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2話 祝福

「はぁはぁはぁ。そろそろ疲れた……」


 俺たちは何もない空間をかれこれ1時間程歩いていた。だってしょうがないだろ? 唯一目標だった、あいつが跡形も無く消えたんだから。


 あの後あいつは、一度も姿を見せていない。直ぐに帰ってくると言っていたので、10分程その場で待ってみた。が、一切現れる気配が無かったので、とりあえず何か無いかと、歩くことにしたのだが……ここまで何も無いとは思わなかった。目標物が何もないから、移動したように全く思えない。


「大丈夫? そろそろ一回休憩しない? 動いてもあんまり意味ないっぽいし……」

「あぁ、そうだな。そうしよう。」


 霜月にそう言われたので、一度休憩することにした。俺はその場にしゃがみこむ。はぁ……これどうしよう。


 周囲をみても、ただただ暗闇が続いていて、ある程度歩いても全く状況が好転してなかった。


「……これからどうする? 霜月。最悪このまま餓死するぞ俺ら。」 

「そうだね。ほんとにどうしよ……」


 そう言って、ため息をついている霜月。……そういえば……


「そういえば、お前、よく息切れてないよな……俺だって息切れてるのに……お前そんな体力あったか?」


 霜月はこの移動中、一度も疲れた様子を見せなかった。霜月は運動神経もそこそこ良かった気がするが、ここまで体力あったっけ?


「あーえっとこれね……クラスメイト、あぁ今の世界のね。あの人たちが“祝福”とか言ってなかった? それを使ってる……と思うんだけど。多分奏翔も出来ると思うよ。」

「祝福? それは一体何なんだ? あいつら俺のこと弱小祝福とか言ってきたけど……」

「うーんと……ちょっと待ってね……今見せるから。」


 そう言うと霜月は、自分の手を前に突きだしている。何をする気だ?


「氷瀑!」


 霜月がそう言った途端、突如目の前に氷が出現し、それが瞬間的に爆ぜる。今のはどういう……


「えっと、前に夢の話したじゃん。奏翔くんが倒れた後、私も凄い頭痛に襲われて、倒れちゃったんだ。普段通りに起きたから、私も夢だと思ったんだけど、朝行ってあれだったからすごく驚いたんだ。」


 霜月もあの頭痛に襲われたのか。確かに夢ではないと言ってはいたが、あれもあいつが原因か?


「何で、こうなったのかと思ってクラスメイトに色々と聞いたら、何かそういう物があるって……すごく変な顔されたけど。」

「なるほど……それで体力とかも上げれるのか?」

「多分。私も詳しくは分かってないんだけど……」

「そのへんも含めて教えてやる。」


 その時突然正面から、聞いたことのある声が聞こえた。先程の人物がそこに立っている。


 これまでずっと考えていたのだが、恐らくここに呼んだのもあいつだろう。なら帰すことも出来るはず……これで何とかここかから脱出出来そうだな。


「エネルギーを使いすぎた。長く待たせてすまない。それよりも、祝福についてだな? そいつが見せたように、この世界の人間は先程の要な現象を起こす事が出来る。身体能力の強化はそれの応用だ。」


 淡々とそいつは説明する。そんな事よりも、さっさとここから出して欲しい。いい加減……


「少し位待て。元々、外の産廃どもがうるさくて、説明できそうに無かったから、ここに呼んだのだ。……何処かの愚か者のせいで余計な時間がかかったがな。」


 睨まれるが、仕方ないだろ。あの状況を完璧に理解できる人間がこの世に何人いるんだ。


「……まぁいい。話を戻すが、あくまで身体能力の強化は応用だ。本領はそうだな……一度やってみるほうが早いだろう。」


 そう言うと、そいつは何も無い空間から、一つのナイフを取り出し、こちらにほいっと投げてきた。 もう大抵のことでは驚かなくなってしまった。それで、これで何をしろと……というか、危ないからやめろ。


「それで自分の皮膚を切ってみろ。軽くでいい。とにかく血を流せ。」

「えぇ……」


 危ないからやめろと思った手前、最初からそういう目的だったらしい。痛いのは普通に嫌なんだが……もういいや。とりあえずやればいいんだろ、やれば。


 俺は自分の指にナイフを当てる。少し痛いが、これくらいなら何とかなる。


 そして、俺の指から血が流れて……こない? ナイフには確かに血がついているのだが、何故?


「それがお前の祝福、“再生”だ。ある程度の怪我ならば勝手に治る。使いすぎは厳禁だがな。」

「なるほど……ん? 待て。そもそも何で祝福を俺たちは持ってるんだ? 俺たちはこの世界の人間じゃないんだが……」

「はぁ……それぐらい状況から推測しろ。私が持たせたんだよ。お前らを元々この世界にいた事にしてな。だからあの産廃どもも、お前らの事を初めから認識していただろう? そういう事だ。これで理解したか?」

 

 それをする意味は全く分かってないけどな。そんな事をして、何がしたいんだよ。


「はぁ……この1時間でもう忘れたのか? 言っただろう? お前たちには神を殺してもらうと。」


 そう言えばそんな事を言っていたような気がする。だけど……


「それが分からないって、言ってるんだよ。なんだよ神殺しって。そもそも、そんな事が俺たちに出来るとでも? いくら変な能力を貰ったところで、ただの一般人だぞ?」

「うん……私たちに出来るだなんて、とても……」


 俺たちは口々にそう言う。霜月のあれは凄く強そうに見えたが、神殺しなんてできるとは到底思えなかった。


「大丈夫だ。お前たちにはそれができるようになるまで強くなって貰う。そのためにもある物のを集めてもらいたい。」

「ある物?」


 俺がそう聞くと、そいつは空中にに、6つの武器を出してきた。2対の剣、漆黒の槍、巨大なハンマー、紫色の銃、氷が纏う刀、槍と斧が混ざったような物。確か、ハルバードって言うんだったか? というか、ここにあるなら、集めるとはいったい。


「これはあくまでレプリカだ、お前たちに見せるためにだした。私は色々と事情があってな。直接は、動くことができない。が、随所でサポートはするつもりだ。」


 指で武器をくるくると回しながら、そいつは言う。



「まぁ、そもそも協力しなければ、元の世界に戻す気も、ここから出す気もない。お前たちに残された道は私に協力することだけだ。」

「……どうする? 奏翔くん。」

「……どうするも、こうするも、言う通りにするしかないだろ。元の世界に戻るためにも、ここは言うことを聞いておくべきだ。」

「そうだよね……」


 霜月に小声で聞かれたが、こうなった以上、こいつの言う通りにする他無いな……


「分かった。お前の言う通りにする。だから、取り敢えずここから出してほしい。」

「そうか。賢明な判断だな。いいだろうここから、出してやる。外の時間は動いていないことになっているから安心しろ。それでは検討を祈るよ。」


 それだけ言って、そいつはまた消えた。そして、あたりの空間がどんどん剥がれるように落ちていって、辺りが明るさを取り戻す。そうして、元の場所に戻った。


「おい、何とか言えよ、ゴミ。」


 金髪の不良がそう言って、ほかの連中も口々に騒いでいる。なるほど、本当に時間が止まっていたらしい。確実に1時間以上経っていたが、こっちでは、1秒も時間が動いていなかった。


廉也(れんや)君も、みんなも、もうストップ! そんなに言わなくていいし、授業始まるから。」


 霜月の言葉に全員が騒ぐのをやめた。こいつの名前は廉也と言うらしい。……霜月もこいつらの事は知らなかったはずなのに。凄いな。


(こいつは、ここに来たタイミングで色々と産廃どもに聞いていたからな。その時に、こいつらの性格、名前、そして、ここがどうなっているかを、曖昧にも把握したんだろう。何も分からない状況の中で、冷静に判断を下せた、こいつの行動力には素直に称賛する。)


 突然、頭の中に声が響く。ついさっき、聞いたことのある声だった。間違いなくあいつだろう。


 何のようだ? というか、こんな事もできるんだな。


(先程言っただろう。色々とサポートすると。直接現れる事は出来ないが、こうして頭の中で語りかける事なら可能だ。)


 ……今さらな気もするが、こいつは本当に何者なんだ? 俺を別世界に呼び出すとか言う、わけの分からない事を平然とやってのけ、今もこうして声だけで語りかけてきている。神か何かなのか?


(……)


 こういう時に限って何も言わない。さっきまであれほどしゃべっていたのに、随分と都合のいい奴だな。分かった。それに答える気がないのは。だけど、せめて名前だけは教えてくれないか? ずっと、こいつ呼びはきつい。


(……オフィリアだ。分かったら、今後そう呼べばいい。)


 名前だけぼそっと教えてくれた。オフィリアな。覚えておくよ。


「おい。お前ら何騒いでるんだ。さっさと授業始めるから席につけ。」

「チッ、今回は霜月に免じて許してやるよ。次はないからな。」


 どうやら、担任が来たらしい。廉也という不良は俺を睨みながら、それだけ言って席に戻って行った。


 俺もとりあえず席に向かう。どうやら席の位置は奇跡的に変わっていないようで、問題なく席に座る事が出来そうだ。


 俺が歩いていると、さっき騒いでいた奴の一人が、急に足を横に伸ばしてくる。 俺はギリギリのところで、間一髪またいで回避した。


「チッ。なんだよおもんねぇの。」


 そいつは、小声でそう言ってこちらを睨んできた。さっきから思うが、この世界での俺の扱い酷すぎないか?

前も、弱小祝福だのなんだの言ってたし、さっきの件もそうだし……


(私がそういう事にしたんだよ。先刻言っただろう。お前たちを元々この世界にいた事にしたって。向こうはお前を元々いたものだと認識している。この世界でのお前は、弱小祝福しか持たない、ただの産廃だ。)


 何で、そんな設定にしたんだよ。これだと、お前の目的である神殺しとやらも出来なくないか?


(大丈夫だ。 先程は産廃と言ったが、再生はあることをすれば、化ける。だがら今は気にするな。そのうち何とかなる。)


 オフィリアはそう言って来るので、気にしないことにした。後々どうにでもなるのだろう。俺はとりあえず席に着く。


 元の世界での霜月の席は俺のすぐ前だが、この世界ではどうやら反対側になってしまったらしい。俺の真反対の席にいつの間にか座っていた。


 そして、教壇に立っていた教師が、おもむろに話し始める。


「今日は、昨日の続き、()()()についての授業だ。寝ないでしっかり聞けよ。」


 ゲート? 一体なんの事だ? オフィリア教えてくれ。


(……)


 分からない用語が出てきたので、オフィリアに聞こうと思ったが、ここでまさかの無視。サポートするとか言ってたくせに。途中途中で無視してくるのは何でだよ。


 俺のはそんな事を考えていたが、返ってくる言葉はなく、担任はそのまま授業を始めた。

 

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