5.報告
ガラたちが町に戻ると、子どもの親が直ぐに飛び出してきた。
子どもを抱き締め、その生存に滂沱の涙を流す。
子どもの存在をしっかりと確かめた後は、ガラに対する感謝の嵐だ。
それは、周囲で様子を窺っていた衛兵が制止するまで続くほどだった。
ガラも悪い気はしないものの少しお疲れ気味だ。
さて、その衛兵だが、ガラに用があった。
先に逃げてきた子どもたちから大凡の事情を把握しているものの、事態の詳細は分かっていない。事態の当事者であるガラに些細を聴取する必要があった。
衛兵詰所の一角。
ガラと衛兵が備え付けの机を挟んで椅子に座っている。
「では、ゴブリンが三匹いた、と」
「はい、子どもの安全を優先して、証拠になるような物はありませんが」
「あぁ、別に信じていないわけではない。そもそも、もう一人の当事者である子どもに聞けば、はっきりすることだ。しかし、あの森に魔獣が出たのか……」
ガラが事情を粗方、話し終えたところで衛兵が考え込むように俯いた。
「あの、帰っていいですか?もう全てお話ししましたが」
「ん?あ、あぁ、大丈夫だ。次いでにギルドに報告しておいてくれ。君は冒険者だろう?」
「はい、わかりました。それじゃあ、失礼します」
「うむ、子どもたちを助けてくれたことに改めて感謝する」
律儀に深々と頭を下げる衛兵に苦笑を返しながら、ガラは衛兵詰所を後にした。
……
冒険者ギルド。
「何?森にゴブリンが出た?」
「あぁ、三匹出たぞ」
受付カウンターにて、ガラは職員の男に先ほどの事態を報告していた。
「もう、衛兵の方には説明した後だ。子どもがいたから、証拠品は無いけどな」
「子ども優先か、正しい判断だな。まぁ、証拠品があれば、講習免除もできたんだがな」
「何!?マジかよ!てか、それで良いのかよ!」
「良くねぇぞ、不正だ。そもそも講習は戦闘能力以外にも、野外での生存能力や探索能力も問われるんだ。ただ、証拠品があれば、幾らでも誤魔化しが効くんだよ」
「チッ、じゃあな、おっさん。確かに報告したからな。忘れんじゃねぇぞ」
「おう、分かってらぁ」
職員の男が揶揄ったのだと判断して、ガラは舌打ち一つ。振り向くことなく、宿に帰っていった。
職員の男一人となったギルドは伽藍として淋しげだ。
「あぁ、ゴブリンが三匹ねぇ。あの野郎、間に合わなかったか」
気が抜けたように独りぼやく。
「メンドーだなぁ。一度、湧いちまえば閉じられないってのによぉ。出来ちまったってことだよなぁ、ハァ」
ー迷宮がヨォ
男の呟きが虚しくギルドの壁に染み込んだ。