29.再出発
二話目!
「俺は、お前についていく」
その言葉を発したギョクト以外の面々が驚愕した。
「なんで?!」「なして!?」
鳥人双子が、ギョクトを取り囲んで疑問の嵐を叩き込む。
それを見つめながら、ゴンズは察する。
「復讐か?」
「違う。ただ強くなる理由ができただけだ」
即答。その否定は食い気味で、少し嘘っぽく見えた。
だが、ゴンズは笑みを浮かべた。
「そうか、ならいい。だが、舞姫が引退するんじゃ一座は解散だな。俺は故郷に帰るよ」
「「ゴンズまで!」」
「笑顔の輪!」「平和の祈り!」
「「座長の想いはどうするのさ!?」」
最後まで渋ったのは、鳥人双子だ。
「レンレン、レイレイ。また、新しく一座をつくればいい。俺は引退するなんて言ってねぇぞ。故郷に帰るのは、座長を送り届けるためだ。その後は、またメンバー探しから始めればいい」
ゴンズの言葉に、鳥人双子はきょとんと呆然。顔を見合わせてから、ゴンズを取り囲んだ。
「「なんだ、早く言ってよ、ゴンズ!それなら僕らは君について行くよ!」」
それぞれの行く道は分かれて交わり、それでも同じ時の流れの中で続いていく。
「改めてよろしくな、ギョクト」
「あぁ、よろしく」
ガラとギョクトは拳を突き合わせた。
……
それぞれの道行を決めた日より数日のこと。ゴンズらは既に旅立ち見送った後である。
ガラとギョクトは生活のために幾つかの依頼を受け達成したものの、本格的な活動を始めてはいなかった。
その理由は、仲間の勧誘に難儀しているからだった。
ガラとギョクトが担う役割は、守手と攻手。魔獣との戦闘において中心となる役割である。しかし、それだけで攻略できるほど迷宮は甘くない。
ギルドの推奨する徒党の構成において、導手と癒手が不足している。癒手は魔法薬で代替するとしても、導手の技術は道具で代替することも技術を身につけることも一朝一夕では叶わないのだ。
幸い、ガラには導手の心当たりがあった。
『猛獣の森』門前集落にて予言の警告を残した女占術師だ。
「あの女を?……まぁ、確かに才能はあるんだろうが」
最初、ガラがギョクトにそれを提案したときの反応だ。大事な人の死を予言したと言える女占術師への複雑な感情が多分に含まれている。
占術師はとても珍しい職種である。まず占術を身につけるのには圧倒的な才能が必須だった。正確には、目に見えて役に立つほどの占術における話だが、冒険者の活動において怪しげなまじないに頼っていればいつ死んでもおかしくはない。少なくとも、冒険者として活動する占術師は、ただそれだけで才能に溢れた人物だ。本来ならば、冒険者ではなく王侯貴族や豪商などの上流階級、未来を気にする余裕のある人々に抱えられ、優雅な生活を過ごすことができる。そして、そのような才能を持って生まれる者など十年に一人も生まれれば良い方で、百年に一人も生まれない時代があるほどの希少性なのだ。冒険者としての占術師などもはや幻の存在と言っても過言ではなかった。
その点から言えば、予言を受けたとき女占術師を嘲るような様子だったギョクトにも納得のいくものがあるだろう。常識に照らせば、占術師というのは詐欺師と大差ない人物である可能性の方が遥かに高い。
ただ、今回はたまたま当たりを引いてしまったのだ。予言としてか、占術師としてか、それはまだ分からない。だが、ガラとギョクトは占術師としての当たりなのだと考えていた。
『狂えるオルランド』の実力は生半可なものではなかった。堕罪魔人となるほどのその狂気は、魔力に強い影響を与えて、並大抵の魔術の類は弾いてしまう。それは占術とて例外ではない。
仮に才能のない者が占ったのなら、狂人の齎すありとあらゆる事象を予言することはできなかったはずだからだ。
結局、ギョクトは複雑な感情を抱えながらもガラの提案を否定することはなかった。それを消極的な了承と捉え、ガラは早速、勧誘に動いたのである。
まず実行したのは、ギルドを通した接触である。
ガラたちは女占術師のことを何も知らなかったが、幸いにも占術師というこれ以上ない特徴を備えた人物である。ギルドはすぐに該当する冒険者を特定したが、ガラたちの勧誘打診が伝達されることはなかった。彼女がギルドに現れなかったためだ。
次なる策は、地道な情報収集しかない。
王都の酒場を渡り歩いて、同業たちから話を聞いた。
だが出てくる話はどれも面白おかしく語られる噂話ばかり。彼女の居所あるいは既にこの都市から離れたのかといった情報を手に入れることはできなかった。
未だ低位冒険者でしかないガラたちにこれ以上の策はない。手詰まりな状況に鬱屈とした思いを抱えながらも、ガラは彼女の勧誘を諦められないでいた。
「そろそろ諦めたらどうだ。ギルドから俺たちに合ったヤツを紹介してもらおうぜ」
「駄目だ。まだまだ諦めないぞ!あの子の力は絶対に必要なんだ!」
「根拠は?」
「勘だ!」
情報収集していく中で気に入った酒場の一角で、二人は夕飯を食べていた。程良く酒に酔ったガラが、やや大袈裟にギョクトの説得を否定している。
ギョクトはそれに機嫌を悪くすることはなく、やみつき人参スティックを摘んで口に運ぶ。ポリッと小気味良い咀嚼音が甘味とは別の楽しみを与えてくれた。




