表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

4話 宣戦布告

「よし。もうこれぐらいでいいだろう。」


 オフィリアがそう言ったので、俺たちは動きを止める。あの後、俺たちは祝福とやらの鍛錬を凄く長い時間していた。体感五ヶ月程だろうか。


 そもそも、なぜ鍛錬をする必要性があるのかと言うと、この世界は祝福至上主義の上下社会らしい。そのため、祝福の鍛錬をしなければ、色々と行動に制限がつきかねないらしい。


 それで肝心の鍛錬方法はと言うと、霜月は何も無い空間に延々と氷を打ち続け、俺はずっとナイフで自分の腕を傷つけていた。


 最初は薄皮一枚とかだったけれど、段々と傷つける深さが大きくなっていった。そして、いつの間にか腕に向かって思いっきり振り下ろさなくてはいけなくなってしまった。


 当然、オフィリアに嫌だと言ったが、その度に「やらなければここから出さない」と脅されたので、渋々するしかなかった。


 とてつもなく痛く、腕も傷だらけになったが、どうやら再生は便利らしい。少し時間が経つと毎回元通りになった。……その後に謎の倦怠感が襲ってきたけれど……


 オフィリアはある程度すると、突然消えて、五時間程経ったらまた出てきた。エネルギーの消費がやはり激しいのだろうか。


 そして、祝福の鍛錬以外にも、剣術などの武術の練習もさせられた。


 霜月と一緒にしたのだけれど、当然、俺は素人だ。剣の正しい持ち方なんて知らないし、振り方もよく分からない。


 でも、その度にオフィリアが教えてくれた。嫌嫌そうだったけれど案外面倒見がいいんだな……そう思ってたんだけれど、少しでも要領を得ないと、ナイフを腕に向かって投げられて、その度に激痛が走った。


 ちなみに、霜月は元々剣道を習っていたので俺よりは全然マシで、祝福も氷を生み出す、“氷結”という物だったので、ナイフを投げられることは無かった。


 祝福の鍛錬をしてから、休憩。その後は剣術……この繰り返しがずっと続いて、今に至る。


「つ、疲れた……私たちどのくらいやったっけ」

「……多分、五ヶ月ぐらい」

「そんなに? 長かった……」


 俺と霜月はその場にへたりこむ。いくら空腹感や眠気などは感じなくても、普通に疲れるんだ。五ヶ月一切の睡眠を取らずに鍛錬をし続ければ、そりゃあ疲れる。


「それじゃあ元の空間に戻す。外では時間は流れてないから安心しておけ。」

「ちょっとだけ待ってほしいです。私たちも疲れちゃって……」


 霜月がオフィリアにそう言う。


「そうか。なら少しだけ休憩してからでいい。ここでの時間はほぼ無限だからな。じゃあ私は一旦消える。」


 そして、オフィリアがまた消え、辺りがまた静寂に包まれた。この静けさはもう何回も経験したので流石に慣れた。


「奏翔くん私たち、だいぶ頑張ったよね。突然こんな事に巻き込まれてから」


 突然隣に座っていた霜月にそう言われる。霜月の顔には疲れが伺えた。


「そうだな……」


 振り返ってみると、色々とあり過ぎた。突然こんな場所に呼び出されて、祝福とかいうわけの分からない物を使って、神殺しをしろだなんて言われた。


 今まで表に出さなかっただけで、苦しいだろう。


「私たち、いつになったら元の世界に戻れるんだろ……」


 霜月はそう小さな声で呟く。


「分からない。でもその時を少しでも早めるために、今は目の前の事をするだけだ。だから……そんなに気を負うな」


 そう言うと、霜月の顔が少しだけ明るくなった。励ます事ができたなら良かった。


「奏翔くん……もう少しお話しててもいいかな」

「あぁ、もちろんだ。」


 そして、俺たちは他愛も無い話を淡々と続けていった。







「そろそろいいか? 元に戻すぞ?」

「あぁ。問題ない」


 あれから何時間経っただろうか。オフィリアが帰ってきてそう言う。

 

「じゃあいくぞ。私もサポートはするつもりだが、祝福の鍛錬だけは忘れるなよ」


 それだけ言って、オフィリアはまた消えた。そして、あたりの空間がどんどん剥がれるようにあたりが明るさを取り戻し、元の屋上に戻った。


「それじゃあ教室行こうか。色々と言われると思うけれど……あんまり、気にしないでね」


 霜月は屋上の扉に手をかけながらそう言った。


 ある程度歩いて、俺たちは教室の前に戻ってきた。授業はまだギリギリ始まっていないらしい。クラスの中は騒がしかった。


「お、逃げたあいつが帰ってきやがった。おい、ゴミ。さっきのどういう事か説明しろよ」


 その時、金髪の不良がこちらに気づいたのか、教室の外に出てきていて、迫ってくる。


 霜月からクラスメイト達の名前を色々と教えてもらったのだが、こいつは確か……


「あ、えっと……廉也(れんや)君、やめて。もう授業始まるから」


 霜月がそいつを制止する。こいつの名前は廉也と言うらしい。……よく霜月はこいつらと普通に会話できるな。


(こいつは、ここに来たタイミングで色々と尋ねていたからな。その時に、こいつらの名前、そして、今自分がどうなっているかを、曖昧にも把握したんだろう。)


 突然、頭の中に声が響く。ついさっき、聞いた声だった。間違いなくオフィリアだろう。というか、こんな事もできるんだな。


(はぁ……先程言っただろう。色々とサポートすると。直接現れる事は出来ないが、こうして頭の中で語りかける事なら可能だ)


「おい。お前ら何騒いでるんだ。さっさと授業始めるから席につけ」

「チッ、今回は霜月に免じて許してやるよ。次はないからな」


 どうやら、担任が来たらしい。廉也という不良は俺を睨みながら、それだけ言って席に戻って行った。


 俺もとりあえず席に向かおうとする。教室の中を見渡して見るが、一席だけ空いている席があった。


 どうやら席の位置は奇跡的に変わっていないらしい。問題なく席に座る事が出来そうだ。


 歩いていると、さっき騒いでいた奴の一人が、急に足を横に伸ばしてくる。 俺はギリギリのところで、間一髪またいで回避した。


「チッ。なんだよおもんねぇの」


 そいつは、小声でそう言ってこちらを睨んできた。さっきから思うが、この世界での俺の扱い酷すぎると思う。前も、弱小祝福だのなんだの言われたし、さっきの件もそうだ。


(私がそういう事にしたんだよ。先刻言っただろう。お前たちを元々この世界にいた事にしたと。向こうはお前を元々いたものだと認識している。この世界でのお前は、弱小祝福しか持たない、ただの産廃だ)


 オフィリアがそんな事を言ってくる。だが、再生って強くないのか? この鍛錬中少なくとも、弱いとは感じなかったんだが。


(……色々と理由があってそう言われている。こいつらが間違っているから安心しろ)


 オフィリアが安心しろと言うので多分大丈夫なのだろうか。そう思い、俺はとりあえず席に着く事にした。


 元の世界での霜月の席は俺のすぐ前だが、この世界ではどうやら反対側になってしまったらしい。俺の真反対の席にいつの間にか座っていた。


 そして、教壇に立った担任が、おもむろに話し始める。


「今日は、昨日の続き、()()()についての授業だ。寝ないでしっかり聞けよ」


 よく分からない単語がでてきたので、オフィリアに質問しようとする。この世界の用語なんだろうが、この鍛錬中に教えてもらっていない。


(……)


 そう思ったが、反応は無い。ちょっと前にサポートするとか言ってたよな? 本当に知りたい時に無視してくるのは何でだよ。


 そんなことを考えていたが、返ってくる言葉はなく、担任はそのまま授業を始めた。

 



 俺は黙々と授業を聞いていた。授業の内容は、全く分からなかったから、当てられてたら詰んでいたが、奇跡的に当てられなくて助かった。


 いや……授業中、担任がこちらを向くことは何度かあったのだが、毎回嫌な顔をされながら目を背けられた。


(またエネルギーが切れていた。声だけならば消費量が少ないのだが……言うタイミングを逃した)

 

 そんな事を考えていると、オフィリアの声が聞こえた。どうやら、無視されていたのではなく、エネルギー切れらしい。


 それはいいとして、ゲートって……お前が唐突にいなくなったから、授業に一切ついていけてないんだが……


(ゲートとは……そうだな、お前が元いた世界のゲームにダンジョンという物があっただろう? 要はそれだ。中はモンスターなどが蔓延っている。……当然、危険だが、お前には関係ない。私が探しているものもそこにある。この学校はその専門機関だ。すぐにでも行くことになるだろう)


 ……なぜ、今まで教えてくれなかったんだ? 


(理解力の足りないお前は、一度に説明すれば思考が停止するだろう。お前には鍛錬だけに集中させる必要性があったからな)


「えー、これで今日の授業は終わりだ。明日は、実際にゲートに行くことになる。 まぁ、比較的安全な場所だから安心しておけ」


 オフィリアがそう言ったかと思った途端、担任のその言葉にクラスがざわめく。オフィリアの言葉には腹が立つが……本当にすぐに行くことになるとは思わなかった。


「先生ー。こいつも連れて行く必要ありますー?」


 こいつは、マジで……俺をそこまで目の敵にする理由はなんだよ。


「そいつも一応連れて行く。学校の決まりだからな」


 担任がそう言うと、廉也は「あっそ」と言って不貞腐れている。担任が生徒のことをそいつ呼びって……


「では、以上。次の授業の授業しておけよ」


 担任は自分の荷物をまとめて、教室から出ていく。あっ、何も理解できずにいたら、授業があっと言う間に終わってた……


「奏翔くん。さっきの話どういうこと? よく分からなかったんだけど……」


 授業が終わり、担任が教室の外に行った途端、霜月にそう話しかけられた。俺も大して理解できてないから、どうしようか……


「ごめん、俺もよく分かって……」

「霜月さん。ちょっといいかな?」


 その時、一人の男子生徒が話かけてきた。……今霜月と俺は話してたんだと思うんだけど……


「えっと、島崎君って言ったっけ?」

「え、あ、うん」


 その男子生徒は困惑した様子。まぁ、そうだろうな。相手視点、普段通りに話していた奴から突然名前を確認されたんだから。


「ちょっと待っててくれる? 今奏翔くんと話している……」

「その件についてだよ」


 ……あ?


「悪いけど、今日の霜月さんは少しおかしいと思う。なんで奏翔なんかと、話しているんだよ。さっきの件もそうだけど……少なくとも、普段の霜月さんならそうしてた」

「そんなこと……」


 島崎はそんな事を言う。どうやら、この世界での、霜月は俺とあまり仲がよく無かったらしい。それにしても、この言い方は……


 周りを見ても、他の奴はそうだと言わばかりに頷いている奴と、クスクスと笑っている奴しかいない。


「そうだと思うぞー霜月ー。お前ほどの奴が、そいつに気をかける必要性ねぇよ」


 廉也がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。


 ……最初からずっと思ってたが、俺はこいつが嫌いだ。ほかの連中はまだしも、こいつだけは無性に腹が立つ。


(それなら、行動に移せ。お前にはその力がある。違うか?)


 オフィリア? 突然何を言って……グッ!


 その時、強烈な頭痛が頭に響いた。あの時と同じで頭が割れるように痛い。


(気にするな。思うがままにやれ。)


 オフィリアがそう言う。 確かにそうだな……


 俺がこう思った途端頭痛が収まっていった。


「そんなゴミはどうでもいいからほっとけよ」

「でも……」


 霜月が俺を庇おうと、必死に言い返してくれている。これ以上、迷惑かけるわけにもいかねぇよな。


「どっちがゴミだ? いい加減にしろよクソが」

「あ? ……ククッ、ハハハハ! ついにこいつ壊れやがった!」


 大笑いする廉也。やはり俺はこいつが嫌いだ。明らかに俺の事を舐めている。でも、これはだからこそ刺さる。


「そうか……よっ!」


 ドンッ


 俺はそいつの顔面に思いっきり拳をたたきこむ。油断していたから、余裕で入った。周りが騒いでいるが、俺の知ったこっちゃない。


「奏翔くん!?」

「グッ! テメェ! 何しやがる!」

「黙れ。お前なんかに言われる筋合いはねぇって事だ」

「そうか、要は死にたいんだな? そんなに死にたいなら、お望み通り殺してやるよ! 極炎!」

 

 廉也はそう言うと手から炎を出して、こちらにぶつけようとしてくる。確かに凄い祝福だな。これなら調子に乗っている理由も分から無くはない。だが……


「やめて!」

「邪魔すんな! お前には関係ねぇだろ!」


 霜月が俺たちの間に入って止めてきた。腕には氷を纏っていて、それでガードしたらしい。俺のためを思ってしてくれたんだろうが……


「霜月いい。喧嘩を売ったのは俺だ。」

「え? いや、でも……」

「いいから」

「分かった……」


 霜月を避けさせる。悪い事をしたが、これは俺の問題だからな。


「そんなに俺を殺したいのか?」

「あ?」


 霜月に止められた廉也は、一度炎を消していた。恐らく、長時間は維持できないのだろう。


「昼休み体育館に来い。そこで殺させてやるよ。ただでは死なないけどな。 ……おい! 他の連中もだ! 文句あんなら昼休み来い!」

「え、ちょっと奏翔くん! 何言ってるのよ!?」

「大丈夫。俺に考えがある」


 霜月が止めてきたが……どうせだ。この機会に俺の教室での立場を一気に改善してやる。


「それなら、昼休みよりもいいタイミングがあるよ」


 そう言いながら、一人の男子生徒が前に出てくる。さっき言った島崎だっけか? いつの間に後ろに下がってたんだか。


「次の授業は祝福を使った実践訓練なんだ。その時に試合もあるから、それでやればいい。みんなもそれでいいだろう?」

 

 クラスの連中は、それを聞いて口々に同意し始めた。島崎の奴は薄気味悪い笑みを浮かべている。


 どうせ、授業で公開処刑しようとでも考えているんだろう。俺もそのつもりだからいいが。


「あぁ、それで俺は構わねぇよ。お前もいいよな?」

「チッ……まぁ、いいわ。お前を殺せるなら俺はどこでも。それじゃあ俺は先に向かってる。今さら怖気づいて逃げんじゃねぇぞ?」


 廉也と、一部の連中は教室から出ていった。随分と張り切っているがまぁいいだろう。そして、他の連中は動かずに固まっている。凄い衝撃だったんだろうな。


「ねぇ……本当に大丈夫?」


 霜月に心配そうに聞かれる。


「この世界での俺の立ち位置が、本当に最悪だったからな、いつか改善するつもりだったけど、それが早くなっただけだ。」

「でも、あいつの祝福、何か強そうだったけど……大丈夫だよね? 死んじゃったりしないよね?」

「本当に大丈夫だ。だからお前も先に体育館行っててくれ。多分場所は変わってないだろうから。まぁ、最悪何かあったら手助けしてくれ」

「……分かった。待ってる」


 霜月は教室から出ていった。そして、俺は固まっている連中にも声をかける。一瞬ビクッとしたが、さっさと行けと俺が言うと、慌てて出ていった。


「ふぅ……」


 



 私は体育館に向かって歩いていた。多分場所は変わって無いから大丈夫だと思う。それよりも……


「さっきの奏翔くんおかしかった気がする」


 一人呟く、普段の奏翔くんなら絶対にあんな行動はしない。断言する。二年間同じ教室で勉強していたんだから。


 確かに祝福で身体能力の強化はできる。オフィリアさんに教えてもらったし。でも……奏翔くんはあんな事を言う人じゃ無い。


 たまに素っ気ない事もあるけど、誰にでも優しくて、友達には特にそうだった。だから、いくら他人で、その人に馬鹿にされたとしても、絶対にあんな態度はとらない。本当に、まるで人が変わったみたいだった。


「大丈夫かな……」


 そう思いながら、私は体育館に向かって行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ