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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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28.弔い

本日三話更新!一話目!

 牙は折れ、爪は欠け、毛皮はところどころ抉れている。


 最早、踏ん張っていることすら不思議な程に、ロウラクは満身創痍だった。


 シルクハットは既に主の頭を離れ、木の枝の一本に引っ掛かっている。


 咥えるステッキだけが、まだ無事だった。


 一方の狂人は無傷。なれど、その視線はロウラクに向いていた。ようやく、敵を認めたか、それともゴンズたちの気配が遠くなったからか。


 この場には、理性も知性もない。狂気に染まる魔人は元より、優しき獣人も既に戻れないところまで獣性を引き出している。


 それでも、彼らは静かだった。


 狂人にとっては最初の、人獣にとっては最期の激突になるであろうから。


 睨み合い、睨み合い。


 一陣の風が吹く。梢を揺らし、葉音が響く。


 シルクハットが、パサッと落ちた。


 それが合図となった。


 両者、踏み出し、瞬く間に交差した。


 余りの速さに、激突音が遅れて響いたほどである。


 負けたのは当然、ロウラクだ。


 余りに鋭い太刀筋が、斬られた事実の認識を遅らせる。


 あまりにもゆっくりと、断たれた首が地に落ちた。


 ただ、捨て身の一撃は、狂人に届いていた。


 最初は、罅だ。


 硬質化した皮膚だとされる狂人の面貌鎧に亀裂が入る。


 ゆっくりじっくりと、口元の半分ほどだけが小さく割れた。


 覗く口元は驚くほど若かった。そして、ゆっくりとあまりにも優しげな笑みを浮かべる。


「ぁ……とぅ」


 聞く者のいない小さな呟き。それはお礼に聞こえた。


 軋むようにぎこちなく、狂人は王都に背を向ける。


 ドッと地面を震わせて、強さを追い求めた魔人は去っていった。




 ……




 ガラが目を覚ましたのは、寝具の上であった。王都にて利用した宿のものではなく、見覚えのない場所である。


「起きたか」


 側で声を上げるのはハクトであった。


 その美しき顔貌を見た瞬間、ガラの脳裏に意識を失う直後の記憶が稲妻のように駆け巡る。


「すまない……いや、ありがとう」

「……わかってるならいい。どうやら頭も冷えたようだな」


 守れなかったことへの謝罪と、ロウラクの想いを無駄にしなくてすんだことへの感謝。ガラの発言に含まれるその意味合いをしっかりと汲み取ってハクトは、できるだけ淡々と応えた。


「ここは?」

「ギルドの仮眠室だ。ここはもう王都の中ってわけだ」

「みんなは?」

「耳を澄ませりゃわかる」


 ハクトの言葉に、ガラは聴覚を意識する。


 すると、微かだがなんとも騒々しい虚しい音楽が響いていた。


「弔いか」

「あぁ、鳥人流のな。座長には似合いのやり方だ。起きたなら、行くぞ。笑って送り出すんだ」

「わかった」


 ハクトが立ち上がって促せば、未だ仰向けに寝ていたガラも寝具から立ち上がる。


 年季の入った木の扉を開けば、どんちゃん騒ぎの大音が飛び込んだ。


「「ガラ!」」


 それを目敏く気づくのは鳥人双子。


「さぁ、歌おう!」「さぁ、飲もう!」

「「僕らの団長!勇猛なる狼人紳士!世界に笑顔の溢れる姿を求めた男に捧げよう!僕らの笑顔!」」


「あぁ!そうだな!」


 張り上げる声はどこか空虚に、なれど誰もそれを指摘する無粋な真似はしなかった。


 実のところ、弔いの宴は三日三晩続いていた。ガラが目を覚ましたのはその三日目のことである。




 ……




 それから、東区支部長グリックが新たに指名したパーティが改めて猛獣の森へと入った。


 既に魔人の姿はなく、ただ激戦の後が色濃く残るだけだったという。


 ロウラクの死体は、その場そのものを警戒したのだろう魔獣たちに食い荒らされることもなく、比較的良好な状態であった。しかし、その姿は酷使した【獣装】によって大狼のままであったため、側に散らばったステッキの破片と、シルクハットがなければ判別は困難であっただろう。


 本来なら、その場で火葬してしまうのが冒険者の慣いであるが、『放蕩一座』とそれなりに親しくしていた指名パーティは、ロウラクの頭部と形を保つシルクハットを持ち帰りゴンズたちへと届けてくれた。


 結局、それを受け取った瞬間、鳥人双子は声を上げて泣きじゃくった。それを宥める牛人とてその表情は泣き笑いだ。兎人は空を仰いで表情を見せなかったが鼻を啜る音がする。黒髪の少年は下を向いて涙を流し、その拳は堅く握り締められていた。


 ギルドの酒場、その一角。


 遺品を受け取り大泣きした翌日のことである。


 ゴンズたちは顔を突き合わせて『放蕩一座』の今後を話し合っていた。


「俺に司会は無理だぞ」

「やっぱり座長じゃないと」「やっぱり座長だよね」


 彼らの本職は旅芸人。その興行をどうするかがやはりいの一番にくる議題であった。特にゴンズは片腕を負傷している。包帯を巻かれ、布によって首からぶら下がっているのが痛々しい。呪歌によって傷は塞いだものの、専門の医療魔術(ヒーラー・マジック)には劣る。著しく神経を傷つけているため、健常な頃のように動かすことは不可能だろう。


「ガラ、お前はどうするんだ?」


 尋ねたのはギョクトだった。


 やめたくない、だが、座長のように上手くやれるとは思えない堂々巡りの話し合い。旅芸人ではないガラへの気遣いか、はたまた話し合いへ投じる一石の波紋としてか。


 おかしな発言ではないものの、僅かばかりギョクトがそれを言い出したことに違和感があった。ゴンズたちは口を止めてギョクトを見つめた。


「俺は……冒険者を続ける。それが俺の夢だから」


 僅かの間の後、ガラが答えた。それを聞いて僅か瞑目したギョクトが、違和感の正体になるであろう言葉を紡ぐ。


「俺は、お前についていく」

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