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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
序章 始まりの冒険
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7.誘い

 冒険者ギルド。


 ガラがゴブリン三匹と思わぬ遭遇(エンカウント)をした翌朝。


 ガラがギルドを訪れると、珍しく先客がいた。


 ショートソードを腰に下げ、歴戦の傷が見られる革の胸当てをした壮年の冒険者だ。


「おっ、君が噂の新人(ルーキー)くんだな?いやぁ、悪いねぇ。待たせちまったみたいじゃないか。おまけに、こっちのヘマの尻拭いまでされたとあっちゃ、頭が上がらないよ、ホント」


 壮年の男はガラに気づくなり、そう言って捲し立てた。軽い口調であるが、言葉は本音のようでどこかバツの悪そうな様子と感謝の気持ちが伝わってくる。


「おっさん、この兄ちゃん何?」

「お前さんお待ちかねのCランク冒険者様だ。ま、依頼失敗して帰ってきた役立たずだがな」

「うっ……!」


 ガラの問いに答えながら、職員の男が壮年の男に言葉の剣を突き立てる。

 壮年の男は、わざとらしく胸を押さえた。


「へぇ、でも、Cランクがゴブリン三匹を取り逃したわけじゃないだろう?この兄ちゃん、何の依頼受けてたんだよ?」

「ガキのくせに頭の回るヤロウだなぁ。もちろん、お前さんの倒したゴブリンは、この役立たずの依頼失敗による副産物だ。コイツの請け負った依頼は、この辺境には不釣り合いな高ランクはぐれ魔獣の発見、できれば討伐だ」

「はぐれ魔獣、ね」


 壮年の男が言った、自身のヘマの尻拭い。これに該当するようなことは、ガラには一つしか思い当たらない。それを突けば、順当に正解だったようで職員の男が説明してくれる。


 ちょいちょい挟まる毒舌で、壮年の男は四つん這いになってしまっているのを尻目に。


「あぁ、このアホははぐれ魔獣自体は発見できたんだ。だが、コイツのランクじゃ少々、手が余ったらしくてな。討伐は失敗、取り逃したんだとよ。それで運悪く、はぐれ魔獣が不活性状態の魔力特異点を見つけたんだろうなぁ。迷宮ができちまったわけよ」

「迷宮だって!こんな辺境にか!」


 話の肝に入って、ガラが勢いよく反応する。


 当然だ。迷宮というのは、資源の宝庫であり人類に益を齎す一方、強大な魔獣たちの棲息する危険地帯。


 既に防備を整えた迷宮都市ならばともかく、平穏な辺境で発生した迷宮は手に余る。初動に失敗し、崩壊してしまった町の話は珍しいことではない。


 まして、ライオネルのほど近くに発生した迷宮は、ガラの故郷であるカーボネックにも近いということになる。故郷の心配でオチオチ冒険もできなくなってしまう。


「まぁ、落ち着けって。解決策はあるんだ」

「何だよ!?解決策って?!」


「迷宮の攻略さ」


 落ち着かせようとする職員の男の言葉に、ガラが噛みつくように問い掛ける。


 それに答えたのは、今まで気落ちしていた壮年の男だ。


迷宮主(ボスモンスター)を討伐すれば、魔獣は大人しくなる。もちろん、しばらくすれば新たな迷宮主が現れるが、猶予はできる。最低限の防備を整える猶予がね」

「迷宮主の討伐!」


 壮年の男の回答に、ガラは熱狂に輝く瞳を見せた。この時ばかりは、故郷の危機ということを忘れるほどに。


 迷宮の攻略は、冒険者の憧れだ。


 それは迷宮主の討伐が、強者になる近道だからだ。


 世界に溢れる魔力と名づけられたエネルギーは、精神に感応する摩訶不思議な性質を宿す。この性質により魔力は大雑把に言えば願いを叶えてくれる。


 その魔力が満ち満ちた領域である迷宮で、強くなりたいと願えば強くなることができる。


 そして、それは死闘に身を晒すほど効果が高い。


 何故ならば、死闘に身を晒し、生命の危機を感じるほど、強くなりたいという願いが明確に絶対に愚直に誠実に切実に、より強く激しく大きくなってゆくからだ、とされている。


 実際に、それなりのキャリアのある冒険者というのは一般人よりも強い。似たような体格であれば、まず間違いなく冒険者が圧勝する。


 だが、それは魔獣にも言えること。否、魔獣の方がその恩恵は大きいとされる。


 魔獣たちは本能に忠実だ。人類のように余計な願いというものがない。


 金持ちになりたいとか、美しくなりたいとか、楽がしたいとか、死にたくないとか、老いたくないとか。


 そういった余計な願いがない。


 食うか食われるか、生き残るか死に果てるか、獣たちはシンプルだ。


 魔獣たちは日夜、迷宮の魔力に晒されて常に、食う側にあることを、生き残る側にあることを、願っている。


 その頂点に立つ迷宮主は、正に強敵だ。


 その討伐は、死闘になりやすい。


「できるのかよ、はぐれの頃にしてやられたんだろう?」


 職員の男の冷静な問い掛けで、ガラの頭も冷えた。


 頼みの綱である壮年の男に視線を向ける。


「一人じゃ無理だね」


 あっけらかんと壮年の男は言った。


「だから、この新人ルーキーを連れて行こう」

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