A氏の冒険6日目
A氏は、マジックアイテムを買うことにした。
A氏は、先日の仕事でもらった報酬で、魔法武器を買うことに決めていた。
ギルドの支払いも良かった。
いつもグチャグチャ言って報酬の支払いを渋るギルドマスターも、今回は上機嫌で報酬を渡してくれた。
王都からの依頼達成で、ギルドマスターとしての株も上がったのだろう。
報酬がいくら中抜きされているのかは、A氏は知らない。
危険度に比して報酬も上がるはずだが、わりと危ない仕事でも、報酬が安いことがある。
どう見ても、この渋チンのドワーフのギルドマスターがだいぶ報酬を抜いているんだが、今回はまぁそういうことはいい。
※
さて、武器屋か魔法具屋か。
古道具屋という手もあるな。
いわゆるマジックアイテムは、おしなべて高価だ。
まれに、古道具屋なんかで、安くマジックアイテムが売られていることがあるが、だいたいは訳あり品だ。
未鑑定だとか、呪いが付いているとか、都合の悪い効果が付いているとか。
一生外せないネックレスなんか買った日には、最悪だ。
わずかな食物で生きていけるようになったり、怪我がいつもの10倍の速度で治ったり、そうした異常な加護のあるアイテムは、たいてい異常な呪いも付いている。
いわゆる異常物品というわけだ。
都合のいいことばかりではない。
※
A氏は、今回、店を何軒か見て回って、
魔法の短剣を買うことにした。
鑑定は済んでいる品を選ぶ。
付呪は、「戦闘中、この短剣で付いた傷は、僅かな傷でも中程度の出血を続ける」というものだ。
「中程度」いうのは、ドクドクと血が流れ続けるというものだ。
これが「軽い程度」なら、包帯から血がにじむ程度、「大量に」なら、動脈を切ったときに血が噴き出すようなイメージだ。
中程度くらいが程よい。
モンスターに手傷を何箇所か負わせれば、こちらが生きていれば、あとは粘り勝てるわけだ。
間違っても料理にこの短剣は使えない。
ちょっと手を切っただけでも、呪いを解くまえに死んでしまうだろう。
取り扱いには細心の注意をしなくては。
A氏にしてみれば、初めてのマジックアイテムだ。
今まで、A氏は生きていくのに精一杯で、こんな高価なアイテムを買う余裕はなかった。
ダンジョンの主を征伐するのは、一般にものすごく危険な仕事だが、今回は腕利きが揃っていて助かった。
魔法具屋に、金を払う前に、魔法具屋が魔法の短剣の点検をしている。
付呪の名前は「中出血」らしい。
中出血の短剣か………
セコい戦い方の多い自分にはぴったりの武器だとA氏は思う。
……魔法具屋が「あっ!」と小さな声を上げた。
どうも手を切ったらしい。
みるみるうちに、机の上が血で染まる。
A氏は、代金を机に置くと、魔法の短剣ひっつかみ、店を出る。
魔法具屋は、手拭いで指を巻くと、解呪屋への方向へと走っていった。