの友人として振る舞えるだろうか、とリリアンティアは不安を覚える。こう見えてリリアンティアはあまり友人を作ることに向かない、知り合い以外には人見知りを発揮してしまう聖女様なのであった。


 ショウとハルアが保健室の扉に振り返ると、



「父ちゃん、いいって!!」


「リアムさん、リリア先生が受け取ってくれるそうですよ」


「え」



 聞き覚えのある人名が聞こえたと思った途端、保健室の扉が控えめに開けられる。


 ひょこりと顔を覗かせたのは、ハルアとよく似た赤い髪の青年だった。琥珀色の双眸を煌めかせ、保健室をぐるりと見回してからリリアンティアの姿を見つけて表情をほんの少しだけ緩ませる。それまでは能面のような無表情だったのに、その僅かな表情変化にリリアンティアの心臓が高鳴った。

 背丈は最後に見た時から変わっておらず、相変わらず小柄なままだ。ただ服装だけは革製のライダースジャケットという冥府の獄卒らしい出立ちをしており、あまり見慣れない格好をしているので心臓がさらにおかしな音を立てる。それに伴い、思考回路も停止しかけた。


 その青年はリリアンティアに真っ赤な薔薇で構成された小さな花束を差し出し、



「誕生日おめでとう、リリア。大きくなったね、お姉さんの方に似てるよ」


「ひゃわわ」



 リリアンティアは変な言葉しか発せられなかった。反射的に差し出された花束を受け取るも、思考回路は依然として緩やかに停止しかけたままである。

 青年はリリアンティアの頭をぐりぐりと撫で、ほっぺをむにむにと揉み込んでから「じゃあ、ぼくは仕事があるからね」と言い残して保健室を立ち去ってしまった。嵐のような青年であった。


 薔薇の花束を手に固まるリリアンティアの顔を、ショウとハルアが心配そうに覗き込む。



「リリア先生、大丈夫ですか?」


「父ちゃんが何かしちゃった!?」


「父ちゃ……」



 ガガガ、ギギガガガとリリアンティアはハルアへ振り返る。


 よく見れば、彼はあの青年とよく似ていた。身長こそ違いはあれど、赤茶色の短髪と琥珀色の双眸は彼と同じである。幼さを残す顔立ちもそのままだ。

 そういえば、ハルアはあの青年の遺伝子情報を使用して作られた人造人間だったか。だからあの青年のことを「父ちゃん」と呼んでも何ら差し支えはない。


 リリアンティアは花束で顔を隠すと、



「ふええ」


「リリア先生!?」


「本当に大丈夫!?」



 顔を覆い隠し、ぷしゅぅと脳天から煙を吹き出してリリアンティアはその場に蹲ってしまった。



 ☆



「――という話があって」


「何でだろうねってことをショウちゃんと話してたんだ!!」



 ショウとハルアは、用務員室に戻ってから事の顛末を問題児の大人組に説明をした。


 あれからハルアの父親であるリアムがリリアンティアに花束を渡して以降、リリアンティアが「うにゃうにゃ」と意味不明な言葉しか発しなくなってしまったので強制的にベッドへ転がしてきたのだ。もしかしたら風邪かもしれない。季節的に風邪を引きやすい時期なので、永遠聖女と呼ばれるリリアンティアでも風邪を引く時はあるだろう。

 そもそも他人の誕生日に興味を示さないリアムが、リリアンティアの誕生日だけには「じゃあ誕生日プレゼントを用意しなきゃ」なんて言い出したのだ。冷淡に「あ、そうなんだ。へえ」と済ませると思っていたのに。


 銀髪碧眼の魔女――ユフィーリア・エイクトベルは雪の結晶が刻まれた煙管を吹かしながら、



「そりゃお前ら、決まってんだろ」


「え?」


「何が!?」


「リリア、英雄リアムの大ファンってか好きな人だって言うか」



 ユフィーリアは遠い目をどこかに向けて、



「あいつとリリアの兄貴が元々教会所属の騎士見習いでな。面倒見がよかった英雄様に、リリアはかなり懐いていたんだよ」



 そんな事情など知らなかったショウとハルアは互いの顔を見合わせると、まるで乙女のように「きゃー!!」なんて揃って奇声を上げた。





 それから保健室には小さな花束が花瓶に生けられて飾られていたが、薔薇の花束だけは日当たりのいい場所に飾られていたのは言うまでもない。

《登場人物》


【ショウ】誕生日といえば花束だよねってことで、可愛い花束を購買部で用意。ピンク色の可愛い花束。

【ハルア】ショウの助言を受けて花束を用意。黄色い花束を購入してきた。

【リリアンティア】とある農村出身の聖女様。かつて騎士見習いの青年に淡い恋心を抱き、のちに英雄として名前を轟かせたところを遠い存在として見ていたが、いつしか自分が同じぐらいに有名になったので「釣り合う女の子になれたかな?」と思っちゃったりなんかしちゃったり。


【リアム】英雄と呼ばれて慕われる青年。死んだ今でも英雄として親しまれる、ハルアの父親。リリアンティアのことは彼女の兄とかつて同僚だった為、面倒を見て可愛がっていた。

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― 新着の感想 ―
やましゅーさん、こんにちは。 リリアンティア先生のお誕生日特別編、すごく面白かったです!!遅れてしまいましたが、改めましてリリアンティア先生、お誕生日おめでとうございます!! アレクシア「リリアちゃ…
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