第六話 人の温もり
やる気があまり出ず、構想ばかりを練っている間に4ヶ月が過ぎようとしていました。ほんと申し訳ない。
姉妹が住む家に泊まることになったからといって何かがあったわけではない。というか何かがあったら大問題である。この異世界にそういう法律があるかは知らないけれど、前の世界での俺の良識がそんなことは許さないぞと俺を止めるので、そういったことは何もなかった。
よくある水浴び中にバッタリ出くわすというのも俺の極めた【探知】の前ではそんなことも起こり得ない。こういう時のために極めたわけじゃないが、極めておいて良かったと安堵する。
眠ってからもエリナが布団に入ってくるなんこともなかった。べ、別に期待なんかしてないよ。そう、期待なんかしていないのだ。いや、本当だからね。
そうして、何事もなく俺は朝を迎えた。森からだと木々の間からの陽の光しか浴びることはなかったが、ここは違う。陽の光を全身に浴びるのだ。眩しいと言ってしまえばそれまでなのだが、なんかこう心が洗われた気分になる。邪念が取り払われるかのようなのだ。いや、別に邪念なんてないですけどね。ははははは…。
「ユウキ様。朝ですよ」
そう言ってエリナが俺のいた部屋へと入ってくる。朝からこんな美少女を見れるなんて眼福である。そんなことを考えていると陽の光がさらに眩しくなったように感じた。ほんとすみません。
「朝食の準備は済ませているので一緒に食べましょう」
「わかった。すぐ行くよ」
俺がそう言うとエリナは部屋から出て行った。ほんと偉い子だ。年齢は聞いてないのでわからないが、見た目的には小学生の高学年といったところだ。そんな子が自分で朝ごはん作るなんて、お兄さん感動しちゃう。
旅を始めた時はぎこちなかった俺の頭の中も気持ち悪いくらいに進化している。いや、これは進化と言えるのだろか。それもこれもエリナのおかげである。エリナのあの明るさに当てられて俺も明るくなったに違いない。きっとそうだ。全てに絶望したなんて思っていたが、案外そうでもなかったのかもしれない。
そんなことを考えながらも俺は下級魔法【洗浄】を発動させ自分の体を綺麗にする。本当は風呂に入りたかったのだが、どうやら普通の庶民の家にはそんなものはないらしい。これは異世界の定番だろう。しかし、いざないとなると困るのである。地球にいた頃は流れ作業のようにやっていた入浴もいざ無いとなるととてもじゃないが寂しいものである。
そういえばエリナに呼ばれているんだった。早くいかなければ。
そうして俺はエリナの待っている食卓へと急いだ。どうやらエリナは俺のことを待ってくれていたらしく、まだ一口も食べていなかった。
「エリナ別に俺に遠慮することなんてない。俺を待たずに食べても良かったんだぞ」
「いえ、私が誘ったんですからこんくらいはしないといけません」
「そういうもんなのか? 」
「そういうもんなんです」
どうやらその意志は強いものらしい。俺がどう言ったって聞いてはくれないだろう。
「そうだな。じゃあ早く食べようか。エリナもお腹空いているだろうからね」
「「いただきます」」
森を旅しているときについ癖で言っていた俺のいただきますというのが気に入ったらしく、エリナもその言葉を使うようになっていた。日本人からすれば嬉しい限りである。
今日の朝食はエリナが作った魚の塩焼きにスープだ。この200年間は自分で料理をずっと作っていたからか、こうして人が作った料理を食べるのが新鮮で嬉しい気持ちになる。
一口また一口と料理を食べる手が止まらない。人の温かさとはきっとこれのことを言うんだろうな。
そんなことを考えているといつのまにか朝食を平らげていた。どうやらエリナはまだ食べているようだ。邪魔するのも悪いと思い、小さな声で「ごちそうさま」と言った後は食器を洗うためにキッチンへと向かう。こんなに美味しいものを食わせてもらったお礼だ。それにもてなされてばかりは釈然としない。
しばらくして、朝食を食べ終えたらしいエリナがやってくる。
「俺が洗うからそこに置いてていいよ」
「いや、でも」
「朝食作って疲れてるだろうし、それに泊めてもらったお礼もしたいからね。こんぐらいはさせてよ」
「わ、わかりました。その、ありがとうございます」
「お礼されるようなことじゃないよ」
そんな会話もありつつ、俺は食器洗いを済ませた。
「ユウキ様はこの後どうするんですか」
「そうだね、この街にしばらく滞在しようと思ってるからそのための身分証を取ろうと思ってるよ。エリナはどうするの?」
「私はお姉ちゃんの看病をするつもりです」
「まぁ、魔力が回復するまではそうした方がいいだろうね」
「ユウキ様は身分証を取るとのことでしたがあてはあるんですか? 」
「エリナが言ってた冒険者ギルドに行こうと思ってるよ。どんな依頼があるか見たいし」
「場所はわかりますか? 」
「いや、正直なことを言えばどこにあるのか見当すらつかないね。でも、まぁ観光ついでにぶらぶらしてたらいつの間にか着いてるじゃないかなと思うけどね」
「そうですか、暗くなる前までには帰ってきてくださいね」
「ああ、わかったよ」
そうして俺はエリナの温かさを感じながら街へと出るのだった。




