24.狂異
「ラ〜」「ル〜」
双子鳥人はそれぞれに別々の歌を唄いながら、見事にそれを調和させる。
迷宮という危険地帯で奏でられるその旋律は、勿論、ただの歌ではない。神秘術に最も近いとされる魔闘術、音楽に魔力を乗せる【魔奏】と呼ばれる魔術だ。
双子の奏でる呪歌は、味方を高揚させ、敵方を低迷させる。
その闘志に明確な差がつけば、戦いの決着は直ぐのこと。
ロウラクの棒術が的確に急所を砕き、ギョクトの蹴撃が脳天をかち割った。仲間の数を減らす様に気を持ち直す魔獣もあったが、ゴンズとガラの城壁が如き守勢を抜けることができたモノはいなかった。
「終わりか」
「そのようだな」
ロウラクとゴンズが、戦闘の終了を確認し合う。
辺りに散らばる群れた魔獣の屍は、様々な姿をしている。
一角兎アルミラージ、双角獣バイコーン、兜割栗鼠ヘルムブレイカー、大猪ホグジラなどなど。本来なら群れるはずのない異種の魔獣である。
「どれも低位だな」
「やっぱり魔族かな?」「やっぱり魔族だよ」
ギョクトの感想の通り、ここにある魔獣はどれも最高でも危険度指定Cの低位魔獣だ。猛獣の森に棲息し、通常の個体よりは厄介であるが、この迷宮に多く棲息する魔獣たちよりも一歩劣る。
事前の情報の通り、これを魔群暴走あるいは魔軍侵攻の予兆と捉えることもできなくはなかった。
異種が群れをつくる様は統率者の存在を匂わせ、高位の魔獣が姿を見せないことは戦力の温存のようにも思わせる。
「なんか怯えてなかったか?」
ただ、ガラは奇妙な感想を抱いていた。
「確かに、逃げているようにも感ぜられた。まるで何かに追い立てられているかのような様子での遭遇であった」
その言葉に、ロウラクが肯定する。
暴走にせよ、侵攻にせよ、魔獣が怯えるような理由はない。何か別の原因を考えねばならない要素であった。
「何かあるのは間違いない。警戒を怠るな。予言もあったことだしな」
ロウラクの改めての言葉に、一行は素直に頷いた。
そして、また奥地へ向かって歩き出した。
……
猛獣の森の迷宮主は、よく代替わりすることで知られている。
魔獣たちの日々の縄張り争いによって入れ替わり立ち替わり、安定することは滅多にない。
しかし、折悪くギルドからの情報によれば、現在の迷宮主は年を跨ぐほど長期に渡り君臨していた。
混獣キマイラ。獅子の頭と胴、山羊の頭と四肢をして、蛇の頭を尾とする怪物だ。通常個体はC級魔獣に過ぎないが、君臨していたのは竜頭混獣ドラコ・キマイラ。さらに、竜の頭を得た恐るべきB級魔獣だ。
もっと長く生きれば幻獣の領域に至るだろう厄災であった。
「ギュアアア!?」
そんな強大な魔獣は悲痛な絶叫を上げていた。
既に蛇の尾は断ち切られ、山羊は角を折り、獅子は鬣をざんばらに散らされている。
唯一、無事であった竜頭は、今まさに眼窩の一つを深く抉られた。
「ゴォ……」
唸りとともに灯る魔力光は、竜頭の口内よりのものだ。
【竜の息吹】と呼ばれる竜種の代表的にして最も破壊的な攻撃手段がある。ドラコ・キマイラの竜頭はあくまでも似姿に過ぎないため、それそのものを放つことはできない。だが、模していることは魔力的に重要なことだ。
少々発展している程度の町ならば、一撃で瓦礫の山と化せるだろう炎雷の咆哮をドラコ・キマイラは放つことができる。
ただ、相手が悪かった。
「Aaaaadoooooo!!」
奇妙に反響した絶叫とともに敵が、ドラコ・キマイラの竜頭を下からかち上げる。
「ブグゥ!?」
タイミングも絶妙だ。咆哮は怪物の咥内で暴発し、己を深く破壊するだけに終わる。
勿論、自身の放つ代物だ。魔力的な力でもあるそれが、ドラコ・キマイラを死に至らしめることはない。
だが、大きな隙にはなる。
「Aaaaaa!!」
敵はまたしても絶叫とともに襲いくる。今度は大上段からの振り下ろしだ。
僅かな気力でドラコ・キマイラの山羊頭が敵を視認する。死闘に滾る悦楽と死神の誘う恐怖とが混在したその瞳に映ったのは、禍々しい漆黒と惨たらしい鋭角にデザインされた全身鎧だった。
その手に握られるのは、鎧とは対照的な清廉なる青の大剣だ。
遂に、睨む以外の抵抗もできず、ドラコ・キマイラの竜頭が斬り落とされた。
「ギャアアア!?」
「Aaaadooooo!!」
息継ぐ間もなく、鎧の狂人は大剣を振るう。
山羊頭を落とされて、身体は滅多斬りに、獅子頭は判別不能なほどにぐちゃぐちゃに斬り抉られた。
「Aaaaaaaa!!!!」
屍の上で絶叫する狂人。その周辺にはアーミーウルフやリハーサルモンキー、ギガントグリズリーをはじめとした猛獣の森が誇るB級魔獣の屍山血河が広がっていた。




