表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
39/40

38.人喰いの薬草園・前編

 カロメット迷宮群、B級指定迷宮『人喰いの薬草園』。


 緑魔種の魔獣に支配された緑の楽園であり、鳥獣たちにとっての地獄の花園。


 動物たちが死体となって分解され、大地の一部となることを待つことなく、能動的に狡猾に貪欲に栄養を得ようとする食獣植物たちの狩り場。


 天然のハニートラップ(帰らずの森)


 浅層であっても油断大敵のこの迷宮で肝心なのは、対策だ。


「■■■■【風の抱擁(エア・ベール)】」


 シャルセの詠唱が神秘を顕現させる。


 風の加護が〈盾の誓い〉一行を抱擁する。


「はい、これで大抵の誘惑は大丈夫!緑魔種の呪いは、ほとんど香りに起因してるからねぇ〜」


 人類を栄養エサとする魔の森であっても明るい調子は変わらず、シャルセは呪い対策を保証する。


 緑魔種の呪い。それを知らぬ者は戦えずして死せることとなる狡猾にして残酷な毒華の香。惑わし絡め取り、その手練手管は歴史に残る悪女も霞む、非情に過ぎる効率的な生態だ。


「うん、ありがとう。それじゃあ、進もうか」


 ガラが、パーティリーダーとして号令を掛けた。


 それを受けて、〈盾の誓い〉は隊列を組む。ガラを先頭に、間にはギーネとシャルセ、殿はギョクトである。


 しばらく進むとガサガサと慌しい接近音が聞こえる。


枝魔芽インプが五体」


 ギーネが静かに知らせた。


「前に出るよ、リーダー。アイツら弓はほとんど効かないんだよね」

「あぁ、わかった。ギョクトも出てくれ」

「わかってる」


 シャルセが弓を仕舞い剣を抜きながら言った。ガラはそれを了解し、ギーネを庇える位置取りをしながらギョクトに指示を出した。ギョクトは気負わずに前に出た。


 待ち構える〈盾の誓い〉の前に飛び出る五体の小柄な猿。しかし、その姿を構成するのは、枝葉の群れだ。


 枝魔芽は、人面樹トレントの眷属とされるG級指定魔獣だ。人面樹の折れ枝から生まれ、親の手足となって栄養を集めるのだとされている。それが真実の生態かはともかく、冒険者にとって重要なのはその危険性だろう。G級指定の彼らは確かに脆弱だが、その身が枝葉の集合体であるために矢など点の攻撃は殆ど意味をなさない。また、ある程度の力を込めれば容易に折れるとはいえ、剣や槍などで薙ぎ払った場合もその身に絡め取って間隙を生もうとする厄介さがある。


 その点で、シャルセとギョクトが対処するのは相性的には悪くはないが良くもない。


 とはいえ、二人はD級冒険者と変態種族だ。一端の実力を認められた彼らからすれば、その程度の相性差は苦ではない。


 シャルセの剣は淀みなくザンバラに枝魔芽を斬り刻み、ギョクトの脚は無慈悲にその矮躯を粉砕した。


「増援なし」

「よし。って言っても俺は何もしてないか。二人とも凄かったよ」


 ギーネが追加の敵影を探り、良好な結果を告げた。それに頷くガラは出番のなかったことを恥じるように頭を掻きながら動いた仲間を褒めた。


「ふふーん♪余裕余裕!」

「まぁ、この程度なら当然だな」


 軽妙に応じるシャルセと、感慨なく呟くギョクト。別々の反応ではあるが、どちらも頼もしさを感じるものであった。


「さて、それじゃあ移動しようか。まずは、マイコニドを見つけないとな」


 ガラの仕切りに、一行は頷いて歩き出した。


 マイコニドは、別名を歩茸と言う歩く茸のような緑魔種だ。危険度指定はG級。特に害はない。本当に歩き回るだけの茸である。ただ、逃げ回るのでなかなか見つからず、他の魔獣に襲われる冒険者の徒党も珍しくない。間接的には十分に死因となり得る厄介者だ。

 そんな彼らの体は余すことなく素材となる。まぁ、茸なのだからさもありなんと言ったところか。これがなければ、追いかけ回す理由もないのだが。


「いた」


 誰の呟きだったか。一行がしばらく進めば、木陰に佇む茸の群れ。マイコニドも茸である以上は日陰を好むものらしい。


 気づかれないようできるだけ静かに素早く、慣れた様子でシャルセが前に出る。既に抜剣して剣を握っていた。


 間合いに入れば、それに気づいて蠢めくマイコニドたちであったが、一瞬遅かった。シャルセの振り抜いた剣閃が彼らの弾力性に富んだ体を打ち払ったのだ。


 軽いマイコニドたちは吹っ飛んで、そのほとんどが僅かに重い傘の方を下にして落ちている。それだけで彼らはジタバタと捥がくだけの無力な存在と化した。重心の都合上、元には戻れないのだ。


 運の良い僅かな個体だけが、我先にと逃げていく。


「うん、いっちょ上がり」

「お見事!」


 シャルセが機嫌良く笑えば、ガラが拍手しそうな勢いで讃辞の一言。迷宮内での警戒がなければ実際にそうしただろう。


 ギョクトは呆れた目を向けるが、特に何も言わず周囲の警戒に意識を傾け直した。


「ちょっと可愛い」


 ギーネは我関せずにマイコニドを見つめている。


「二人はそのまま警戒。俺とシャルセで回収しよう」


 ガラが指示を出しながら、ナイフを取り出して手近なマイコニドを持ち上げる。


 緑魔種の多くは、その体を大きく欠損させるか、魔石を破壊するまで生存し抵抗を続ける魔獣の中でもとりわけ生命力旺盛な魔獣だ。元が植物なため急所らしい急所もない。


 ただ、マイコニドは無害な魔獣である。逃亡防止に足の生えた石突を切り落として処理すれば良い。死亡するわけではないので丸一日あれば回復するらしいが、マイコニド採取が目的なら日帰りで終わるのが冒険者の常であるので問題はないのだ。

評価・ブクマのほどよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ