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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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36.決闘

 王都カロメットは、冒険者の始まりの地と謳われるだけあってそれにまつわる設備が揃っている。ギルドの裏手には、新人研修や自己鍛錬にて利用される広場があった。


 娯楽の少ない世の中だ。決闘となれば、当人たちよりもそれを聞いた周囲の者どもが我先にと準備を整える。いつの間にか、貸し切られたその広場の中央にて、ギョクトとシャルセが向かい合っていた。取り囲む酔っ払いどもに混じってガラとギーネも見守っている。


「さぁさぁ、賭けた賭けた!我らが舞姫と変態種族パーティ・クラッシャーの決闘だ!」

「ヤれヤれ、ヤっちまえ!」「負けんじゃねぇぞ!」

「全財産賭けたらぁ!」「地味だぞお前ら、着替えてこいよ!」


「うるせぇ!見せもんじゃねえぞ!」

「はぁい!アタシに賭けてね♪」


 好き勝手に囃し立てる呑兵衛たちに、立ち合う二人は真逆の対応。どちらにせよ、呑兵衛たちは下品に大笑いだ。


「はいはい、はーい!それでは皆さま静粛に!これより冒険者パーティ〈盾の誓い〉へのシャルセ様加入を賭けた決闘を開始致します。両者、準備のほどはよろしいですか?」


 審判役はギルド職員だ。手馴れた様子にこの手の仕事が頻繁であることを察せられた。


 職員の問いかけに頷く両者。戦意が沸々と湧き上がって場を呑み込む。そうなれば、自然と呑兵衛どもも口を閉じる。その目には場数をくぐり抜けた戦士たちの探るような鋭い眼光があった。


 ギョクトは今にも跳ねるように、シャルセは弓引くように細剣レイピアを構えている。

 シャルセのそれは一見すれば木剣のようであったが、その実は魔獣の硬い毛皮にも通用する逸品だ。鉄面樹メタル・トレントと呼ばれる緑魔種の魔獣を素材としている。鉄面樹は、大地から吸収した金属成分をそのまま自身の強化に用いる生態をしており、その身は鉄材のようでもあり木材のようでもある。軽量でありながら堅固なそれは、細身で重装を苦手とする霊人にとってお誂え向きのモノであった。


「決闘、はじめ!」


 職員の掛け声に合わせ、ギョクトは地面を割るかのような勢いで跳び出した。

 一足に間合いを詰めるその白影に、シャルセはしかと瞳を合わせていた。渾身の一突きが的確に放たれる。


「はっ!」


 麗しの兎人を貫くかに見えたそれはしかし、虚空に刺さっただけであった。


「ふっ!」


 呼気はシャルセの背後より。人体において最も強力な武器、脚部による攻撃が迫っていた。


 ギョクトは、貫かれる寸前、しゃがみ込んで躱し、それを溜めとしてシャルセの背後に跳んで回り込んだのだ。

 シャルセはそれを目で追えたが、既に始めた動きに急制動を掛けることはできなかった。


「■■■■【防風エア・ガード】」


 シャルセの詠唱が、魔力に事象を引き起こさせる。常人には聞き取れないその独特の発声は、神秘術ルーンにて用いられる神秘文字ルームグリフの発音だった。

 神秘文字は、文字一つ一つに複数の意味を持たせることで詠唱を高速とする魔術技法だが、正しい知識と習熟がなければ、容易に不発、暴発する諸刃の剣だ。それを種族単位で修得していることは、霊人を森の賢人と言わしめる由来の一つでもある。


 シャルセが詠唱した神秘術は、風を凝らせて盾を成した。


 ギョクトの蹴撃はその盾とぶつかり、堅めのクッションに衝突したかのように弾かれる。

 その時には既に体勢を立て直したシャルセが振り返り、鋭い一閃を放っていた。


「はっ!」「ふっ!」


 ギョクトは弾かれた勢いを利用してその場にて跳んだ。宙空に浮いた状態で、元の軸足による蹴撃を合わせた。


 ぶつかり合う細剣と健脚は、金属音を響かせる。


 ギョクトは一見すれば、武道着のような動きを阻害しない布の服を纏っているようにしか見えない。しかし、魔獣との戦いにおいて、いくら兎人の脚力とはいえ何の備えもなく力を発揮することは困難だ。

 服の下には脛を覆う脚甲を備え、靴は動きを阻害しない細かな鉄片を仕込んでいる。


 金属音を発したのは順当なところであったが、シャルセはまだ森を出て浅かったのか、森に伝わる兎人の前評判でも鵜呑みにしていたのか、僅かに驚愕の色を碧眼の双眸に浮かべてしまった。


 ギョクトは、その隙を逃すほど甘い男ではない。


 互い弾かれ合って体勢を立て直すのは僅差でギョクトが先となった。躊躇なく放たれた次手は、間断なく繰り出される蹴撃だ。


「ぐっ、ぅ!?」


 シャルセは細剣を合わせて防御を試みたが、細剣による剣術で防御はあくまで緊急手段である。本来なら素早く回避して、果敢に攻め立てる戦法を得意とするのだ。

 だが、僅かな隙を突かれ、逆にギョクトによる果敢な攻めを受ける羽目となった。


 戦法の似通った者同士の戦闘は短期に決着となるとされるのは、このように一度、崩れた後の立て直しが困難な点にあるとされる。


 かつて舞姫と謳われていたギョクトの連撃は流麗だ。一撃一撃が次に繋がり、息継ぎを挟みながらも相対するシャルセに途切れを感じさせることがない。


 神秘術に活路を見出そうにも、長々と詠唱するわけにはいかず、神秘文字は集中力が必要だ。攻撃に晒されている今、それを維持する技量はなかった。


 だが、シャルセの勝利条件は、一撃を入れること。戦闘の勝利そのものではなかった。


 シャルセの抵抗が緩む。ギョクトはそれを鋭敏に感じ取り、動きを封じ込めることからトドメを刺すことに切り替える。


「ふっ!!」


 呼気とともに放たれた蹴撃は、まるで槍の如く真っ直ぐだった。兎人の脚力は余すことなく、痩身の霊人の腹部に突き刺さった。


 衝撃に突き飛ばされるシャルセはしかし、苦痛に歪む顔を笑みに変える。


「■■【蛇促の牙(スネーク・ファング)】!」


 神秘文字による短い詠唱が、魔力を事象に変える。


 シャルセの握る細剣が、伸びる。


 ギョクトは大振りの蹴撃の直後、その隙を狙われた。そして、その伸長速度は、ギョクトに立て直す時間を与えなかった。


「ちっ!」


 恰も細長い蛇のようになった細剣の鋒、その牙はギョクトの肩に浅く突き立った。


「勝者シャルセ!」


 職員の勝ち名乗りを聞いて、シャルセは意識を失った。


 生きた矢筒ならともかく、既に死んでいる木剣の伸長はそれなりの魔力を消耗する。それまでの疲労も合わせて限界だったのだ。

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