17.花の町ソーンウォール
翌朝。結局、ガラはソーンウォールからやって来た冒険者たちと洋燈を囲んで夜通し喋り倒した。
その話題の多くはガラが提供する迷宮攻略についてだ。彼らの仕事でもあるその話題は、大いに盛り上がった。時折、彼らも知るところであるらしいライオネルの職員の男やハントの話題に逸れつつもなんとか終わりまで話し切った。
その頃にはすっかり打ち解けあった様子であったが、何分、野営地での出来事である。
朝日照らす前の僅かな時間を仮眠に充て、それぞれの旅を再開しようと支度を整える。
「じゃあな、ガラ。ソーンウォールに行ったら、ちょうど今、旅芸人の一座が来てるから見てみると良い」
「ありがとな、おっさん。ハントさんたちによろしく」
そのようなやり取りで互いにあっさりと自分達の目的地へと向かって行った。
……
ガラの短い旅路は順調に進み、予定通りにソーンウォールに辿り着いた。
ライオネルよりも一回りほど発展したこの町は、華麗なる薔薇園で有名な花の町だ。
町を守る城壁にさえ蔓蔦植物が絡みつき鮮やかに彩っている。
町を行く人々もどこか華々しい者たちばかり。
この国では珍しい獣人の姿もちらほらと、頭には獣耳、臀部からは尻尾が生えている。
ガラは物珍しさにきょろきょろと視線を彷徨わせる。いつしか門兵に教えてもらったギルドへの道を外れ、楽しげな音楽の響く通りへと足を向けていた。
音楽の出元は、鳥人の歌声と演奏だ。
鳥人は空を飛ぶことはできないが、腕に羽を生やした獣人で、種族全体として音楽的才能に優れている者たちだ。彼らの陽気で愉快な気質をそのままに反映された音楽は、人々を元気一杯に楽しませるのだ。
「おぉ!」
人の群れの囲いを抜けてガラが感嘆したのは、その音楽に合わせて舞い踊る兎人の姿であった。
優美にして躍動感溢れるその舞踊は、演武のようにも見える。
それを為す兎人は、光に溶けしまいそうな程に純白の髪と肌をして、瞳だけは生命の躍動を示すかのように赤く輝いていた。
ヒラヒラと揺れる踊り子衣装のよく似合う中性的美貌とその儚い色合いが、その兎人を最高の舞姫に仕立て上げている。
兎人の微笑に、ガラの頬は上気して赤く染まった。
「綺麗だ……」
そのまま、舞踊の終わる時まで、ガラは観客となって留まった。
兎人の舞姫が一礼をすると、拍手喝采口笛乱吹の嵐。
それを落ち着かせるためか、舞姫はそそくさと下がり、新たに狼人の男が前に出る。
「やぁやぁ、ありがとうありがとう!皆さん、我が『放蕩一座』が誇る舞姫の艶姿、お楽しみいただけましたかな?いや、結構結構!お楽しみいただけましたようで何よりで御座います。さてさて、観衆の喜びこそ我らにとって最高の報酬では御座いますが、投げ銭無くしてはオマンマの食い上げにございますれば、何卒、皆様の感動の証を頂戴いただきたく思います。それではこちらにお願い致します!」
狼人はステッキ片手に大仰な仕草と陽気な口上で見物料の回収を始めた。その回収に使ったのは、彼の被るシルクハットだ。
無作為に投げ込まれる貨幣を、器用に次々と受け取ってゆく。これもまた、一つの演出であるようだ。
ガラもまた投げ銭をして、自分の用事を思い出して慌てて駆け出した。
「やべっ!?宿あるか?!」
その後ろ姿を、舞姫が冷めた目で見ていた。