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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
序章 始まりの冒険
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8.模擬戦

「はぁ!?無茶言うんじゃねぇよ!講習も終わってねぇ新人(ルーキー)を連れてけるわけねぇだろうが!」


 壮年の男の言い分に、職員の男は烈火の如く憤る。


「なぁに、ゴブリン三匹を子どもを守りながら相手取ったんだろ?最低限の実力は保障されてるさ。講習ついでに、迷宮攻略と洒落込もうぜ、な?」


 最後の発言は、ガラに向けてのものだった。壮年の男が妙に様になるウィンクで同意を求めてきたのだ。


「あぁ、行くよ」

「坊主まで!下手打ちゃ死んじまうんだぞ!出来立ての迷宮は魔力も安定しちゃいねぇ!傾向がブレるから、既にある迷宮よりある意味で危険だ!何が起こるか、わからねぇんだよ!このアホなら自分でどうにかできる実力があるが、お前さんにはそれがない!」


 ガラは静かに壮年の男の誘いを了承する。それに対して激しく反対するのは、職員の男だ。


 だが、ガラが引くことはなかった。


「おっさん、心配してくれるのはありがたいけどさ。故郷に危機が迫ってるんだ。何もしないなんてできねぇよ。俺はもう誰にも傷ついてほしくないんだ」

「それで坊主が傷ついちまったら、意味がねぇだろ!お前はそれで満足かもしれんがなぁ!残される連中のことを考えろ!」


 ガラの想いを受けても、職員の男もまた引くことはなかった。


「落ち着けって旦那。あんたの心配ももっともだが、現実的にこれしかないじゃねぇか。この町の冒険者で他にまともに戦える奴がいるか?いねぇだろ」

「だが!無謀にもほどがある!数日もすれば、隣町から応援が来るんだぞ!」

「それじゃ、町は大丈夫でも、村がどうなるかはわからねぇだろ?」

「くっ……!?」


 壮年の男の説得を聞くまでもなく、職員の男とてわかっている。


 辺境の町に常駐する戦力など高が知れている。町以外を守る余剰などない。


 理解していたのかいなかったのかはわからないが、これを聞いている以上、カーボネック出身のガラが引くことは絶対になくなった。


 それが職員の男の認識だった。


「なぁに、別に迷宮主の相手をしてもらうわけじゃねぇ。それに俺が集中できるように、雑魚を抑えてもらうだけだ。盾使いなら、できて当然のことだ。講習でも同じことを実践させる」

「……模擬戦だ」


 職員の男は、壮年の男の言葉をできるだけ冷静に咀嚼する。そして、妥協点を引っ張り出す。


「お前さんと坊主で模擬戦をしろ。手を抜くんじゃねぇぞ、その結果次第で俺も決断してやる」

「わかった。新人くんもそれで良いな?」

「わかりました」


 職員の男の言葉に、冒険者二人はあっさりと頷いた。




 ……




 模擬戦の結果がどのようなものであれ、外部からの支援は必須である。関係各所への事態の共有を果たした後、三人の姿は、町壁の外に広がる平原にあった。


「さて、なんだかんだで名乗ってなかったな。俺はハント、Cランク冒険者だ。よろしくな、新人くん」

「俺はガラ。一応、Fランクだ」

「挨拶は終わったか。それじゃあ、距離をとりな」


 ガラとハントが軽く自己紹介をしたところで、職員の男が模擬戦の音頭を取る。


 冒険者二人はそれに素直に従い、互いが踏み込めば三歩で激突するであろう距離で対峙する。


「ルールは単純だ。殺しは無し、大怪我も無し、坊主が実力を示せた時点で終了する。それと、……命が掛かってるんだ!手加減なんてするんじゃねぇぞ、ハント!」

「わかってますよ、旦那」


 職員の男が淡々とルールを確認し、最後にハントを怒鳴りつける。それに軽く応えるハントに舌打ちをしつつ、両者の準備が整ったのを確認する。


「では、始め!」


 開始の合図と同時、飛び出したのはハントの方だった。


 ガラは大盾を構えて、どっしりと地に踏ん張っている。


 ガラが動かないため、ハントが間合いを詰めるのに要した歩数は()


 ガラが一瞬の驚愕に囚われる。


「そら!」


 軽い掛け声とともにハントの剣撃が繰り出された。


「ぐっ!?」


 咄嗟にガラはそれを大盾でかち上げた。


 だが、それは悪手だ。


 ハントの歩幅を読み誤り、一瞬の隙を晒したガラの体勢は崩れかけていた。


「甘いな」

「ぐふっ!?」


 ガラ空きとなったガラの土手っ腹に、ハントの足蹴が叩き込まれた。


 ガラは蹈鞴を踏み、脇を締め直し、腰を落とした。


 一方、ハントは追撃を繰り出さんと足蹴を踏み込みに繋げ、ガラに迫る。


「せぁああ!」

「うおっと!?」


 そこにガラの反撃。大盾を構えての突進だ。


 壁の迫るが如き圧迫感に、ハントの動きが一瞬、硬直。寸でのところで横に躱した。


 ガラはある程度の距離をとったところで反転。体勢を安定させ、受けの構えを見せる。


「ふっ、冷静だな」


 逸らぬガラの様子に、ハントは思わず呟いた。


 そして、遠慮無くガラに突っ込んだ。


「ほらよっと!」


 ハントの二度目の剣撃に、ガラは今度は冷静に受け止めた。


 響き渡る金属音。その余韻が終わらぬうちに、ハントが連撃を繰り出した。


 幾度と無く剣と盾がぶつかり合い、幾重にも金属音が響き渡る。


 痩身のハントを見て想像だにしない威力の剣撃に、ガラの両腕が痺れを感じ始めた。


 ガラは意識的に、盾を保持するために、僅かに両腕を上げ過ぎた。


 ハントの足蹴が、ガラの盾をかち上げる。


 ガラ空きになる胴体。驚愕に包まれる思考。


 ハントの薙ぎ払いが襲いくる。


 咄嗟の判断は、盾から片腕を外し、その腕による防御。


「それまで!」


 職員の男が、模擬戦の終了を告げた。


 ハントの剣は、しっかりと寸止めされていた。

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