ゲームの世界に転生したけれど……積んだわ。
果たして自分がどうやって死んだのかはわからない。
心臓が止まったのか、はたまた脳の血管がはじけたのか、もしかして自動車にでも轢かれてしまったのだろうか?
ただ結果として、現状として俺は今ここにいる。何度も何度もクリアしてそれでも飽き足らずに縛りプレーとかでも踏破したこのゲームの中にいる。
これがちまたで良く聞く異世界転生とかいうやつだろうか?
いきなり前世を知覚し、頭が冴えまくり、テレビの向こうで何度も見た光景に俺が立っている。
正直、興奮した。
俺の前世は特出するところはない。平々凡々なよく言えば安定した、悪く言えばつまらない人間だった。
友達もそれほどいなくて、親友なんていうのはもっといなくて一人でずっと同じゲームをプレイし続けるだけの人間だったのだ。
まるで自分が主人公になったような気分だ。
普段は目立つ奴の気が知れないし、褒められてもなにか裏があるのかを勘ぐってしまうのだが今は違う。賞賛を溢れる程に浴びたい。
俺はこの世界の知識がある。これは誰よりも秀でているアドバンテージだ。
残念ながら俺は主人公のキャラクターに転生したわけでなく、主人公が拠点とする国のモブAなのだか、それは些細なことだ。
この世界の育成システム、効率的な経験値の稼ぎ形。最強の技構成。全て頭に入っている。
俺はこれから無双するのだ。生前の知識を使って、冒険を経て、たくさんの賞賛を浴びて、魅力的なヒロインたちとイチャイチャしながら、魔王を蹂躙して。
「この世界をしゃぶりつくしてやる!!!」
この世界は……地獄だ。
今日も虚無顔で街を散策する。
当初の予定ではこの街にある隠しダンジョンを潜り、経験値3倍アップ装備を入手してから少し東にいる基礎ポイント上昇アイテムを持つモンスターを刈りまくり、ステータスカンストを目指すつもりだったというのに……。
俺はずっとこの街から出られないでいる。
今日もダメもとで街とフィールドの境目を跨ごうとするもののやっぱりダメだった。なにか不可視の力で押し返される、それは俺の全力よりも遙かに強い力だ。
当然その謎力場によって隠しダンジョンにも入ることも出来ない。
ゲームの仕様上、モブキャラはフィールドマップには行くことが出来ない。街から出ることはできない。それは設定されていない。
こうなればヤケになって街の人間に攻撃して経験値を得ようとしたこともあったけれど、俺がいかに攻撃をしようともあらゆるものを傷つけることができなかった。
なんなら攻撃されていることに全く気づいていなかったのだ。いくらぶん殴ってもまったく無反応で歩き続ける街の人を見たときには絶望した。
俺がやっていることは間違いなく傷害事件だというのに誰もそれに反応もしない。そういう設定はされていないから。
挙げ句に家とか壁とかそこらへんに咲いている花だとかも一切傷つけられなかった。
これはどうやらモブキャラ一人一人までステータスが設定されていないということなのだろう。そもそも攻撃力という概念も存在していないのだろう。
もうこうなると完全に自暴自棄で、エロ目的で街の女キャラに襲いかかろうとかもしたけれど、そもそも裸のグラが用意されていないから、服をめくるだとか破くということも出来なかった。
ゲームの世界ということは設定されていないことをすることが出来ない世界ということなのだと俺は絶望的な体験をもって刻みつけられた。
もうこうなると勇者がゲームを進行させるのを待つしか無いのだが……。
勇者がこの街で起こすイベントは魔物の軍勢が押し寄せてその圧倒的な物量にこの街が蹂躙されるという、勇者が初めて挫折を味わうといういわゆる負けイベントなのだ。それに伴い俺達モブは全員無惨に殺されてしまう。
勇者というたった一人の選ばれた者の挫折と復活を演出するためだけに殺される。
名も無きモブたちからしてみれば到底納得できるものではない。
俺は舞台装置という現状に不満しか無い。
確かに現状はあまりにもつまらないものだが、それでも死よりはいい。
俺はいつか訪れる無惨な死に恐怖を抱きながら暮らしていかなくてはならない現状に絶望するしか許されていないのだった。
「もう、いっそ殺してくれ……」
あれからどれだけの時間がたったのだろう?
相変わらずあとどれだけあるかもわからない死のカウントダウンに怯えながら生きていく日々だったが。
長い、あまりにも長い。
一体いつになったらイベントは発生するのだろうか? イベントが発生してしまったら俺は間違いなく死んでしまうのだが、それでもイベントの発生を望んでいる。
今日もいつものように街をふらついてから、いつものように宿屋へと立ち寄る。詳しくはそこの個室に用があるのだ。
このゲームの世界では設定に無いものはすべて無反応だから、誰に咎められる事も無く宿へ入り、そのまま関係者以外立ち入り禁止の個室へと立ち入る。
「今日も動き無しか……」
かなり前に気づいたのだが、そこにはこの世界の主役である勇者がいた。
ベッドに横たわり微動だにせずに横たわっている。
呼吸は無く、ぱっと見た感じでは死んでいる。
だが勇者は死んでいるわけではない。俺は勇者のこの状態に覚えがある。
このゲームだが、セーブを行う際には宿屋などのセーブポイントでしなくてはいけないタイプのゲームだ。
そして再度ゲームの起動後にデータロードを行うわけだが、ロード後に画面に映し出されるのはベッドに横たわる勇者であり、その勇者が起き上がることでゲームが再開されるのだ。
つまり寝たきりの勇者という現状から導き出されるのは、セーブしたままずっっっと放置されているということなのだ。
果たしてプレイヤーがこのゲームを進める気があるのかはわからない。こんな道半ばでゲームをプレイしなくなった理由もわからない。そして今まで自分の経験からこうやって一旦やめてしまったゲームが再開される可能性は、ほぼ無い。
結果として静止してしまった世界がここにある。意味の無い世界がここにある。
こういうのって生前の知識を駆使してチートするもんだろう? それが醍醐味だろう?
静止した世界でひとりぼっちで生き続け無くてはいけない現状。安易に転生して無双させるなんてテンプレを頑なに認めたがらないクソ思想が見える。
神様がいるならそいつはわかってない。まったくロマンというやつがわかっていない。
テンプレ無双できないこういう逆張りみたいのをカッコいいとか思っているのだろうか? まったくナンセンスだ。マジでてわかっていない。クソ神様野郎だ。
ホントになんで俺はここにいるんだろう?
最初はゲームの世界に転生できたことが嬉しかった。でもすぐにそれは絶望になって、今では死を望んでいる。
俺はなにか悪いことしたのだろうか?
これはなにかの罰なのだろうか?
答えてくれる奴はだれもいない。
こんなクソ世界の歯車に組み込まれてしまった俺は今日も、ずっと絶望のままに無反応で無気力で無意味にこんな牢獄で死を望んで生きていくのだ。




