1.旅立ち
あれから三年。ガラは十五歳になっていた。
「ふっ!せい!やぁ!」
その手に握られるのは、艶のある漆黒の大盾。ベティより譲り受けた品だ。
小柄なガラの体格を隠して余りあるそれを、軽々と振り回す。それは正に、弛まぬ努力の証。あの時から、ガラが直向きに鍛錬を積んでいたことを示していた。
「朝食ができましたよ、ガラ!」
「はい、シスター!今、行きます!」
孤児であるガラが世話になっている教会のシスターの呼び掛け。
ガラは鍛錬を止めて、教会へと向かって行った。
……
カーボネックの教会、食堂。
ガラとシスターが机を挟んで対面に座して、黒パンとスープの質素な朝食を摂っている。
今、教会に住んでいるのは、この二人のみ。教会は世界に広がる一大組織ゆえに、それなりの広さを持つ食堂は伽藍として淋しげだ。
だが、これは喜ばしいことだ。ここ数年、孤児となる者が村に現れなかったということだからだ。
それでも、シスターとて人の身。特に今日は、より一層の淋しさを感じていた。自身を除けば、唯一の住人であるガラの旅立ちの日であるからだ。
自然、今朝の食事は静かにゆったりとしたものとなっていた。
「ご馳走様でした」「お粗末様でした」
いつも通りに、食後の挨拶をした。二人で食器の片付けをして、また椅子に落ち着く。
「シスター、やっぱり俺……」
「ガラ。私は大丈夫です。あなたは、あなたのしたいことをなさい。さぁ、行きましょう。村の外まで見送りますよ」
「はい、シスター!俺、頑張るよ。この村まで俺の活躍が届くくらい!」
ガラが不安と気遣いでやっぱり残ると言い出しそうになったのを遮って、シスターは彼の出発を促した。それを受けて、ガラも決心する。
村を出て冒険者になるのだ。辺境にまで噂の届く凄い冒険者に。そうすれば、シスターの淋しさを和らげることになるはずだ、と。
……
カーボネックの門。
申し訳程度の木柵の囲い、そこに設けられた粗末な門に村の人々が集っていた。
皆、ガラの旅立ちを見送りに来たのだ。
村人らしい粗末な服に身を包み、最低限の必需品のみが入った背負い袋。村への貢献で得た僅かな路銀。そして、大切な盾。
それが今のガラの全てだ。
「頑張ってこいよ!」「野垂れ死ぬなよ!」「無理だと思ったら、いつでも帰っといで!」
路銀のためにせっせと働いたガラを慕う者は多い。温かな言葉がいくつも投げ掛けられた。
「行ってくる!」
ガラが大きく手を振りながら走ってゆく。
シスターの瞳には、涙が溢れていた。
「いってらっしゃい、ガラ」
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