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6話 霜月家

「奏翔くん凄い……」


 私は奏翔くんが七人相手に有利に立ち回っている光景をただ、呆然と眺めていた。周りのクラスメイトたちはざわついていて、担任の先生すら唖然としていた。


 当然、その中に私も含まれている。最初は何かあったらすぐに助けに行けるように、ずっと身構えていたのだけれどいざ始まると……怖くて少しも動けなかった。


 傲慢かもしれないけど、私は恵まれていると思ってる。優しく、いつでも明るい両親に恵まれて、生活にも困らなかった。


 剣道を習い始めたいって言ったのは確か、小五の時だっけ。私がたまたまテレビで見て興味を持っただけの剣道も、両親は全力で応援してくれた。


 それに、小、中、高と、とてもいい友達もたくさんできた。みんな、面白くて、優しくて。ほんと、私なんかには勿体ないと思うぐらい、いい人達だった。


 それもあって学校での日々もとても楽しい物だった。


 そんな中、私は奏翔くんに出会った。最初に興味を持ったのは、学校に用事があって早く学校に行った時だったかな。


 その時に教室で一人静かに読んでいる奏翔くんを見て、思わず話しかけた。今考えると、突然対して話した事も無いクラスメイトに話かけられて迷惑だったかなと思う。


 ともかく、それがきっかけで朝早く登校して、奏翔くんに話しかけるようになった。最初のほうは素っ気なかったけど、だんだん話を返してくれるようになって、いつの間にかその時間がとても楽しくて、大切な物になっていった。


 そして、あの日もそうだった。いつも通りに登校して奏翔くんに話かけて……普段通りの日常が続く……そのはずだった。


 急に奏翔くんが倒れて、私も倒れた。


 それで起きたら、クラスメイト達は全くの別人に変わっていて、祝福とかいうわけの分からない物があると言われた。


 全然理解できなかったし、凄く怖かった。私の知っている日常が壊れたと思って。でも、奏翔くんだけは変わっていない。そう知る事が出来た時には凄くほっとした。


 その後にオフィリアと名乗る人が突然現れて、神殺しを頼まれた時にも奏翔くんがいてくれただけで、とても心強くて、安心できた。


 でも……その後の奏翔くんは……なんで、怖くないの? こんな状況に突然放り込まれて。突然、クラスメイトと殺し合うことになって。何であんなふうに冷静にいられるの?


 あの時の特訓だって、別にしたかったわけじゃない。それはもちろん奏翔くんもそうだろうけれど……私はあんな危険な力を持ちたくない。できれば今すぐに捨てたい。


 ましてや、クラスの人たちのように誰かを見下して、傷つけようとするなんて……


 ……やっぱり怖い。奏翔くんを助けた時も咄嗟に身体が動いただけだった。


 だから、私は今の光景も静観することしか出来ない。私は臆病者だから……

 






 俺は廉也たちの方を見る。廉也たちは驚愕の表情を浮かべていて、一歩も動けていない。あいつら視点だと、弱いと蔑んでいた奴が、突然自分達を圧倒したのだから驚くのは仕方ないような気もする。


 だが、俺にはそんな事は関係ない。俺は全力であいつらに向かって走る。慌てて身構えて始めたが、もう遅い。


 勢いのまま、一番右の奴の腕を突き、貫通させた。血がダラダラと流れているが心配する余裕は無い。そいつは悲鳴を上げてながら下がった。あれはこの試合中、もう使い物にはならないだろう。二人目。


「クッソ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」


 他の奴が二人がこちらに突っ込んでくる。先程のフォーメーションは一体どこに行ったのやら。いくら何でも安直だ。


 すぐさま槍を左手に持ち替え、腰を落として、そのまま横に薙ぎ払う。柄の部分が凄まじい速度で横腹に当たって、一人が吹き飛んだ。三人目。


 切りかかって来た奴の攻撃を半身横にずらしてギリギリで回避し、そのまま腹に膝を入れる。そいつは「ガハッ」とツバを飛ばしてその場に倒れた。これで四人目だ。


「おい、どうした? かかって来いよ。それに祝福も使わないなんて舐めてんのか?」

「……」


 槍を右腕に持ち直しながら、そう言うが、廉也を含めた三人は黙っている。何だ? 煽れば激昂して突っ込んでくるもんだと思っていたのだが。


「バーカ! 油断したなゴミめ!」


 その時、左右と後ろから声が聞こえた。振り返ると、正面にいたはずの三人が剣をこちらに振り下ろそうとしている瞬間だった。


 瞬時に判断して、振り返った勢いで槍を振るい、右と後ろの奴の剣を飛ばす事ができたが、左の廉也は間に合わない。確実に攻撃をくらう。


 炎を纏った剣が俺に向かって来ていている。廉也は勝ちを確信しているようでその顔には笑みが浮かんでいた。だけどな……!

 

「なっ!!!」


 激痛が走り、廉也が驚愕の表情を浮かべる。床にはダラダラと大量の血が流れ、肉の焦げる匂いがした。そして()()()()()()()()


「……あれだけ言っておいて、俺の祝福を忘れたのか?」

「お前の祝福が治せるのは、たかが擦り傷程度なはず!!! てめえ狂ってんのか!?」


 廉也が半ば発狂のように叫ぶ。頭めがけて振り下ろされた剣に対して、左腕を差し出して勢いを止めたのだ。賭けだったが成功して良かった。


「はっ! 頭狙いながら何言ってんだよ、どうせ殺すつもりだったんだろ? ならこれぐらいで喚くな。 そして、もう終わりだ。死ね!」

「くっ!」

 

 廉也は槍による突きを警戒したんだろう。そうはさせまいと剣で槍を弾こうとしてくる。だがな!


 槍は弾かせてしまって問題ない! 俺はあえて力を抜く。その結果槍は飛ばされたが、俺が急に力を抜いたせいで、廉也の剣も勢い余って上に行き過ぎてしまう。


 その隙を見逃さず、そのまま左に踏みこむ。そして、斬られた左腕で全力で廉也の顔面をぶん殴った。完全に想定外の攻撃だったんだろう。廉也は吹き飛んでいった。床で完全に伸びている。これで全員か……


「ふぅ……」


 一息ついて、俺は落ちた左腕を拾いにいく。出血は再生によって止まっていた。これなら押し当てればくっつくだろう。


 そんな事を考えていたのだが……


 急に目眩が襲いかかってくる。ふらついて上手く立てない。血を流し過ぎて貧血にでもなったのだろうか。その可能性は十分にある。鍛錬でも流した事の無い血の量だ。再生が追いついていない……


 そう思ったのだが、目眩がまた激しくなって俺は倒れた。


「奏翔くん!」


 そう叫びながら霜月がこちらに向かって走って来ている気がする。そういえばあの時もこんな感じだったな。


 俺は霜月に心配かけまいと、大丈夫だと言おうとしたが、その言葉は口から出ることは無く、俺はそのまま意識を失った。







「あいつ、なかなかやるな。前まではそこまでだったと思うのだが……面白い」


 俺はその様子を学校から十キロメートル程離れた位置から見る。この程度距離ならば俺の祝福で問題なく視認する事ができる。


「何が面白いですか。さっさと職務に戻ってください。貴方様も暇ではないでしょう、氷濤(ひょうと)様」


 隣にいた怜華(れいか)からそう言われる。チッ。こいつの小言はいつも煩わしい。仕事はできるのだが……そこだけだな。


和風月家(わふうげっか)のうちの一家、霜月家の当主である貴方様にはこんなところに時間をかける程の余裕はありません。続きは私共がいたしますから安心してお帰りくださいませ」

「……お前はあいつが心配ではないのか? 近くにいられない以上、何かあった時に直ぐに駆けつけられない」

「お嬢様の事は確かに心配ですが、それと貴方様が職務を放棄する事に因果性はございません。そもそもが私共の仕事なのですから」


 表情一つ変えずにそう淡々と言う。……こいつは本当に融通が効かない。典型的な頭が硬い奴だ。


 だが、言っていることは至極真っ当なので、反論のしようがないところも、また腹が立つ。はぁ……


「……分かった俺は帰らせてもらう。その代わり頼んだぞ。もし、あいつに何かあったら……お前の首が飛ぶことも覚悟しておけ」

「重々承知しております。佳恋お嬢様の事はお任せください。この命に代えても、必ずお守りいたしますから」

「ならいい。……この世でたった一人の大切な妹だからな」

「はい」


 俺はそれだけ言い残して、その場から立ち去った。

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