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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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22.調査依頼

 冒険者ギルド、カロメット東区支部、応接室。


「着いて早々にすまないな。宿の方はこちらでいつもの場所を確保しておく」

「それは構わないが、俺たちを頼るような案件なのか?」


 眼鏡の似合う緑髪の男、改め、カロメット東区支部支部長グリックの求めに応じ、応接室で『放蕩一座』の一行は彼と対面して座っていた。


「いやいや、君たちほど信頼の置ける冒険者はなかなかいない。実力と人格は反比例することが世の常だからな」

「相変わらずだな。それで依頼の内容は?」


 ロウラクはやや厭世的なグリックの発言をいつものことと流して話を促す。


「ああ、ことは慎重に慎重を重ねなければならなくてな。まずは新メンバーを紹介してもらっても構わないか?」


 だが、グリックはそう言ってガラに視線を向けた。


「ああ、わかった。この少年はガラだ。ソーンウォールで拾った。ライオネル支部の推薦でな」

「おや、あそこの支部が推薦を?珍しいこともあるものだ。それだけで充分だ。さて、本題に移ろうか」


 ロウラクがガラを紹介すれば、グリックはあっさりと信頼した。その理由は、別の支部のギルドの推薦があることだった。推薦は、それを為した支部の長の査定にも関わる事由である。推薦した者が問題を起こせば、罷免される可能性もある非常に責任ある権限なのだ。


「実は、王都周辺の迷宮群において魔獣の減少が確認されているのだ」

「……魔群暴走(スタンピード)の予兆、『引き潮』だと言うのか?」

「それならまだ良かったのだがな。未確定ながら魔族と思わしき存在が見え隠れするのだ」

「では、魔軍侵攻(コンクエスト)の可能性もあるのか」


 グリックの語る情報に、場は沈痛な空気に包まれる。


 魔群暴走や魔軍侵攻とは概ねは同じ事象である。迷宮内の魔獣たちの大移動。どちらにせよ、都市存亡の懸かった災害だ。


 ただ、魔群暴走がただの移動であるのに対して、魔軍侵攻は魔族による統率のとれた侵略行為だ。その理由は、人類は魔力特異点たる迷宮を除くと最も優れた魔力源だからだ。家畜化するか、食い尽くすかは率いる魔族次第だが、彼らは明確に人類を標的として知恵をもって襲ってくる。その脅威は、魔群暴走の数十倍とされるほどだ。


 そして、その原因たる魔族とは、人類に比肩する知能を獲得した魔物を指す。有名なところで言えば、妖鬼種たちのロード級、負の生命として新生した不死者アンデッド、最強生物として君臨する真竜ドラゴン、かつてヒトが空想した怪物の似姿をもつ幻獣ガイーシャ。いずれもその知能以上に厄介な力を有する存在だ。多くの人類にとって抗う術のない生きた災害たちなのだ。


 アルシオン王国の王都カロメットは、冒険者たちの始まりの地だ。多くの冒険者が集い、そして、更なる躍進を目指して旅立つ地なのだ。

 その発展に反して、戦力は心許ない。高位の冒険者になるほど、『冒険王』の残した言葉に従って魔宮のある地へと旅立ってゆく。アルシオン王家も富や名声を求める者を騎士として迎え入れることで戦力を確保してはいるが、強さを主目的としない彼らはどこまでいっても普通の強さでしかなかった。


 そんな王都に迫る災害の影に、軽々しく乗り越えられると考えることなどできはしない。


「守るんだ。それがどんなに困難なことだったとしても!」


 沈黙の帳を破る独白のような宣言は、ガラの口から放たれた。


 胸に抱く誓いは、少年の心を支配する呪いにも等しいものだった。それは最早、本能の一部のように衝動的な意志となっている。


 若者の熱き言葉に、その場の誰もが驚愕し決意を固めるなかで、ロウラクは少年の顔貌を見つめていた。


 強くなるためには超えるべき壁がある。少年の志はそれを強く後押しするだろう。だが、現実は非情である。実力に見合わぬ挑戦は、勇気ではなく蛮勇だ。


 時として諦めなければならない。それがどんなに苦しいことだったとしても。


 だが、今はそれを伝えるべき時ではない。ロウラクはゆっくりと無鉄砲な若者から視線を外す。その若者の大成を願いながら。


「はは、いやはや何とも。気持ちの良い若者じゃないか。そうその通りだ。世がどれほど苦難に溢れようと我々(ヒト)はそれを乗り越えていかなくてはならない。何故なら我々は生きているからだ。我々が正しいからじゃない、善き存在だからでもない。意味などない。だが、生きていなければ価値をつくることもできないのだ」


 グリックが笑声を響かせる。若い熱意はいつだって思慮に欠ける。それでもそれこそが真理だったりするものだ。


「あぁ、そうだな。嘆き悲しむのは後だ。な、座長?」


 ゴンズが続いて肯定し、ロウラクへと同意を求めた。それに応えるロウラクは芝居がかって立ち上がる。


「そうだとも!我ら『放蕩一座』は常に人々の笑顔を絶やさぬためにあるのだから!」


 囃し立てるは鳥人双子の口笛だった。

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