恋愛ゲームの主人公の親友転生おじさん
ありま氷炎様主催の「第十回月餅企画」参加作品です。
目を覚ました。そして、すぐに気づいた。ここは僕の家ではない。ここは一体どこだ?
机の上に無造作に置かれた教科書。高校生の少年の部屋だ。タイムスリップした? いや違う。ここは高校時代の僕の部屋じゃない。
スマホにメッセージ着信。書かれていた内容は……
「トシオ ごめん。俺。五月女沙悠ちゃんがどうしても好きになっちゃったんだ。おまえならメルアド知っているだろ。教えてほしいんだ。 ツヨシ」
僕は理解した。転生したんだ。そして、ここは恋愛ゲーム「キラキラ スプリングタイム オブ ライフ」の中だ。そして、今の僕は……
◇◇◇
「ふざけんなよっ! 社長っ!」
飛び交う怒号。僕は前世に最後に見た光景を思い出していた。
僕は小さなチェーンスーパーの店長だった。35歳。独身。一人暮らし。
職場はブラックというしかなく、労働は過酷。休みなし。給料は安い。
正社員は僕だけ。後は全員パートかアルバイト。劣悪な労働条件でたくさんの人が辞めていったが、四人の女性だけはずっと勤め続けてくれた。この方たちには今もいくら感謝しても足りない。そして、安かった給料が申し訳ない。
曰く「この店が好きなんだ」「来てくれるお客さんがみんないい人ばっかじゃないか」「店長がこうお人好しなんじゃ、助けてやらないわけにはいかないじゃん」
厳しいながらも平穏な日々はある日突然破られた。朝、出社したら「この店舗は○○弁護士事務所の管理下になりました。立入を禁止します」の貼り紙と施錠。
パートのみなさんと顔を見合わせていると、そこに現れたのは高そうな外車にキンキラキンの女性を同乗させて、自分もキンキラキンの格好をした社長。
「△△スーパーは今日付で倒産した。よって従業員は全員解雇。じゃあ、わしは別に経営している不動産業が忙しいのでそっちに行く。じゃあな」
そのまま立ち去ろうとした社長にパートのリーダー格50歳の面倒見がよく、気っぷのいい民子さんが激昂。長く勤めてくれた40代の二人のパートさんも続く。
「ふざけんなよっ! 社長っ!」
「馬鹿にすんなっ! 倒産したなら従業員への給与の支払いが最優先だろうがっ!」
「てめえの連れているその女。女房じゃなくて、南町のスナックのママじゃねえかっ! 舐めてんじゃねえぞっ!」
パートのみなさんが社長の乗ってきた高そうな外車を取り囲む騒動に発展。そんな中、体が弱くて限られた時間の勤務しかできないのに長く勤めてくれた27歳の真夜さんがフラフラと倒れた。
「そんな…… この店、他のパートさんもお客さんもみんな優しくて、ここならずっと勤められそうだったのに。それに……」
慌てて駆け寄る僕。しかし、僕も累積していた疲労と今回のことの衝撃で気を失い、そのまま……
◇◇◇
転生してしまったらしい。まあ前世ではリアルな恋愛している時間なんかなかったし、その分「キラキラ スプリングタイム オブ ライフ」はやりこみ、ドはまりして、ヒロインのイラストをゲーム雑誌に投稿して、常連の一角にまでなった。
だから嫌というほど分かったが自分が転生したのは「キラキラ スプリングタイム オブ ライフ」の主人公ではない。その親友佐東登志夫だ。
このトシオ。同じ学校の女の子の情報に異様に詳しく、主人公が攻略対象の女の子を決めて、連絡を寄越すと、全ての女の子のメルアドを把握している。女の子も普通メルアドを教えてもいない男からメールがあれば、どびっくりだが、文章の最初に「いきなりメールしてごめんなさい。このメルアドはトシオから教えてもらいました」と書けばノープロブレムという便利な奴だ。
正直、転生するなら、やっぱり主人公が良かったなーなどと思っていると、トントンと部屋をノックする音。
「はいよー」
ガチャという音と共に入ってくるのは湯上がりの美少女。トシオの妹潤美だ。
「お兄ちゃん。お風呂空いたよ-」
「うん。分かった。ありがとう」
ゲーム中でトシオはウルミを溺愛していた。うん分かるぜ、その気持ち。ウルミも主人公から見たら攻略対象の一人なんだが、半端な男にはウルミは任せられん。だけど、主人公が真摯な男でウルミもそいつのことが好きなら、全力で応援しよう。ん? ん? ん?
湯船に浸かるとだいぶ気持ちが落ち着いてきた。主人公ではなく、その親友に転生したことは確かに初めはガックリきた。
だけど、前世で最後、僕と一緒に頑張ってきたパートの人たちは果敢に社長に抗議したけど、僕は何も出来なかった。これで、自分だけ恋愛ゲームの主人公になって幸せってのも勝手過ぎるだろう。
そう考えると恋愛ゲームの主人公の親友というのは今の僕にふさわしいかもしれない。前世で人を幸せに出来なかった分、今回は頑張る。
ゲーム中のトシオは主人公への友情に厚く、妹思いと評判で、ゲーム雑誌の投稿欄には女性読者から「トシオも攻略対象にしてほしい」というのが載るほどの人気があった。
だが、僕は別のやり方で行く。その応援が主人公もヒロインも幸せにしないと思ったら、絶対に応援しない。主人公があるヒロインを好きなら、どこが好きなのかも聞くし、ヒロインの気持ちもよく確かめる。
とにかくバッドエンドの時にトシオが歌う歌「負け犬男の遠吠えの詩」は名曲だが、断じて歌う気はない。
僕の関与する恋愛でバッドエンドは一つたりとも導かんぞっ!
◇◇◇
かくて今までのゲーム内トシオとは一味違うニュートシオとして、僕はデビューした。
思いから悩みに悩んだ末、告白するという人には男女問わず、ばんばん応援した。その一方で転生者なんだか根っからの性質なのかは分からないけど「ハーレム狙い」には断固として厳しく対応した。
そこまで行かなくてもこれは本人たちのためにならないと判断したら、メルアドは教えなかった。だから一部の者からは嫌われたりもしたけど、長い目で見れば、みんな感謝してくれた。後から「あの時はすまなかった」と言ってくれた人も多い。
ふふん。見たか高校生ども。こちらとら伊達に35年も生きて、スーパーの店長をやってきたんじゃないわ。恋愛経験は乏しいけど(泣)。
しかしそうなるとこういうことを言ってくれる人たちも出てくる。
「トシオはいい奴だよなあ。トシオに世話になった奴、一体何人いるんだよ。だけど、肝心のトシオに彼女ができないのはどういうわけだ?」
「そうだよ。トシオ君だって、幸せになっていいのに」
みんなありがとう。だけどこれは「キラキラ スプリングタイム オブ ライフ」の仕様なのだ。主人公の親友には彼女ができないことになっているのだ。
◇◇◇
そんなある日のこと。とある女の子からメッセージが来た。情報屋、恋愛仲介人として、その名を馳せているので、女の子からの相談のメッセージも今となっては珍しくも何ともない。しかし、その時、書かれていたのは……
「佐東登志夫くんを攻略したいです。私とお付き合いしてください」
やれやれ、転生者かな? 僕が転生する前のトシオも一部で根強い人気があったからなあ。でも、残念ながら「トシオは攻略できないんですよ」と返信。
あ、もう返信がきた。
「ふふふ。ご存じなかったですか? 亡くなられた後に追加コンテンツが発売されて、女性主人公でトシオくんも攻略できるようになったんですよ。店長さん」
え? 店長さんて。そう言えば送信者の名前よく確認してなかった。え? 古庄真夜って?
これはもうメールのやりとりなんてまだろっこしいことはやってられない。僕は電話をかけた。
「真夜さんっ、真夜さんなんですか?」
「そうです。店長さんよりちょっと遅れていたけど、私も転生してきました。もともと体は弱かったし、店長さんに亡くなられたショックもあって、追いかけるように死んじゃったんですよ」
「そうだったんですか」
「でも私も好きな人がやっているゲーム『キラキラ スプリングタイム オブ ライフ』をやっていたおかげで同じところに転生できました。もう前世のように告白しようか迷っているうちに好きな人に急死されて後悔なんかしたくありません。好きです。付き合ってくださいトシオくん」
「気持ちはすごく嬉しい。でも……」
逡巡する僕。
「僕は一緒に頑張ってきた民子さんたちを放り出す形で転生してきた。それで自分だけ幸せになっていいのだろうか」
「ふふふ」
笑い出す真夜さん。
「民子さんたちのパワーを舐めてはいけませんよ。あの後、いろいろなところに相談に行ったそうです。社長は数々の不正経理が摘発されて逮捕。民子さんたちとお客さんたちは何とかお店を復活させたいと頑張っていたら、出資してくれる人が現れて、お店は、新店長民子さんの下で大繁盛。そして、すっかりホワイトな職場になったそうです」
「そうか。よかった」
涙が出てきた。
「それでトシオくん。私とお付き合いしてもらえますか?」
「もちろん。僕だって真夜さんが好きだったんだから。でもどうして僕がトシオに転生したって分かったの?」
「それはすぐ分かりましたよ。だってトシオくんの優しさと店長さんの優しさがそっくりだったから……」
恋愛ゲームの主人公の親友転生おじさん 完
読んでいただきありがとうございます。