2.辺境の町ライオネル
辺境の村カーボネックより続く唯一の街道。そこを半日も歩けば見えてくるのが、辺境の町ライオネル。
町と言っても、村よりは規模の大きい、最低限の行政機能を果たすことはできる程度の田舎町だ。
とはいえ、今までの人生をカーボネックで過ごしたガラからすれば、都会である。
堀もない最低限の高さの石壁、村では見ることのない二階建築、活気溢れる市場などなど、そこに住む者からすれば大したことのない事柄に、感動できるだけの純朴さが彼にはあった。お上りさんである。
さて、浮かれ調子であったガラもようやく落ち着き、一先ず今夜の宿を探した。
今朝に村を立ち、半日かけて町に到着したわけだが、もう日暮れも間近。ここが田舎町でなければ、宿に空きを見つけるのは困難であっただろう。
幸い、田舎町を訪れる者などほとんどおらず、路銀に見合った安宿をすぐに見つけることに成功した。
翌朝。粗末なベッドで固まった身体をほぐしつつ、ガラはゆっくりと目を覚ました。
質素な朝食を摂って、申し訳程度の身支度を済ましたならば、意気揚々と外へ出る。
安宿の女将から目的地の場所はしっかりと聞いており、ガラは迷うことなくそこへと辿り着いた。
田舎町ではポツポツとしかない二階建築の一つ。その中でも一際大きいその建物は、剣と盾の図柄を看板としていた。
出入りが激しいためか、区切りとしての意味しかないであろう小さなスイングドアを、ガラは錆びついた音を鳴らしながら押し開く。
中は外観通りに広く、正面に見えるのは受付カウンター。左手に木板の掲示板。右手に酒場が併設されていた。
「何だ、坊主?」
受付には人はおらず、酒場の席に一人、中年の男が朝っぱらから酒を飲んでいた。その男が、ガラを見て気怠げに尋ねてきた。
「冒険者になりにきたんだ!」
「あぁ、はいはい、冒険者志望ね。そんなに叫ばなくても聞こえるっつうの。チッ、しかし仕事か、メンドーな」
男は悪態を吐きながら席を立ち、受付に回った。
「突っ立てないで早くこっち来いよ、坊主」
男の様子に呆気にとられていたガラは、呼ばれたことで我に返って若干、急ぎ足で受付に向かった。
「おっさんがここの職員なのか?」
「そうだよ。何だ?可愛い受付嬢でも想像してたか、坊主」
ガラが疑問を問えば、男はあっさりと答え、揶揄いまじりに問い掛け返した。それに首肯で応えれば、男は大声で笑い始めた。
「くはははは!!まぁ、都会のギルドに行けば、実際、そうなんだがよぉ。こんな田舎じゃ、俺みたいな落ちぶれが一人で仕切ってるもんなのさ」
「そうなのか」
「そうそう、んじゃ、さっさと登録すんぞ。名前と出身地、種族に年齢、あとはねぇな。はい、さっさと答える」
落ち着いた男が手続きを開始し、ガラもそれに従う。
「名前はガラ、出身はカーボネック、種族は人族、年齢は十五歳」
「はいはい、よしっと。んじゃ、打刻機にセットしてと」
ガラから必要な事項を聞いた男は、受付に備え付けられた魔道具を操作する。すると、ほんの数秒で箱型の魔道具から掌大の鉄板が飛び出した。
「ほらよ、これがギルドカードだ。無くすんじゃねぇぞー」
鉄板を渡されたガラは、即座にそれを眺める。
鉄板には、先程の情報とFランクの文字が刻まれていた。
あっさりとした手続きであったが、それを見た瞬間、ガラの中にじわじわと実感が伴い始める。
「歓迎するぜ、新人くん。ようこそ、冒険者ギルドへ!なんてな、くはははは!!」
目を輝かせる若者に、中年の男は歓迎の言葉を掛けてやった。自分には眩し過ぎるとばかりに茶化しながら。
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