プロローグ
かつて七十二の魔宮全てを踏破したただ一人の男。
『冒険王』アド。
彼が引退の際に放った一言が、世界中の人々を魔宮へと駆り立てた。
「俺の強さの秘訣か。知りたきゃ教えてやろう!魔宮を踏破しろ!この世の真理がそこにはある!」
強者達は、魔宮を目指し、夢を追い続ける。
世は正に、大冒険時代!
……
辺境の村カーボネック。そこには、三人の孤児がいた。
「俺たちは兄妹だ。何があってもこの絆は、絶対に失われたりしない」
最も年長の男児が力強く宣言する。
「あぁ、そうだ。僕らは絶対に裏切らない」
次いで、小柄な男児がそれに追随する。
「私たちはずっと一緒にいる」
最後に、最も年少な女児が純粋な願いを口にする。
それは、何処にでもあるありふれた日常の光景。幼き子どもたちによる微笑ましい約束。
だが、彼らの未来に待ち受ける運命は、その約束を果たせぬ苛酷な旅路であることを、まだ誰も知らない。
……
カーボネック近くの森。
「ベティ……?腕が?」
「なぁに!お前を守れたなら、腕の一本や二本安いもんさ!いや、二本は勘弁な!剣も振れなくなる!」
森に迷い込んだ少年を、村に滞在していた冒険者の男が救っていた。
運悪く凶暴な魔獣に襲われ、ベティと呼ばれた男は少年を庇って片腕を奪われてしまった。ベティは、少年が罪悪感に押し潰されないよう、敢えて陽気に振る舞った。
「まぁ、取り敢えず、失せろや畜生」
先ほどと打って変わり、驚くほど強く低い声。
ベティの登場で警戒して佇んでいた黒い魔獣が、ゆっくりと後退りしそのまま去っていった。
「ごめん、ベティ、俺……」
「泣くなよ、ガラ。男だろ。そうだ!良いことを思いついた!俺の盾、お前にやるよ。どうだ、嬉しいだろう?」
ポロポロと涙を流し少年ガラが、必死に謝罪の言葉を口にする。それを宥めるために、ベティは自身の盾をくれてやると言った。
それを聞いてガラは、泣きながら笑った。
「ありがとう、ベティ。俺、俺!強くなるから!絶対絶対強くなる!もう二度と誰かが傷つかないように!そんで、ベティの盾になる!」
「おっと、俺の盾になろうなんて百年早いぜ!いいか、ガラ?お前はお前の道を行け!その盾は餞別だ」
尚も罪悪感で縛られているガラに、ベティは何処までも陽気に語りかける。
「でも……」
「でもじゃねぇ。ガキが大人に気をつかうな!ガキはガキらしく、冒険王になるとでも言っておけ!」
「うん、わかった。俺、冒険王になるよ!」
「はは!やっとわかったか!そうだ!男なら夢はでっかく描くもんだ!」
ベティが大声で笑った。それに続けて、ガラも大声で笑った。
暗く静かな森の中、二人の笑い声だけが響いていた。
ちょっとやり過ぎ疑惑も出そうですが、一先ず書き溜めたところまでの内容とともに判断してほしいです。