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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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33.新進気鋭

「正面に落とし穴。角での待ち伏せ、ゴブリン三匹」

「了解」


 二人が並んでゆくには狭い洞窟通路。そこを進むのは新進気鋭の冒険者パーティ〈盾の誓い〉だ。


 守手のガラを先頭に、導手のギーネ、攻手のギョクトの順に進んでいる。


 ギーネの占術【透視(クリアボヤンス)】が告げる罠を把握して、ガラは落とし穴を避けるように通路の端を進む。伏兵を誘き出すのに【魔咆(ウォークライ)】は使えない。閉鎖空間である洞窟内だ。反響によって余計な敵までも続々と集まってくるだろう。


「穴は越えた」


 ギーネの言葉を聞いて、ガラは通路中央に身体を戻す。体勢を整えて振り返り、仲間たちと頷き合った。


 大盾を振って強く岩壁を打つ。当然、それなりの衝突音が響き、愚かな伏兵を炙り出す。


「「「グギャッ!?」」」


 角から飛び出したゴブリンに向かって、ガラは静かに突進した。


「せぁ!」


 掛け声も控えめに、構える大盾とゴブリンが激突する。


「ゲギャ?」「ギャギャガ!」


 ガラからすれば運悪く、激突したゴブリンは残りの二匹を巻き込むことなく吹っ飛んだ。残った二匹は戸惑いも一瞬、ガラに襲い掛かった。


 慌てることなくガラは連携も何もない滅多打ちを大盾にて防ぐ。


 その背後より迫る気配。ギョクトがその脚力をもって壁を走り進んでいたのだ。

 ガラの元に迫れば、さらに駆け上がり天井に足を着く。流石に、重力を無視することはできないが、間髪入れずに蹴り出した。


「はっ!」


 勢いの載った蹴撃に狙われたゴブリンはそもそも気づかない。ガラばかりを注視していた。


 ギョクトの蹴撃はそんなゴブリンの首を折る。最後残ったゴブリンが驚愕に顔を染め、着地したギョクトは憐れな小鬼に華麗な動作で繋ぐ回し蹴りを放った。


「ギャ、ペ!?」


 回避も防御も間に合わず、ゴブリンの矮躯は岩壁に叩きつけられ真っ赤な華を咲かせた。


「最初の一匹は気絶してるだけ」


 ギーネの言葉に、ギョクトが跳ねる。ガラが突き飛ばしたゴブリンの首を正確に踏み抜いた。


「一先ず、大丈夫」


 その言葉にガラが姿勢を楽にする。振り返れば、いつの間にかギーネも落とし穴を越えていた。


「上手くいった、かな?」

「油断は禁物。占術は絶対じゃない」

「そうだな。だが、結果は上上だろう」


 ガラの確認に、ギーネは臆病に、ギョクトは結果論で答えた。


 〈盾の誓い〉を発足した一行は、早速とばかりに活動を開始した。

 冒険者の活動。それすなわち、迷宮探索である。


 ここはカロメット迷宮群の一つ。D級指定迷宮『小鬼の洞穴』。


 その名の通り、ゴブリンとその派生種ばかりが出現する洞窟だ。カロメットにおける迷宮攻略の入門的実戦の場としてギルドに管理されている。

 ガラたちは発足したばかりの冒険者パーティだ。ギルドからの勧めに特に反感も無く、この迷宮での連携の慣らしを行いに来ていた。


「魔力分解されたか」

「やっぱり、妖鬼種は早い」

「それでも、解体した方が早いだろ。せめて助手(サポーター)が必要じゃないか?」


 言いながら、ギョクトが濁った硝子のような石を拾い上げた。魔石だ。先ほどまで確かにあったゴブリンの死体が消えて、それが無造作に三つ転がっていた。


 魔力分解は、迷宮にて放置された魔獣の死体が霧散する現象のことだ。

 迷宮に棲む魔獣は、そこに充満する魔力で充分に生きていける。そのため、その体は魔力で構成されているのだ。結果、迷宮の魔獣は死ぬと魔力の結合が維持できなくなり、迷宮の魔力流に溶けるようにしてその体を霧散させる。これが魔力分解だ。特に、ゴブリンをはじめとした妖鬼種は元となる動植物がいないため、はじめから魔力のみで肉体が構成されているらしく、その起こりが早かった。

 もちろん、ほとんどの魔獣は動植物が魔力に影響を受けて変化したモノ。中には、物質的な肉体を残すこともあるし、魔力密度が高い部位があれば最初の魔力分解に取り残されることもある。その代表例が魔石である。


 魔力塊である魔石はなにかと有用で、冒険者の収入源の第二位とされている。なお、第一位は依頼報酬である。


「しかし、雇うにはお金がないし」

「仲間にするにはお互いに実力が足りない」

「結局、魔力分解を待つのが最適解か」


 ガラたちは別に解体を嫌がっているわけではない。ガラとギョクトは先達に教わっており、ギーネは刃物の扱いが壊滅的なだけである。


 そうなると、ガラかギョクトの一方が解体を行えば良いのが一見したところではある。

 しかし、解体中は周囲の警戒が必要である。ギーネの占術で事足りるかもしれないが、二重三重に警戒しておいて損はない。それに万が一に対処するならば、肉弾戦に難のあるギーネではなく、ガラとギョクトがすぐさまに動けるべきだ。挟み討ちなどを考慮すれば、二人ともが構えていなくてはいけない。


 この穴を埋めるのが助手という役割ロールである。解体をはじめ、荷物持ちや野営技術など、本来ならば仲間内で割り振らなければいけないが、得意不得意によりできてしまった穴を埋めてくれる冒険者だ。

 ただし、助手の多くは一つの徒党パーティに専属となることはない。彼らの多くが戦闘能力に難を抱えているからだ。自己防衛、少なくとも単独となっても逃走を図ることができる危険度指定をされた迷宮までしか行けない。それでは、上を目指す冒険者パーティに長く留まることはできないのだ。


 それでも練達の助手であれば、雇い入れるのには相当な報酬が必要である。だが、若い助手は自己防衛も、穴埋めする技術も拙い。技術は目を瞑るとしても、自己防衛はできてもらわなければ困る。何度も雇い入れた助手を失えば、その徒党は信頼を失うのだ。よって、若い助手というのは、新人育成が趣味となった古株ロートルにほぼ慈善的に連れ回されていることがほとんどだ。


「それを考えるのは後だ。もう少し奥に行くぞ」

「うん」

「それもそうだな」


 深く考え込みそうになる流れを、ガラが切った。


 油断大敵の迷宮の中だ。その判断は間違っていない。有望な冒険者パーティは警戒しながらも奥へ奥へと進んでいった。

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