プロローグ
初投稿です。拙い部分もありますがどうか見守ってください。
「やぁ、ユウキ久しぶりだね」
「あぁ、そうだなアレン」
滅多に開かない俺の家のドアが久しぶりに開いた。どうやら久しぶりに、俺の親友が帰ってきたらしい。
「君が元気そうで良かったよ。僕以外に友人もいないみたいだし、寂しくなって死んでるんじゃないかって心配してたんだからね」
「うるせぇよ……」
「ははは、君は相変わらずだね。2 年ぶりだというのに何も変わってないよ」
「そういうお前も何も変わってないよな」
「いいや、そんなことはないよ。僕は変わったよ」
「ふーん…そんな風には見えないけどな」
久しぶりに会った親友と久しぶりの会話をする。懐かしいな。アレンが勇者として魔王を討伐しに行く前は、毎日のように俺の家に集まって、何でもないことをこうして話していた。
「あれ? ユウキどうしたの? あ! もしかして、僕が帰ってきたことがそんなに嬉しかったのかな? 」
「そうかもな」
「あれぇ? 思ってた反応と違うんだけど? やっぱり僕のこと好きなんでしょ」
「はいはい、好きですよ」
「久しぶりに帰ってきた親友にその態度はないんじゃないかな? 」
「あぁ、そうだ。魔王討伐はどうだったんだ? 」
「露骨に話題変えようとするのはやめようよ」
「それで、魔王討伐の話なんだが……」
「はぁ…もういいよ。そんなに話題を変えたいんだったら僕もそれに乗っかるよ」
「そうしてくれ」
「それじゃあ、魔王討伐のことについて話すけど、これと言って面白いことはないけど、それでもいいの? 」
「いや別に…お前に面白い話は期待してない」
「なにそれ、ひどくない? 変わってないって言ったけどやっぱり訂正するよ。君はより意地悪に磨きがかかってるよ」
「俺は、お前以外と話してないのにどうやって意地悪を磨いたというのさ」
「いや、いきなり自虐はやめてよ。というかそろそろ魔王討伐について話そうよ」
俺としたことがどうやら親友との話に夢中になっていたらしい。久しぶりの会話というのはいいものだ。
「と言ってもただ魔王を討伐してきただけだからな…。そこまで話すことはなかったね」
「あーそれなら魔王の強さってどんくらいだったの? 」
「魔王の強さ? うーん…正直言ってあんまり強くなかったよ。拍子抜けって感じ」
「そうなのか? 魔王って言ったらとっても強いっていうイメージがあるんだが…」
「そうそう、だよね。僕もそう思ってたんだけどさユウキに比べれば、本当に弱かったよ。これならユウキでも楽に倒せてたよ」
「いや無理だよ。魔王ってのは勇者にしか倒せないんだから。だから、わざわざ勇者であるアレンが倒しに行ったんだろ」
「いーや。ユウキならいけるね。だって、ユウキ言ってたじゃん。俺にはすべての才能があるって。それってさ、勇者の才能もあるわけでしょ? ならユウキでも倒せてたよ」
確かに、俺にはこの異世界へと転移する時に何者かから力をもらった。すべての才能と無尽蔵で不老不死な身体という誰からどう見てもチート能力をもらった。だからといって、魔王を倒そうなんて思わなかった。
「仮にできたとしても、俺はやらないよ」
「そうだよね。ユウキはそんなことしないよね。だってこんな山奥で既に200年間も過ごしてきてるんだからね。もう、あれだよね一種の妖精だよね」
「俺を妖精といっしょにするな」
「その言い方は妖精に失礼だよ」
「俺には失礼じゃないのか? 」
「もちろん、そうだよ」
そんな他愛もない会話が続いていく。
そのうちに、どうやら日が沈み出してきたらしい。
「うわー。話に夢中になってたら、日が沈み出してきちゃったよ」
「どうする? このまま泊まっていくか? 」
「そうだね。それじゃあお邪魔させてもらっちゃおうかな」
「わかった。それじゃあ、何か食べたいものはあるか? 」
「なんでもいいの? うーん? 悩むなぁ。ユウキの料理って何でも美味しいから正直何でもいいんだけど、強いて言うならハンバークかな」
「おぉ、ハンバークかいいね。魔王討伐を果たしたアレンへの祝いだ。腕によりをかけて作ってやろう」
「それは楽しみだなぁ」
そうして会話を終えた俺は、キッチンに立つ。キッチンとは言っても前の世界のようにはいかない。水道やガスと言ったものはない。なら何か?
異世界と言えばこれ──魔法だ。
俺は魔法を巧みに使いながら、ハンバークを作る。あらゆる才能があって良かったと思う。おかげでこうして魔法も使えるし、美味しい料理も作れる。こればかりは感謝してもしきれない。後、食材になってくれたキングモーにも感謝しないとな。
「よし、できた」
今回は自分でも納得のいくものができた。久しぶりの親友との再会で張り切ってしまったらしい。
「うーん、いい匂いだね。匂いだけでもわかるよこれが美味しくないわけがない」
「そうだな。お前は美味しすぎて腰を抜かすかもしれないな」
「いやいや、さすがにそれはないよ。これでも僕は王都で美味しいものをたくさん食べてきたんだよ。ただ美味しいだけじゃ、僕は腰を抜かさないよ」
「へぇ〜言うじゃないか、なら勝負だな」
「いいよ。望むところだよ」
そうして俺は自分の作ったハンバークを机に並べる。
「ほら、食べていいぞ」
「うん、いただきます」
そう言ってアレンは俺の作ったハンバーグを一口食べる。
「え? ナニコレ? 」
「どうだ? 美味しいだろ? 」
「いや、これは美味しいなんてものじゃないよ。これは僕の負けを認めざるを得ないよ」
「ははは、喜んでもらえたようで何よりだよ」
そう言って、俺も自分の作ったハンバークを口へ運ぶ。うん、美味しい。これは会心の出来だ。
それから、他愛もない会話をしながら、夕食を終えた。その後も、俺たちは色々なことを話し合ったがそれはまぁ…いいだろう。
◆
眩しい…どうやら日が俺のことを差してるらしい。いつの間に寝たのだろうか? うーん…? あまり思い出せない。というか、ベッドでなく机で寝ていたらしい。
これはあれだ、寝落ちだ。久しぶりの会話がよっぽど楽しかったんだろうな。会話の切れ目が分からずに寝てしまうまで話していたようだ。
アレンが起きるまでに朝食を作っておこう。そう思った俺は、キッチンへと移動する。
朝に重いものはさすがにきついだろうから、軽めの朝食を作る。朝食の定番の目玉焼きだ。卵はよくそこら辺で見かけるジャイアントコケッコーから取ってきたものだ。
この卵がまた美味しいのなんの。
そんなこんなで、朝食が出来上がった。出来上がったんだが、アレンはどうやらまだ起きてないらしい。
仕方ない起こすか…。
そうして、アレンを起こしに行ったんだが、なんだか苦しそうにしている。なんだ? と思うけれど、思い当たることは何もない。
いや、違うだろ。そんなことを考えるよりも前に、早く何とかしないとと思いアレンを揺すってみる。揺すってみるが、起きる気配はないし、まだ苦しんでいる。
ならせめて苦しみだけでも取り除こうと思い、回復魔法を使ったものの弾かれてしまった。
どういうことだ? 初級とはいえ俺の回復魔法が弾かれた。わけがわからない。こうなったら聖属性の魔法を片っ端からかけていこうそうすれば何とかなるかもしれない。
そうして、聖属性の魔法をかけていくもどれも弾かれてしまった。上級やその上の超級の魔法を使ってみたけど、それも弾かれてしまう。
万策尽きたかと諦めかけていたその時、アレンが目を覚ました。
目を覚ましたアレンは苦しんでいるようには見えなかったが、とてもつらそうにしている。
「ねぇ…ユウキ見た? 」
「……」
俺は罪悪感とかからだろうか? 素直に見たと答えることができなかった。
「沈黙は肯定と捉えるからね。そっか…見られちゃったか。本当はもうちょっと隠すつもりだったんだけど、さすがに今からは無理だよね」
「……」
またしても、俺は何も答えることができなかった。頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく。考えが消えていく中でも、恐怖それだけは消えなかった。
「こうやって話すのもなんだし、朝食食べながら話そっか」
「あ…うん」
そうして、俺たちは朝食を食べ始める。
「いざ話すとなると何から話せばいいのか分からなくなるよね。あぁ、でもそこまで複雑な話じゃないから聞いてね。一言で言うなら魔王に呪われちゃったんだよね」
「呪われた? 」
「そう、呪われた」
「僕としたことが油断しちゃってたよね。まさか呪いをかけられるなんてね」
呪いというなら納得できる。どおりでで初級の回復魔法程度では直せないはずだ。
「今、王都には聖女様がいるんだろ? 聖女様なら呪いぐらい簡単になおせるんじゃないのか? 」
「僕だってそう思ってたんだけどね…。どうやらそうはいかないらしい。腐っても魔王だしね」
「じゃあ、どうするんだよ」
「それを解決するために僕はここに来たんだよ」
「解決策があるのか? 」
「あるといえばあるね。それはね…ユウキが僕を殺すことさ」
「はぁ? オマエ何言ってんだ? 」
本当にこいつは何を言っているのだろうか? 俺がアレンを殺す? そんなことできるわけがない。今まででたった一人の親友なんだぞ。
「ユウキのその気持ちは分かるけど、もう僕には時間がないんだ」
「そもそも、呪いの効果ってのは何なんだ? 」
「次の魔王になる呪いだよ」
「次の魔王に? 」
「そう、次の魔王に」
「だからといって殺す必要はないんじゃないか? それに俺にだったらアレンを治せる可能性があるんだ」
「それは無理だよ。さっきも言ったけど、もう僕には時間がない。だからこそ、ユウキに親友として殺してほしいんだ」
「いや…でも…」
「それにいい機会じゃない? 僕たちはさ今までちゃんとした決着をつけたことがなかったじゃん? これが最初で最後のチャンスだよ」
そう言うアレンの顔はとても真剣だった。アレンにとってこの決断を下すことがどれだけ辛かったのか、俺にはわからない。だったら親友として最後までアレンに付き合おう。それが、アレンにとって良いことならば。
「わかったよ…やるよ」
「ありがとうユウキ」
そう言って俺たちは外に出た。
「それじゃあ早速始めようか」
アレンはそう言った瞬間、俺の懐まで勢いよく飛んでくる。俺はそれを難なく避ける。
またしても、アレンが仕掛けてくる。所謂、着地狩りってやつだ。俺が避けたあとの着地の隙を狙って一発殴りかかってくる。
しかし、またしても俺はそれを避ける。
「ねぇ…なんで避けてばっかなの? 僕には本気を出す必要すらないってこと? 」
アレンはそう言うと、勇者の聖剣を呼んだ。
俺は初めて勇者アレンの聖剣を見た。一目見ただけでわかる本当にすごい剣だと。俺自身自分の剣を自分で鋳造していたので、そのすごさが余計に伝わってくる。
「僕はね本気で君と戦いたいんだ」
アレンがそう言った瞬間持っていた聖剣がとてつもなく神々しく光る。そして、アレンの身にまとっていた魔力がさっきとは比べものにならないほど多くなっている。
さすがの俺でも、これを防ぐのは難しいだろう。ただし、リミットを外さなかった場合だけど。
俺がこの世界に転移した時にもらった特典のひとつに無尽蔵な身体というのがあるのだが、無尽蔵というのは体力だけではなく魔力もだ。
そんな魔力を常に解放し続ける訳にもいかないので普段は自分自身に13個のリミットをかけている。
本気でやれと言われたからにはリミットを外すのは仕方ないが、全て外すとこの世界を破壊しかねないので今回は4個外してみる。
そうすると、さっきアレンがしていたように自分自身の魔力がとてつもなく増える。
さすがにこのくらいあればアレンともしっかり戦えるだろう。
そうして俺たちは再び剣を交えた。
それからはというと、どちらも譲らない一進一退の攻防が続いていた。
「はぁ…はぁ…。さすがに体力だとユウキには勝てないや…。そろそろ限界も近いし次の一撃にすべてを注ぎ込むよ」
「俺はまだまだ楽勝なんだが、早めに決着をつけるのには賛成だ」
やはり無尽蔵の体というのはあまりにもチートすぎる。アレンは限界が近いというのに、俺には全くもって限界を感じない。
しかし、次が最後の一撃か。だったら今出せる全力のためにアレを取り出すか。
空間魔法を使い、奥にしまってある一握りの刀を取る。
名は『宵桜』という。俺が三日三晩、魔力を込めながら打ち続けた時にできた。とてつもない業物だ。
この刀ならやれる。そんな自信がある。
そうして、俺たちは再び向かい合う。
聖剣と刀。その2つとアレンとユウキその2人が放つオーラは人智を超えている。
「僕はさっきも言った通り、この一撃にすべてをかけるよ『ブレイヴハート』」
「受けて立つよ『戦技【霞桜】』」
そうして2つと2人の一撃がぶつかり合う。その一撃は大地を揺らした。いや、大地だけではない世界すらも揺らす一撃だった。
時間にしてわずか3秒。今までつかなかった決着がついた。
「ははは、やっぱりユウキは強いね。魔王を倒せるくらいには強くなったんだけど、やっぱり届かないか…」
「いや、そんなことはないさ。もし、俺が不死身じゃなかったら危ないところだったよ」
「やっぱりユウキは優しいね」
そう言ってアレンが倒れる。俺はアレンの元へと駆け寄った。
「ねぇ…ユウキ僕の最後の願いを聞いてくれるかい? 」
「そりゃあ何でも聞くさ。親友の最後の願いなんだから」
「なんでもって言ったね。僕は君に──ユウキにこの世界のことを知ってほしい。」
「この世界のことを? 」
「そう…。だからユウキには…世界を旅してほしいんだ…ここで死ぬ僕の分までね」
「そうか、俺がお前を殺したんだな」
「別に気に病む必要はないよ…だから頼むよ。最初の目的地は僕が…指定するね。目的地は王都スベルキア…。そこに…僕のね…墓を建てて…ほしいんだ」
「わかったよ…お前の分までしっかりこの世界を見てくるよ」
「あり…が…とう」
そう言うとアレンは静かに瞼を閉じた。
初めてできた親友の死。それも自分が殺した。さっきまでは強がって涙をこらえていたが、それも限界を迎え、ボロボロと涙が出てくる。
親友を殺すことでしか助けられなかった自分に嫌気がさす。
しかし、自分には親友に与えられた目標ができた。
──この世界を旅するという目標が。
だから俺、勇者殺しは旅に出ようと思う。
プロローグに5千字はやりすぎたかもしれない