39.人喰いの薬草園・後編
マイコニドを回収した〈盾の誓い〉一行は探索を再開する。
時折、襲い来る枝魔芽を散らしながら危なげなく進んでいた。
「止まって」
静止の言葉を発したのはギーネだ。それを受けて一行は迷わずその歩みを止める。
「罠?を発見」
本人も自信なさげに申告する。それを受けて動いたのは、シャルセだ。
進行方向の草木を確認して、一つ頷く。
「足切草だね。気づかずに通っていたら足首あたりを鋭い葉っぱで傷つけることになる」
「流石だな、ギーネ」
シャルセの確かな知識確認を聞いて、ガラが一言。ギーネはそれに頷いて応えた。
足切草は、その名の通り低く繁って鋭い葉で歩む動物の足を傷つける。さらに、その草汁が止血を抑制する出血毒であるために嗅覚に優れた魔獣を呼び寄せ、体力の消耗を強いる天然の罠だ。
一行はシャルセの先導の元に足切草を避けて歩みを進める。
ガサガサと鳴るは何度目か。インプを警戒する一行の元に姿を見せたのは、巨大な食虫植物だ。無数の根がのたうつようにしてその身を動かし、獲物を求める大口のような二枚貝状の葉っぱが忙しなく開閉している。
D級指定魔獣マンイーター。喰人植物と呼ばれる能動的な緑魔種だ。
「足切草の群生地は抜けていないよ!あまり動き回らないで!」
シャルセの警告に、しかし、それではどう立ち回るべきか、ガラたちに迷いが生じる。
「俺は脚甲をしてる。メインで動くぞ」
ギョクトがそう言って動き出した。
「頼んだ!」
となると、ガラの役目は後衛のギーネに攻撃を届かないようにすることである。
「矢で援護するわ!」
シャルセはスルスルと木に登り、太い枝に陣取った。
「ふっ!」
そうこうするうちにギョクトの初撃が放たれる。跳躍からの踵落とし。脚甲があるとはいえ、全面を守っているわけではない。足切草の生え方によっては傷をつくることになる。それを避けるための行動だった。
そこにマンイーターは蔓蔦の触手を伸ばしてその足を絡め取りにきた。
単独での戦闘であればギョクトの悪手。しかし、冒険者は徒党を組むものだ。
シャルセの矢が触手を破り、マンイーターは無防備にギョクトの蹴撃を受ける羽目となった。
項垂れるように茎を折ったマンイーターは沈黙したかに思えた。
ギョクトが油断せずに間合いをとれば、微かに蠢いていた触手や根っこが動きを止める。
「■■■■【決死】」
ギーネが静かに唱えれば、死の因果が決定する。死の運命に瀕したモノを即死させる神秘術だ。
「呆気なかったね。じゃあ、探索を再開しましょう。コイツがいるってことは、バロメッツも近いよ」
木を降りたシャルセの言葉に合わせて、一行は動き出す。
マンイーターの魔石を回収すれば出発だ。
バロメッツ。金羊樹とも称されるG級指定魔獣。黄金色の羊の実る樹木だ。危険性は特に無く、実る羊は蹄まで羊毛で覆われ、蟹に近い味わいのある羊肉と全身余すことなく用途のある天然資源だ。もちろん、食物連鎖においても捕食者たちの御馳走としての地位を有する。捕食者の糞として種子の伝播を図っているのだ。
薬師のエンソとしては、栄養剤の材料であるらしい。一頭分を依頼されている。
しばらく進めば、茶色い地面が殆ど剥き出しとなってくる。バロメッツたちが食い荒らした跡だ。中心地には綿毛にしか見えない果実の生った樹木があることだろう。バロメッツの本体はそれだが、一行の目的は果実の方だ。
偶に聞こえてくるメェーという鳴き声を頼りに探せばそれはすぐに見つかった。中型犬くらいの大きさだが、バロメッツはこれで成獣である。植物だが。
「可愛い」
ボソッとギーネが呟いた。
バロメッツは積極的に捕食されるため逃げることはないので、無造作に近づく。そして、あっさりと代表して拾い上げるシャルセ。
「メェー」
「はい、ごめんよ〜」
そう言いながら、シャルセがナイフでバロメッツの咽喉を切り裂いた。見た目は羊だが、果実であることを証明するように血は出ない。鳴き声は魔獣を呼び寄せるので必要な処置だ。果実にすぎないのでこれで死にはしないが、大人しいのでこのまま袋に詰めて持ち帰る。
「あとは、アルラウネだねぇ」
「そうだな。さっさと行くぞ」
目標確認するシャルセと先を急がすギョクトの声に、一行は頷いて迷宮の中層へと歩みを進める。
さてさて、遅筆の作者でありますが新作案が浮かんでしまったので年始はそちらに集中しようかなと思っております。
しかし、注意書きの方が無駄にハードルを上げたのか伸び悩む本作でありますが、大筋のだいたいは作れましたのでなんとか完結まで書き上げたく思う次第であります。
それでは皆様、良いお年を!




