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A氏の冒険  作者: バナナウンコ
2/6

A氏の冒険2日目

A氏は、目的地にたどりついた。

A氏は、墓地に辿り着いた。

墓地といっても、これはいわゆるカタコンペと呼ばれる地下墓地で、地上1階、地下1階の簡素なものだ。

冒険者ギルドから請け負った仕事は、「墓所の定期清掃」であった。

この世界では、病気や怪我で亡くなった人は、棺に入れて、埋葬する。

地下墓地に埋葬するのだが、ときおり、旅の魔術師が悪さをしたり、空気に漂う魔素がひょんなことから死体に乗り移って、動く死体が蘇ってくるのだ。

いわゆる、アンデッドだ。

アンデッドは、たちが悪い。

魔素を燃料に動いているので、ほぼ無限に動く。

魔素は、空気中にふわふわ漂っていて、魔物は、魔素を自然に体に取り込んでいく。

死なないってだけでもたちがわるいのに、そのうえ、人に襲い掛かり、人を食らう。

墓参りに来た遺族が行方不明になるのは、だいたいアンデッドの仕業だ。

そんなアンデッドたちにも、弱点はある。

一般的には、祝福と、聖水だ。

高位の司祭が祝福をかければ、彼らアンデッドの体は1発で雲散霧消するし、聖水を掛ければ溶けていく。

ただ、そんな高位の聖職者は常に多忙で、こんな地方の地下墓地なんかに行っている暇はない。

勇者のパーティに入って、魔王相手に戦ったり、堕落した聖職者が大量に産み出したアンデッドを聖なる祝福で塵に変えていくのが、彼らの仕事だ。

そして聖水は、とにかく高価だ。

アンデッドを溶かすほど強力に祝福された聖水は、病気や怪我も治すし、瘴気に満ちた毒の沼地ですら豊かな大地に早変わりさせる。

最近は、教会の連中も、冒険者の足元を見て、安価な聖水を売ってくれなくなってきた。

A氏が請け負った「墓地の定期清掃」とは、言い換えれば、「墓地で蘇ってきたアンデッドをすべて始末しろ」ということだ。

高位の聖職者に多額の寄付をしたり、聖水を大量に買う金のない村などが、冒険ギルドにこうした仕事を依頼する。

A氏ら冒険者の命の値段は、聖水以下というわけだ……





A氏が地下墓地に入り、ランタンの灯りを頼りに進んでいくと、とりおり、なにかを引きずるような音が聞こえた。

アンデッドだ。

A氏は、あくまで静かに、音を立てないように細心の注意を払いながら、音がする方向に向かってみる。

アンデッドは、音に反応する。

足音を立てたり、鎧がカチャカチャ音を立てたりすると、とたんにアンデッドどもは集まってくる。

くしゃみなんかは、最悪だ。

アンデッド1匹1匹は、動きものろいし、連中に戦術もクソもない。

ただ生者に近づき、噛みつき、しがみつくだけだ。

ただ、アンデッドには諦めるという概念がない。

数体に掴まれると、もうおしまいだ。

だから、とにかく静かに、ゆっくりと進むしかない。

地下墓地の中を、ガレキにつまづかないように気をつけながら進んでいくと、A氏は、茶色く変色したワンピースのようなものを着ているアンデッドを見つけた。

よく目をこらすと、他にも数体いるようだ。

A氏は、ポケットに入れていたねじまき式の懐中時計を取り出す。

中古市で買ってきたもので、ねじを巻くと、途端にジリジリと目覚ましが鳴り出す代物だ。

はっきり言って、目覚まし時計としては不良品だ。

だが、それがいい。

A氏は、時計のねじを巻くと、地下墓地に転がっている壺に時計を放り込み、地下墓地に転がるガレキの隅に、身を隠した。

途端に、壺の中から大音量でジリジリジリジリとこの世の終わりのような目覚ましの音が鳴り出した。

ぼーっとしていたアンデッドたちは、その音に即座に反応し、壺に向かって進み出す。

アンデッドの歩みは、笑ってしまうほどゆっくりで、足元のガレキにつまずいてこける奴もいる。

A氏は、若干の焦りを感じながらも、ポケットをまさぐり、ランタンに注ぎ足すための油を取り出した。

A氏は、冒険者の習いで、ほんの少しだが魔術が使える。

ランタンに火をつける程度の着火の呪文だが、この場合、それで十分だ。

アンデッドの弱点は、一般的には、祝福と聖水と言われている。

A氏に言わせれば、アンデッドの弱点は、油と火だ。

アンデッドは、頭から油をかけて、バーベキューにすればいい。

こんな安価な解決策はほかにない。

だが、それが世間に認められると、聖職者たちはおまんまの食い上げだ。

A氏のやっている解決策は、世の中に知られてはならない方法だ。

だから、A氏は、今日も1人だ。





壺に群がっているアンデッドたちに近づいたA氏は、彼らの頭から、油をぶっかけると、速やかに着火の呪文を唱え、彼らの頭に火花を降らせた。

アンデッドたちの頭は、ロウソクの芯のように、ボーボーと音を立てながら、勢いよく燃え始める。

A氏は、ほかに近寄ってくるアンデッドがいないかどうか、周囲に注意を払いながら、アンデッドたちが火柱となるのを眺めている。

アンデッドの取り込んでいる魔素が、可燃剤として働いているのだろうか。

本来は、腐って湿ったドロドロの死体は、そう簡単に燃えるものではないはずだ。

アンデッドの体の燃焼について本でも書いたら、ベストセラー作家にでもなれるだろうか。

そんなとりとめのないことを考えていると、燃えているアンデッドのうち1体が、A氏にふらふらと近づいてきた。

動きからして、A氏のことを感知して近づいてきたのではないだろう。

ただの反射のようなものだ。

A氏は、腰に提げていた手斧を右手に持ち替えると、アンデッドの進行方向からややそれた位置に移動する。

アンデッドが、A氏のいた位置をちょうど通り過ぎる頃、A氏は手斧を思い切りアンデッドのうなじめがけて振り降ろした。

パチュン、と音を立てて、アンデッドの首は飛んでいった。

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